14-5 二人きりの夜


 二人共にパスタを頼み、しばしディナーを楽しむ。


「お兄ちゃん、あーーーーん」

 妹はフォークに少し巻いたパスタを、俺の前に差し出す。


「いや、やらないから」

 ほらそこの店員が、ちらちら見てるだろ。


「えーーーーー」

「いや、えーーーーじゃないし」


 そういうのは、家でだけにしてくれ、やった事ないけど

 そして、さっきの事でふと思い妹に聞いてみた。


「栞、さっき苺に聞かれて、おれの事言ったじゃない?」

 敢えて肝心な所は、ぼかして言うも妹は平然と

「好きですって?」


「いや、恥ずかしいからぼかしたのに…」

「私は全然恥ずかしくないよ、お兄ちゃん大好き!」

「言われる方が恥ずかしいんだよ」

「そうなの?じゃあ言ってみて」


「…………、いえるかーーー!」

「えーーーーー言ってよーーー」

 危なくまた引っかかる所だった。


「いやそうじゃなくてな、仮にだよ、仮に友達から俺の事好きなのって聞かれたらどうするんだ?」

「え?好きだけど?って答えるよ」

「まじか…平気なのかな?」

 まあ、恋愛っていう意味で?って聞くかどうかだろうなー


「うーーんどうだろ、でも嘘ついてもねー、好きなものは好きだからしょうがないよ、お兄ちゃん」

 だから照れるからもうやめて、お腹一杯


「実際に言われてみないと、この先どうなるかわからないか…、後は野となれ山となれだな」


 そういうと妹が微妙な顔に、あれ?なんか俺へんな事言った?


「お兄ちゃんそれはちょっと使い方が間違えてる気が…」

「え?そうなの?」

 え?何?、おれ本ばっかり読んでるから、それなりに知っていると思ってるんだけど。


「うん、それは自分のやるべき事はやったので、後はどうなるかわからないって時に使う言葉だよ」

「たぶんお兄ちゃんが言いたい事は、言われるかどうか、私たちがこの先どうなるか、仮に言われた時、それを答える事によって、私達が幸福か不幸になるかわからないって意味だよね?」


「あ、うん、そうかな?」


「そうしたら、人生どうなるかわからないって事だから、うーーん例えば人間万事塞翁が馬とか、禍福は糾える縄の如しとかって意味かな?」


「禍福?」


「うん、かふくはあざなえるなわのごとし、幸福と不幸は表裏一体、より合わせた縄のように交互に変化しながらやってくるぞってことわざ」


「へーーーーーそれは知らなかった」


 人間は知ってるけどね、確か、幸か不幸かは予測できない、仮に今不幸だとしても、それは将来の幸福かもしれないって意味だったはず……


「よし!お兄ちゃん、早く食べて帰ろう、数学と国語も教えてあげるーーー!えへへ一緒にいる時間が増える」

 妹は勢いよく残りのパスタを食べ始めた。


 国語でも負けるか、もういやこの妹…





 ###



 ようやく家につき、正直もう寝たいーと思ったが、まあ勉強とは言え両親が居る中、あまり妹が俺の部屋に入り浸るってのも出来ないし、やはりこのチャンスを生かして妹から教わらなければ。


「じゃあ、お兄ちゃん私着替えてから、お部屋行くからねー」


「ほーーい、部屋で待ってるよ」


 そう言って自分の部屋に入る妹を見送り、とりあえず俺も着替えるかと、自分の部屋に入り黒のスエット上下に着替え、テーブルを出し数学の教科書を置いて待っていた。


 待つこと十数分、コンコンとノックがなったので

「はーーい」と答えると妹が入ってくる!!!


「わーーーお兄ちゃんのお部屋だ、えへへへへ」


「いや、栞いつも勝手に入ってるだろ白々しい、ってそうじゃない、その恰好はなんですか?」


「え?これ?教師スタイル?」


 妹は、赤色のだてメガネに胸元が開いた白いシャツ、黒のタイトスカートに、黒のストッキング姿で入ってくる。

「は?なんでわざわざそんな恰好に?」


「うーーーん、気分?あとお兄ちゃんが好きそうだから」


「いや、勝手に好きそうとか言われても」


「えーーだってここにいー」と言いながら妹はベットの脇に座り、手をベットのマットレスの間に


「まったーー!わかった!、はい好きです、その恰好最高!さあ勉強教えてくれ!」

 そう言うとにっこり笑った妹は、俺の隣に座り教科書をめくる

 胸元が見えるからあまり寄らないでーー、てか何故横に?


「じゃあお兄ちゃんどこが分からないの?、なんでも教えて、あ、げ、る」


「勘弁してください栞さん」

 妹、悪乗りである。


 気を取り直し、とりあえずこの辺と教科書をなんとなく指さすと、妹は素早くノートを取り出し、さらさらっと問題を3問程書く


 いや、お前そんなさらさらっとやってるけど何その技術?


「じゃあお兄ちゃんこれ解いて」


「えーーーまじでか」

 ただでさえあまり得意ではない数学、いきなり問題をやれと言われても


 うーーん解けない、てか分からない、と俺の悩んでいる姿を見た妹が突然


「よし分かったお兄ちゃん!因数分解からやろう!こういうのは、かなり戻ってやり直した方が早いよ」

「え?いやさすがにそれはって…え?」


 そう言い立ち上がった妹は、すたすたの俺の机に行き、迷いもせずに中学の時の数学の教科書を取り出す。


「さあ、ここからやろう!お兄ちゃん」

「え?いや、なんで教科書を迷わずに取り出せる?いつもそこまで見てるの?こわっ」


「私は、お兄ちゃんの事ならなんでも分かるの!いいからやるよ!」


「え?いや、まって」


「大丈夫、まだまだ時間はたっぷりあるから」

 にやりと笑う妹、いや目が笑ってないから


「夜明けのコーヒー飲もうねお兄ちゃん」


「え?朝までに寝るんじゃないの?何で夜明けにコーヒー飲んじゃうの?いつまでやるの?」


「はい、じゃあここからやって、私、今問題百問くらい作るから」




 いやああああ、たすけてえええええええ


 こうして、母親が帰って来る昼近くまで、妹とたっぷり、二人きりの時間を過ごした……




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