8-3 妹の本気


 夜討ち朝駆け…、数日経っても妹の行動は変わらなかった。


ただし、分かって来た事もある。


 妹は強引な事、無理な事迄はしないと言う事だ。

例えば昨日の帰り

「お兄ちゃん、ごめんちょっと友達が私に相談したい事があるって言われたから今日は先に帰ってて」


とか


「あ、栞俺忘れ物してきちゃった先に行ってて」

「えーーもうしょうがないなー、遅刻しちゃ駄目だよー」


 なんて時もあり、必ず一緒に居続けようとはしていない。

因みに、妹にあまり嘘はつきたくないので、忘れ物は本当


 それともう一つ、妹では無いが周り、特に朝の登校状況が激変した。

俺から離れよう、俺を離そうとしない妹に遠慮し始めたのか、友達が朝の挨拶をして先に行ったり、後ろから挨拶をして近づいて来ないとか、遠巻きに見守る状態になってきた、まあ空気読めない?娘も居るが、それを拒否もしない。


 そしてその際も会話に俺を交える、俺も友達も孤立させない

俺にとっては異常なコミュ力を見せつける。


……すげえな妹


 そしてお昼、相変わらず俺の席に来て弁当食べる、そして隣の席の麻紗美も誘う。

数日間連続でこの面子なので流石にちょっと慣れて来た。


「ねえねえ麻紗美ちゃん、このハンバーグ手作りしたの食べてみてー」

 妹が弁当のハンバーグを切り分け麻紗美に渡す。


「うん、おいしいいよおお」

 麻紗美がそれを食べ笑顔で感想を言う


「ほんと!やった!」


「私のもお、食べるう?」


「本当!良いの!やった、どれならいい?」


「どれでもーいいよおおお」


「うーーーんじゃあねええ」

 おかず交換会を始める二人。


「おいしいいい、麻紗美ちゃん凄いなーくやしいい」

 笑いながら麻紗美を誉め悔しそうに握った手を上下させる。


「ねえお兄ちゃん麻紗美ちゃんの卵焼きおいしいよー」


「へーー麻紗美の旨いんだ」

 麻紗美をの弁当を見ながら言うと


「た、たべるう?」

恥ずかしそうに弁当差し出す。


「いいの?」

言った瞬間ヤベエと妹を見る。

俺に見られた妹は黒いオーラも無く


「おいしいよーお兄ちゃん」

こっちを見てニコニコしている。


 卵焼きを一切れ貰い食べる


「おーー旨いなーー」

「でしょおお、おいしいよねーー」

 べた褒めする兄妹に照れる麻紗美


 良い雰囲気で、麻紗美にとっては良いことなんだろうなと思うと同時に、焼きもちを焼かない妹と合わせて一抹の寂しさ、不安と焦りを感じていた。



###



 家のリビングでいつもの放課後ティータイム


今日は着替えずに制服、妹は相変わらずニコニコしながら隣で話をしている。


「なあ栞、そろそろ教えてくれない?」


「んーーーー?」


「本当、どうしたんだよ?」

 いくら考えても妹の行動の変化がわからない

嫌われているとは思えないが、俺への気の使い方が変わっているような。


俺の不安な顔を見た妹がようやく話し始める。


「んーーー安心しただけだよ」


「安心?」


「そう、安心」


 なんだか益々意味がわからない


「おれが彼氏じゃなくなって安心したって事?」

 胸がチクリと痛むのを抑えて聞いてみる。


「違うよーー!」

 怒り気味に言うと、妹は俺に身体を向け話し始めた。


「お兄ちゃんがね、俺達は別れられないって言ってくれた事、その言葉に安心したの、今まではね、お兄ちゃんに嫌われたら、お兄ちゃんに好かれる為にはどうすれば言いかってずっと考えてばっかり、友達にも自分の気持ちを知られて、それをお兄ちゃんに知られたらどうしようって」


「私がお兄ちゃんを好きだって言う気持ちを隠して、お兄ちゃんに嫌われ無いようにって自分を作って演技して、でもねそれが苦痛だった訳じゃないの、こうすればお兄ちゃんが好きになってくれるかもって考えるのはとても楽しかった」


「告白して、お兄ちゃんが彼氏になってくれて、私の事を好きで居てくれて、私の我が儘で別れてって言ったら、俺達に別れなんて無いよって言ってくれて、幸せだった」


「だから、今度はお兄ちゃんにちゃんと私を見てもらおうって、いつもの私をみてもらおうって、それでお兄ちゃんに嫌われたら、ショックだけど、でも」


 妹は満面の笑みを浮かべ


「私達は死ぬまで別れられないんだもんね」


「そう思ったらスッキリしちゃった、お兄ちゃんに我儘言えるようになっちゃった」


「しおり…」


「お兄ちゃんと一緒に登校したかっただけ、お兄ちゃんとお昼ご飯を食べたかっただけ、一緒に帰りたかっただけ」


「でも、あまり我儘言って本当に嫌われたら嫌だから、我慢はしてるよ、もっとお兄ちゃんと一緒に居たいとか」


「お兄ちゃんが一番だけど友達も大事だしね」


妹はそう言ってコーヒーを一飲みする。


そして、俺を見つめニッコリ笑う。


「覚悟しててね、お兄ちゃん」


何を覚悟するのか、もっと我儘になるのかそれとも…

















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