第1話 『忘却の昨日』

-前書き-

ちなみにこのお話の舞台は2035年ごろの某郊外です。

お話中にH-MCという名前が出て来ますが、これはうなじあたりに装着する機械で、装着者の脳波や心拍数などを測定、転送し続けています。そしてこれは同時に身分証の役割も果たします。測定し続けているその人固有の数値を学校や店の入り口、映画館やテーマパークなら窓口前に設置されているゲートを通ることで瞬間的に照合、認証し、店ならばその店での料金に反映、学校ならばその学生、正式な訪問者であることを証明します。


設定不十分ですが楽しんで読んでいただけると幸いです笑  



--------------------




事態が収束するのは早いものだ。

 あの後避難させられたかと思いきや、直ぐに空は雲ひとつない青空へ、風も収まり、なにより空に見えていた地球も消える始末だ。


 おまけにこんな自体の後だというのにいつも通り律儀にH-MCまで付けさせられて門をくぐる有様だ。そんなに規律が大事なのだろうか。


 ーーーー本当に何がどうなっているのやら…



 大して何かに興味を持つことのない自分が、これほど疑問に思ったりすることは珍しいなと今更だが思う。


 しかし、何かがおかしかったのはここからだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさに、目が覚める。

 反射的に時計を見る。

「AM5:12」

 午前5時過ぎを示すその表示に寝起きとはいえ目を見開く。なにせいつも刻限ギリギリ登校の自分がここまで早く起きたのだ。流石に驚く。


「あ、そうか…」


 昨日起こった謎の現象。こんなことが起こるなど「あり得ない」の一言で片付けられるほどに状況が理解できなかった。

 あれだけのことがあったのだ。寝られているだけでも十分なことだと自分で納得する。


 しばらくゆっくりした後、布団から這い出て、ハンガーに掛けてある制服を強引に引っ張り、着替える。昨日の出来事のおかげで2,3箇所破れている。


 あんなことがあった後とはいえ、通常通りに学校があるとのことだ。


「なんで休みじゃねぇんだよ。」


 そんなことを呟きつつ着替えを済ませた後、階段を下って行く…


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ホームルーム終了15分前、唐突に担任[田中俊彦]によって白い紙が配られる。


「皆さん、昨日何があったか、どんなことが起こったかを鮮明にこの紙に書いてください。」


 ああ、昨日の状況を調査でもするのか。と納得する。

 しかしなぜこんな遅くに?最初にやるべきでは?とも思うが、まあそれはいいだろう。

 だが、周りの反応に多少の違和感を覚える。

 全員が全員辺りを見渡したり、納得できないような顔をしている。


「どうしたんだ?」


 流石に気になり、同じように納得できていないような顔をしている、隣の席の白瀬に聞いてみる。

 返ってきた反応は、信じられないものだった。


「いや、このアンケートってなんのこと言ってるのかなと思ってさ。」


「え?昨日の"アレ"についてだろ?」


「"アレ"?昨日そんな大きい問題なんてあったっけ?」


 ーーーーおいおい嘘だろ…


 一体どうなっているのだろうか。あれだけのことを忘れるはずがなかろう。信じられないが、反応から察するに、周りの奴らも同じようなことを言うに違いない。


 だが、周りの反応よりもまず記憶が鮮明なうちにこれについてしっかりと書かなければ。

 出しっ放しのシャープペンを手に取り、昨日あったことを鮮明に書きだす。


「書き終わりましたか?何も思いつかなかったら空白で結構ですよ。」


 田中まで何を言っているのだろうか。あれだけ昨日張った声で避難指示を出していただろうに。

 そんなことをぼーっと考えていると、いつのまにか机上に置いた紙が田中によって回収されていた。


「 田中の言ったことといい周りの反応といい、まさかクラスメイトは全員昨日のことを忘れている?」


 真偽はわからないが、次第にそんな考えにたどり着く。


 前では田中がパラパラとが音を立てながら回収した紙を1枚ずつ見ている。紙はおそらく空白のものばかりなのだろう。見るペースは次第に早くなり、しまいには一瞬見て次の紙を見るほどに変わっていた。


 しかし、突然眉をしかめ、めくりかけた一枚の紙を見つめて止まった。

 もはや周囲は興味がないと言わんばかりに談笑したり、寝たりしている人しかいない有様だ。

 その時、


「キーンコーンカーンコーン」


 授業終了のチャイムが鳴った。依然として田中は紙を見続けているが、それをいいことにもうクラスメイトたちは続々と立ち上がり、勝手に休み時間に入っている。


「俺もそうしようかな。」


 便乗して休み時間に入ろうとしたその時だ。


「あっ、片桐君、あとで校長室に先生と一緒に来てくれますか?」


「え?」


 思わず考えるより先に声が出てしまった。意味がわからない。なぜよりにもよって校長室に?と当然ながら思う。


「理由はその時に話しますので、取り敢えず放課後来てもらえますか?」


「は、はぁ…」


 よくわからないが、取り敢えず頷いておく。


 しかし、あの紙を見た後に呼ばれたことから考えると、田中が凝視していた一枚の紙は自分のものだろう。

 そう考えると、呼ばれた理由はあの紙に書いたことが関係しているのだろう。


 不安と疑問が募るばかりだ…


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 揃わない足音が誰もいない廊下に響く。

 田中と2人で歩いている状況など、側から見たら問題を起こして呼び出されたと勘違いされてもおかしくない。流石に俯きつつ歩く。


 田中の歩みが止まる。自分も止まり、視線を前に戻すと、目前には入ったこともない見るからに存在感のある校長室のドアがあった。


 ーー今からここに入るのか…


 何だかんだ不安だ。


「それじゃ、片桐君、入りますよ。」

「あ、はい。」


 そう頷くと、田中はコンコンコンとドアをノックする。


「どうぞ。」


 中から声が聞こえる。

 それと同時に田中はドアノブに手をかけ、スライドさせる。そして中に入っていく田中に続き自分も中に入って行く。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「わざわざここまで出向いてもらってすまんね。何しろ例の件で忙しくてここから動けなくてな。」


 集会などで見る限り厳格かと思っていた四ノ宮校長だが、第一声(どうぞを除いて)が謝罪で少し驚く。


「あ、いえいえ…」


 率先して田中が応答する。


「で、片桐君、だったかな。今日ここへ来てもらった理由なんだけど。」


 ーー 一体どんな理由なんだろうか。

 気になり、校長と目を合わせる。


「君、昨日のこと覚えているんだね?」


「え?」


 やはりそれに関しての呼び出しだったか。と思う反面、ますます内容が気になる一方だ。


「昨日のことだよ、ほら、空の。」


「あー、はい。なぜみんな忘れているのかが疑問でならなかったのですが。」


 わざとらしい返事と共に、先程からの疑問をぶつけてみる。


「それはこれから話していくとしよう。まずは昨日のアレについて説明しよう。」


 そこで話された内容は、想像もつかない驚愕するものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る