第2話 『頭上の真実』

「まずは昨日のあれについて説明しよう。」


 四ノ宮校長により唐突に始まった昨日の現象の説明。そもそもなぜ校長がこんなことを知っているのだろうか。よくよく考えてみれば田中も何かと知っていそうな顔であった。


「昨日空に見えたのは、実際に触れられるものではないんだ。つまり実物の影といったところか。」


 実物の影?何の?と思ったが、後々説明されることを考え聞くのを踏み止める。


「あれは、もう1つ地球が浮かんでいるわけではなく、並行世界の影なんだよ。」


「並行世界?」


 名前は聞いたことがあるが、流石に意味まではよく分からない。そもそもなぜ今そんな言葉が耳から入ってくるのかという理由すらも分からないというのが現状だ。


「"パラレルワールド"と言えば分かるかな?つまり私たちのいるこの世界と交わらず、並行して進むもう1つの世界ということだよ。」


「なるほど…でも何で交わらないのにそんなものが見えているんですか?」


 率直な疑問だ。パラレルワールドの解説と昨日の現象の矛盾にはすぐに気づいた。


「本題はそれなんだよ。」


 ーーまだ本題じゃなかったのか…


 ただでさえ通常の高校生の日常からはぶっ飛んだ話をされたにも関わらず、まだ先があるというのだ。


「はぁー…」と一息ついてから校長は再び話し始めた。周りの静けさと相まって、話の重要さが雰囲気だけで伝わってくる。


「実は昨日の現象は、昨日に限ったことじゃなかったんだよ。君たちの年代が産まれてからも1度あったっけか。」


 --え?


 耳に飛び込んでくる言葉に疑問を覚える。

 昨日以外にもあんなことがあったというのか。それならばもっと公に情報は広がっているはずな上、あんなものが見えたらどこのテレビ番組もあの現象についてのことで引っ張りだこだろう。

 だが当然そんな話は見たことも聞いたこともない。おまけに自分が産まれてからの間にも一度あったというのだ。どれだけ考えても謎は深まるばかりである。


「納得いかないって顔してるな?見たことないって考えてたんじゃないか?当たり前だよ。君たちの記憶を操作して消しているんだからね。」


 ーーーーえ…

 記憶…操作…


 普段なら絶対使わないような信じられない言葉が耳を通り抜ける。



「でも、どうやってそんなこと…記憶を消すなんて脳に直接装置か何かを繋がない限りは……あ!」


 疑問をぶつけている最中に答えは脳裏に浮かんだ。

 脳に直接接続し、視力や聴力までアシストしている機械など、すぐ身近にあるではないか

 。なによりも自分たちが毎日つけているものだ。


「気づいたかな?君たちが首の後ろにつけているH-MCという装置がまさにその役割を果たしているわけだ。」


 校長は一息ついて続けた。

「ただ誤解しないで欲しいのは、ただ君たちの記憶を抹消したくてやっているわけではないんだよ。」


 話を聞くにつれて疑問は増す一方である。

 そもそも記憶を操作する技術はごく最近実用化されたものではあるが、それを個人で使うことなど絶対にできない。犯罪などに悪用されてはいけないため、技術の詳細を伝えられているのは国立の医療機関程度である。

 そんなものをなぜこの学校ができてしまうのか。


 ーー わからない…


 だがそれ以上に、


「でもなんで僕だけが記憶が消えてなくて、今こんなことを説明されているんでしょうか?」


 そもそもの話、なぜ自分だけが記憶が残っていて、周りは消えているのか。そして、なぜ今校長に呼ばれて説明されているのか。そこが最初にして最大の疑問点である。


「あーそれね。まあ順に説明していくけど、簡単に言うと君が特殊な体質だからかな。」


 ーー特殊?どこが…


「例のパラレルワールドからもこちらからも、互いに反対側の世界の人間が仮に自分の世界へ来たとしても、干渉できないよう、つまりその世界に適応できないように、脳に影響を及ぼす電波のようなものが常に飛んでいるんだよ。その影響を受けると、厄介なことに活動は愚か五感をも麻痺させ、記憶も消されてしまうんだよ。」


 さらに続けて、


「 ちなみにこれは自分の世界の人間には影響はないんだ。そして反対側の世界に渡らない限りは影響を受けないんだよ。通常はね…」


 そこまで言うと、校長の表情が突然険しくなる。

 これからいかにも重要なことを話すと言わんばかりに。

 相変わらず静まり返っている辺りの空気が話の雰囲気をより一層重くする。隣に立っている田中も校長同様話の内容は知っているのではあろうが、それでも緊張感のある表情で自分たちの会話を見つめている。


「あのパラレルワールドは、こちらの世界に交わりつつあるんだよ。」


「交わる…?」


「実は極秘に玉城という科学者がパラレルワールドに関しての研究をしていてね。十年くらい前にあちらの世界に繋がるゲートを作り出したんだ。

 もちろん先程の情報は過去に人を送り込んだからこそ分かったものだ。」


 表情1つ変えずに続け、


「その影響で本来絶対に交わらない2つの世界に関係が生まれ、互いに引き寄せあうようになった。」


 --さらっと言うけどそれってとてつもなくすごいことなんじゃ…


 耳を通り抜ける情報のスケールの大きさに、脳の想像も追いつかないほどだ。

 パラレルワールドに繋がるなど、ゲームやアニメの世界でしか見ないようなかなり非現実的なものだ。


 考える時間をくれたのか、しばらく間を置くと校長は再び唇を動かしだした。


「ここで話を戻すとするよ。特殊体質とさっき言ったよね?」


「え、えぇ…」


「実は稀に、あの影響を受けない人間がいるんだ。」


 --つまり俺があっちに行っても記憶が消えたりしないと言うわけか。


 次第に向こうに行けるなどと言う確実に起こり得ないことの妄想に浸り出してしまう。


 --でもまてよ…ならなんでみんなの記憶消されているんだ?


 頭の中で話の流れを自分なりに整理してみる。パラレルワールドの存在、あちらに行った人間は影響を受けて何もできない、稀に影響を受けない体の人間がいる、そしてそれが自分。

 信じがたい状況ばかりで正直頭の整理が追いつかないが、それでもこの中に関係のありそうなことは考える限りない。

 どうせ校長は知っているだろうと仮定し、率直にぶつけてみる。すると、細かい説明と共に返事が返ってくる。


「実は、H-MCの役割は、向こうの電波の微弱なものを思い通りのタイミングで流し、特定の出来事の記憶を消すと同時に、電波への抵抗力を調べるということでもあるんだよ。つまり公からパラレルワールドの存在を隠しつつ、耐性のある人間を見つけ出すという一石二鳥なわけだよ。」


「なるほど…」


 正直話のスケールが大きすぎてもう驚きは無くなってしまったほどだ。


 --あれ?でも今の説明になってたか?


 確かに自分の体質やみんなの記憶を消した理由とH-MCの機能は説明されたが、論点はそこではない。なぜそもそも自分がこんな説明を受けているのかということだ。

 いくら自分が特殊な体質でも、説明しなければいけないという義務はない。


 黙っておけば、「不思議な体験」くらい、下手をすれば、周りの視線が変人を見る目に変わるくらいで済んでしまいそうな話だ。

 おまけに、説明するにしても概要を話すだけでも全然問題などないはずだ。こんなに事細かく説明する必要性はかなり少ないと言える。秘匿するべきH-MCの機能すらも話されたのだから。


 しばらく考えるが、やはり結論は出ない。今は落ち着いて考えてはいるが、なにせ事態が異常すぎるのだ。

 とてつもなく募る疑問が表情にまで現れると、再び校長は口を開きだした。


「色々と混乱するのも当たり前だ。これだけ非現実的なことを一気に話してるんだからね。でも1つそんな君に頼みがあるんだ。」


 --頼み?


 反射的に頭に予想を思い浮かべる。

 情報の秘匿、または記憶の消去など。これほどの話の後だ。なんでもありそうで全くわからない。

 校長は鼻の下あたりで両手を組み、膝をつくと、再び口を開いた。


「片桐くん。あの世界に行って見てはくれないか?」




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 あとがき

 次回からTwitterで募集した新キャラ出していきます!今回はだせませんでした…

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