26-6 最強の敵参戦!!


 美月の部屋は2年前と、打って変わって本で溢れ帰っていた。

「す、凄いな……」


 2年前は、普通に本棚に児童書や、マンガ、ラノベ、絵本、図鑑、まあ少なく無かったが、子供が読む本が普通にあったのに、今は本棚の数が更に増え、中身もファッション誌から、古典文学、政治・経済、辞書、辞典、六法全書、趣味娯楽、もうなんでもある……極めつけは某有名国立大の赤本まで……


「えっと、分かって読んでるの?これ全部」

 俺は赤本を取り出し、ページをパラッと捲る、えっと答えや問題以前に、教科がわからない……


「えーー全部なんて読めないよーーー」


「あはははそりゃそうだよな」

 ああ、あるある、読めもしないのに英語の原書とか部屋に置いてる奴いるよな~、俺の本棚にもハリー・○ッターの原書が……


「半分くらいしか理解出来ないの、全然だよお兄ちゃま」

 美月は落ち込み、肩を落としてうなだれている……


 六法全書や赤本を半分理解している小学4年生って……


 美智瑠は首席入学、妹は進学校余裕で合格、美月はこれ、俺の周りは天才だらけなのか? ああ、麻紗美はそこまでじゃなかった気がする、麻紗美はやっぱり俺の心のオアシスだな。


「お兄ちゃま、髪すいて~~」

 美月が俺にブラシを渡して、ベットに座る

 俺もベットに座り、美月の髪をすく


「本当に長いなー」

 そして、美しい、美月は多分お風呂の時も今も、自分の髪を俺に見せつけているんだろう、もっと触って、もっと誉めてと……



「ねえお兄ちゃま、栞姉ちゃま……綺麗だったね」


「え!?」

 何が?


「お風呂での栞姉ちゃま綺麗だった……」


「…………」

 えっと、記憶から削除してるので覚えてません……


「美月ね、頑張ったんだ、でも栞姉ちゃまには全然敵わない……」


「ゲーム勝ったじゃないか」

 髪をすく手を止めずに美月にそう言うと美月はこちらを振り向きちょっと怖い表情で俺を見つめる。


「あんなの、あんなの勝ったうちになんかならない、それさえも引き分けだったし……」

 何をそんなに思い詰めているのか、そしてなぜそこまで妹をライバル視するのか俺にはさっぱりわからなかった……


「美月は、まだ小学生だろ、栞の小学生の時より凄いと思うぞ」

 妹の小学生の時って、今ほど凄いって感覚はなかった、俺の中では本当に普通の小学生、普通の妹だった。


「ふーーーん、お兄ちゃまは、栞姉ちゃまの事、あまりわかってないんだね~~」

 途端に美月が笑顔になる、何でだ?


「俺が栞をわかってない?」

 まあ、昔はわかってなかったけど、今はそれなりに理解しているつもりだったんだけど……


「うん!、全然わかってないよ~~」

 そう言うとまた横を向いて髪をこちらに向ける。

 俺は止まった手を再開させつつ美月に聞く。


「美月はわかるの?」

 そう聞くと、美月は嬉しそうに身体を左右に振り始める


「お兄ちゃまよりはわかってるかな~~えへへへ、美月もっと頑張れば、追い付けるかな~~」


「追い付くって栞の何に?」


「えーーーー?、うーーーん、教えてあげない!、よし!もっとがんばるぞい」

 美月が小さく両手でガッツポーズをする。


「じゃあ、お兄ちゃま、寝るよ~~」


「あ、うん」

 そう言えばベットの横に布団が置いてあるけど、俺12時になったら妹の所に行くって言ってるし、横で寝る意味無いな。


「じゃあ、添い寝してねお兄ちゃま」


「…………は?」


「えーーだって美月を寝かしつけてくれるんでしょ、子供を寝かしつけるのに添い寝は普通でしょ?」


「いやいやいやいや」

 また始まったぞ、美月の口撃が


「えーーー美月まだ子供だから~~子守唄歌ってくれないと寝れないの~~」

 なんだ、妹そっくりのこの口に指を当て上目遣いをする、あざと可愛いポーズは


「くっ……」

 さっき子供は早く寝なさいの反撃か……


「俺歌苦手だから、寝れなくなっちゃうよ~~」


「えっとね、じゃあピロートークでもいいよ~~」


「ぴ、ピロートークって」


「寝物語でもー、睦言でもいいよ~~」


「いやいやいやいや、しないから」


「じゃあ、何でもいいからお話しして」


「いやそれは良いけど、添い寝は」

 いやだから、また逮捕される可能性が……


「じゃあ寝ないよ~~朝までこのまだよ~~、美月的にはそれの方が楽しいかも~~」


「いや、でも12時になったら客間に行くって……」


「えーーー、だってさっきお兄ちゃま、寝るまで一緒にいてくれるって言ったよね~~言ったよね~~」


「あ!」

 言ってるし俺


「はーーい、どうぞ~~」

 美月はベットに寝て掛け布団を捲る、安曇野は真夏でも夜は20度を切るほど涼しい日もあるので、布団をかけないと少し寒い


「ううう、じゃあ添い寝だからな、俺に寄るな触れるなBANが怖い」

 妹や叔母に見られたら刺されるんじゃない?


「うわーー、お兄ちゃま結構まつげ長い~~ラクダさんみたい」

 美月は枕に頭を乗せ、俺を見つめる。


「ラクダって……」

 いやそこまで長かったら付け睫だろ……

 布団からか、美月からか、ミルクの様な甘い匂いが漂う。

 俺はロリじゃない、俺はロリじゃない大事なので2回言った。


「明日は3人でデートだねえ」


「明日は仲良くしてくれよ」

 今日の騒ぎのままで、歩くのは正直きついぞ。


「うーーーん、そうだねえ、栞姉ちゃまちょっと過大評価してたから、少しくらい手を抜いてもいいかもね~~」


「過大評価ねえ……」

 手を抜くって、何にだかわからんが、まあ仲良くしてくれるなら何でもいいか……


「少し安心しちゃった~~もうとっくにだと思ってた~~」


「とっくに?」


「うん!美月が大人になるまで、そのままのお兄ちゃま達でいてね~~」


 美月が何を言っているのかさっぱりワケガワカラナイヨ


 その後、美月とたわいもない話しをしていると、昨日から俺たちが来る事を楽しみにしてたあまり寝れなかったらしく、本当に小さい子どものようにカクンと寝てしまった。


 俺はベットからそっと降り、電気を消して美月の部屋から出る。


 約束通り、いつも寝ていた客間に行くと、妹も待ちくたびれたのか、布団に入ってすでに寝ていた。

 いや、どうでも良いけど、枕を自分の布団に2つ並べるのはやめてくれ。


 俺はたたんである布団をそっと敷き、寝転がって天井を見つめる。


 頭の中に今日のあの姿が浮かんでしまい、隣から聞こえて来る妹の寝息に、いつもと違う妹へのよくわからない感情、感覚が俺の中で芽生えていた。



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