14-4 二人きりの夜


 ボーリング場を後に、今度は本当に夜の散歩

 気温は下がり若干の寒気を感じる。

 妹は行きと同様に俺の腕を掴み、体を寄せる様にして一緒に歩く。

「はーーーたのしかったーー」


「そうか、まあ面白かったな」

 まあ、色々あったけど、妹とのデート?は楽しい


「うん、もっと色々お兄ちゃんと遊びたい!」

「でも帰ったら勉強もしないと」

「うん、まかせて」


「そう言えば腹減ったな、何か食べて帰るか」

「え、作るよ私」

「まあ、でも結構歩いて疲れただろ、今日は食べて帰ろう」

「はーーい、ありがとう、お兄ちゃんと夜のレストランでお食事やったー」

「いや、ファミレスだから、そんな店もお金もないし」


 帰り道の途中にある、パスタチェーン店に入る。

 いつもあまり混んでいない店、今日もお客はチラホラという状態だった。

 窓際の席に案内され、今歩いてきた道を眺めながら座る。

 ふと視線を感じ隣を見ると、知り合いが座っていた。


「あーーー栞お姉ちゃんと裕お兄ちゃん」

「あ、苺ちゃん」


 隣の席でドリンクを飲みながら、ノートを眺めている佐久本 苺が座っていた。


 苺は近所に住む中学生で、黒髪ロングの流れるようなストレート、前髪をハートの髪飾りで止めている。

 身長は妹よりやや低めで、やせ形、妹と一緒でその趣味の方に好かれそうな体型、顔はくっきり二重だが少し眠たそうな目に、アヒル口の可愛い系


 苺は子供の頃から栞に非常に憧れており、妹に出来るだけ近づきたいと、髪型から仕草まで色々真似をしている。昔から家ではミニ栞と呼ばれていた。


「苺ちゃん勉強?偉いね」

「はい!家だと弟が居て集中できなかったので、ここでやってました、私、栞お姉ちゃん目指してますから!」


 苺は中学3年だったはず、同じ中間試験かと思ったが、栞を目指して勉強してるという言葉に、引っ掛かりを覚えたので聞いてみた。

「苺って中学3年だよな、もう受験勉強?」

「はい!栞お姉ちゃん目指してますから、進学校に合格して、そこを蹴って、栞お姉ちゃんと裕お兄ちゃんと同じ高校に行きます!」

 妹目指すって、そこ目指してどうする?。


「いや無駄な事は止めような」

 俺がそう諭すと


「えーー栞おねえちゃは、何か深い意味があって両方受けたのかなって、だから私も栞お姉ちゃんと同じ様に、両方受験して絶対両方合格してみせます!」


「あ、あのね苺ちゃん、えっとそんな深い訳では…」

 前にも言ったがあまりに成績が良い妹は、中学の担任に受けるだけでもと散々言われ、まあ受けるだけならと受けると軽々合格、だが、やはり当初から言っている俺と同じ今の高校に通うといった為、校長以下学校で散々説得されるも意思は変わらなかった。


 ちなみに妹は、当時俺に対する気持ちを隠していたので

『家から近いからやっぱりお兄ちゃんと同じ高校にするね』

 と軽く言っていた。


「え!そうなんですか?じゃあなんで進学校いかなかったんですか?」


「えーーーーっと」

 妹が俺の顔を見た後、隠しもせずに言い出した。


「お兄ちゃんと、どうしても同じ高校に行きたかったからです!」


 ええええええええ

 言っちゃう?それ言っちゃうの?家が近かったからでいいじゃん!

 苺はポカンとした顔で妹を見ている。


「栞お姉ちゃん、裕お兄ちゃんの事好きなんですか?」


「うん大好きだよ」


「………」

 苺が黙る、俺も黙る、みんな黙る


 そして苺が沈黙を破るかの如く言った。


「栞お姉ちゃんすごいです、お兄ちゃんの事を好きって言えるって、うらやましいです、私も弟を好きって言いたいです」


「苺の弟っていくつだっけ?」


「はい!いま小学校2年生です」


「兄妹愛って、言うの恥ずかしいですよね、私も弟大好きだけどあまり好きって言えないから反省します」

「やっぱり栞お姉ちゃんはすごいです、私も見習って弟の事好きって言えるようにがんばります、そして栞お姉ちゃんの様に、裕お兄ちゃんの事をもっと好きになります!」


「あ!もうこんな時間、帰らないと怒られちゃう、じゃあ、栞お姉ちゃん、裕お兄ちゃんバイバイ」


「ああ、バイバイ」

 苺は残っていたドリンクを、ズズッと一気に吸い上げ、手早く回りを片付け席を立った。


 何度も振り返り手を振る苺に、二人で手を振り見送る妹と俺、苺が外に出ると顔を合わせる。


「栞お前、なんて事言ってるんだ、ばれたらどうする?」


「ばれるって?」

 妹はキョトンとした顔で首をかしげる。


「え?俺と付き合ってるとか」

「でも今は兄妹としてなんでしょ?」


「あ、まあそうだな」

「じゃあ、問題ないよね」

 いや、ありありだと思うけど……


「お兄ちゃんの言いたい事も分かってる、でも私はもう、お兄ちゃんの事で嘘は付きたくない、だから正直に言ったの、お兄ちゃんの事が好きですって」

 妹は真っすぐ俺を見ている、それは妹の覚悟と本気を物語っていた。


 俺は、この真剣さの緊張をはぐらかす為に、ちょっと妹をいじめてみた。


「あーー、でもさっきプリクラで、お姫様抱っこしなきゃいけない様な言い方をして俺を騙したよなーー」

 そう言う意味での嘘ではない、と言うことは百も承知で、ちょっと怒った振りをして妹に意地悪く問いかける。


「え!あれは騙したって訳じゃなくて、えーっと私がやって欲しかったっていう

 か、そ、そうじゃなくってその前に、嘘っていうのは自分に嘘を付きたくないって意味で」

 妹はアワアワしながら、しどろもどろに説明し出した。


 俺はその姿を見てクスクス笑い初めてしまう。


「あーーーお兄ちゃん騙したーー!」


「はは、ごめんごめんさっきの仕返し」

「もうーーーひどいーー本気で怒ったのかと思ったーー」


 ちょっとすねた後二人で顔を合わせケラケラ笑いだす。



 二人で笑っていると、後ろから唐突に声をかけられた。




「あのーーーお客様、そろそろご注文を」



 あ!まだ注文していなかった。

「す、すいませんすぐに決めます」

 俺と妹はあわててメニューを見始めた。





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