12 ラブレター


 中間試験を間近に控え、授業が終わるとこぞって妹の回りに人が集まる。

 昼休みも、俺と妹が弁当を食べ終わるのを見計らって、妹にテストの質問に来たりする。


 進学校に合格する学力がある妹なので、みんなこぞって聞きに行っている。

 中学の時から、俺も家で教えて貰いたかったが、数少ない兄のプライドとして控えている。


 昼休みといえば、最近何故か俺と妹との邪魔をしないような空気を感じる。

 登下校も声をかけては来るが、俺を押し退け妹と話す様な事はあまりせず、そのまま素通りするものが多い。


 昼も同様で、妹をご飯に誘う事が殆ど無くなっていた。

 しかも、何故か妹ではなく、お昼に麻紗美を誘う女子グループもチラホラいる。



 麻紗美、友達出来て良かったな、裏切り物……



 ちなみに、男女比率は女子が高めの当校にも一応男子はいる。

 いるにはいるが、残念東出を含めた男子は、すっかりモブと化している。


 理由は、うちのクラスも女子が多い上に、妹のせいで団結力が非常に強く、男子の影がすっかり薄くなっている為なんだが。


 放課後、いつもの様に妹と下校、下駄箱で靴を取り出し履き替えようと下を向いていると、一枚の封筒がヒラリと目の前に落ちてきた。

 ん?果たし状?

 にしては綺麗な封筒だなーと思って見ていた所、頭の上から妹が一言


「うわーーー久しぶりに来たー」


 久しぶり?

 俺の斜め上の下駄箱から靴を取り出していた妹が、その手紙を眺めている。


「これは?」

 俺がその手紙を手に取り、妹に渡しながらたずねる。


「たぶんラブレターかな?」


「へえええ」

 今時ラブレターですか…


「たぶん?」

 妹はちょっと困った顔でその手紙を眺めていた。




 最近は帰りに邪魔されない為、家に帰りながら話を続けた。


 妹は俺の横でラブレターらしき物をカバンにしまいながら話す。

「ラブレターは久しぶりかなー?こういうのは大体メールとかラインとかだから」


「メール?とかって…教えるの?」


「うん聞かれたら教えるよ」


「男子にも?」


「うん、あーーーお兄ちゃん妬いてる?」

 妹は、嬉しそうにこちらを見上げる


「ちょっと?」

 俺は正直に親指と人差し指の間を小さく開いて見せた。


「えへへへへ、私告白は全部断るから、中3の時は殆ど聞かれなくなったなー、でもメールで告白って駄目だよねーやっぱり本気が伝わらない」


「じゃあラブレターは?」


「うーーんギリ駄目かな?」

 駄目ですか……昔書いたことあります……


「告白するなら相手の目を見て、真剣に伝えれば必ず伝わる!ソースは私、ね、お兄ちゃん。」


 妹は、前に一歩出てこちらを振り返り、満面な笑みを浮かべる。





 そして、自宅リビングでのIHTT いつもの放課後ティータイムに突入し話を続ける。


「そういえば、お兄ちゃんってラブレターとか書いた事あるの?」


「え?な、な、なんで?」


「さっきラブレターギリ駄目って言ったら微妙な顔してたから」


「あーー、ばれたか、一度書いたことあるなー」


「え!ほんとに…」

 ずーーーんとへこむ妹、なんだよ分かってて聞いたんじゃねえのかよ。


「小学校の時だよ、もうよく覚えてないくらい前」


「ふーーーーーーん」

 疑いの目で見る妹。


「本当だよ、本当」


「全然覚えてないの?」

 まだ聞くのかよ、仕方ないなと思い出す。


「えーーーっと、小学校3年の時だっけかな?、ほんとうろ覚えなんだけど、家の近くの公園で遊んでた時に足に怪我をして泣いてたんだよな~確か」


 俺はうろ覚えの記憶を探り探り思い出す。


「そしたら中学か、高校生かな、制服きた女の人が、すごく優しく助けてくれたんだ、母さんに言ったらお礼言わないといけないねって言ったから、お礼の手紙を書こうとしたら、ラブレターみたいになっちゃって、でも書いたんだから見せたくなってさ、小説書いたら、なろうに投稿したくなるように」


「いやお兄ちゃん、それは意味がわからない」


「で、まあその人の前まで行ったんだけど、やっぱし恥ずかしくなって逃げちゃった」


「えーーーー可愛いーー」


「はははは、まあ小学校の時の話だからねー」


「どんな手紙書いたの?」


「えーーそこまで聞くか?うーーん確か、この間はありがとう、やさしいお姉さんの事が大好きです、しょうらい大きくなったらお嫁さんになってください、的な奴だったかな、いや今考えると恥ずかしい」


「えーーいいなーー、お兄ちゃんのお嫁さんかーお嫁さん、えへへへへへへへえ」



「おーーーい栞もどってこーーい」



 暫く妹を眺めつつコーヒーを飲む、まあいつもの事なんで、そろそろ慣れた。

 5分程で戻ってきた妹は話を続ける。



「で、その人とは?それから会ったの?」

 鋭い目で俺を睨む


「そんな目つきで見られても…、いや多分卒業しちゃったんだろうなー、それからは見なかったよ」


「へーーー、でもこの辺の高校生って言ったら、この学校の卒業生じゃない?」


「あーーーーかもなー」


「昔のアルバムとかに載ってるかもよ」


「いや、中学生だったかも知れないし、制服着てたってだけでもう顔もうろ覚えで、なんかお下げみたいな、今で言うとツインテールみたいな髪だったな確か」

 ふとなんか思い出しそうになったが、妹に続けざまに話され思い出せない。


「お兄ちゃんからのラブレターなら欲しいなー、そのラブレターはどうしたの?」


「ああ、そうそう確か失くしちゃったんだよ、ポケットに入れて持って帰ってきたら無かった」

「住所とか名前とか全部書いてたから、今考えるとまずいよなー」


「へーーーそれがお兄ちゃんの初恋だね」


「そうなのかなー?」



「栞の初恋は?」


「お兄ちゃん!」


 ……即答である。



「それで栞、今日貰ったラブレターどうするの?」


「ああ、あれ?さっき着替えるときチラッと読んだら女の子からだった」


「へーーーなんて書いてあったの?」


「えーーーっとね、言えないかな?まあラブレター?」


「まじか…」


「うんよくある…」


 よくあるんかーーい!


 しかしツインテール…、うーーんなんか何処かで見たような…






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