39話 白に染めろ!運動会!

 目の前にはレーン。周りには同じ様に女子生徒。みんなやる気満々で前を向いている。中にはさっきの私と同じように家族を探してきょろきょろと周りを見渡している娘もいる。可愛い。あ、見つけたのかな、ぶんぶん手を振っている。かぁいい。

 私はというと、既にマイファミリーは見つけているのでわざわざ探す必要もない。ていうか声がするのよ。それもとびっきりでかい声で。


「琴音ー!ファイトー!」

「一位取らねばお昼ないからー!!」

「ママン?!!」


 気持ちの良い応援が聞こえるなーとか思ってたらこれだよ!うちのお母さま修羅だよ!鬼畜だよ!私食べ盛りあるよ!?

 これは何としても一位を取らなければいけない……。私のお昼食を確保するためには絶対に一位でなければならない。お昼ご飯なしで午後の部とか普通に死ねる。sy怪人だった時は不摂生でもなんか大丈夫だったけど、やっぱり今ぐらいの年齢ってとにかくエネルギーを使うのでお昼食べないなんてガス欠して動けなくなってしまう。

 そうなっては私のカッコ良いお姉ちゃん計画が丸つぶれだ。運動会って言えば一年に一回しかないビックイベントの一つなのだ。それはつまりこのカッコ良いお姉ちゃん計画において外すことはできないイベントなのだ。故に昼食抜き、それだけは絶対に阻止しなければならない。


 それによくダイエットガーとか言うけれども、今の年齢でダイエットとか体に毒でしかない。無理にダイエットをしようものなら、必要な肉が落ちていってしまう。そうするとどうなるかと言えば、キュッキュッキュになってしまうわけだ。


 私が目指すのはボンッキュッボンのグラマーで綺麗なお姉さん!そのためには良く食べ、良く運動し、そして淑女らなきゃいけない。


 つまりね。


 お昼抜きって致命的です。


 健全な肉体と健全な魂を保てないのです。


 ていうか私食べるの好きなんです。そんな食べれませんけど。


「負けられない……」


 なので私は一位以外を取ることは許されない。事前調査?とあるJCの言葉によると、私とは別の出身小学校では私よりも早い人はいないとのことだった。つまり敵なしである……と思いたいところだけれど……油断は大敵。


 どこかでも思ったことだけれども、あくまで過去は過去。中学に入るまでになんか不思議ぱぅわーで足が速くなってるかもしれない。ちゅーか、中学生って成長の真っただ中だからね。数か月前の記録なんていうのはあてにならない。急に覚醒して足が速くなる奴だっている。


 かくいう私も小学校最後に計ったタイムよりも良くなっていたので、それは周りの生徒たちも一緒であろう。


 いいですこと?私はどこぞの金ピカの愉悦さんとは違うのです。「雑種如きが吠えるではないか……」とか言って、腕を組んでふんぞり返ってフハハハハハハハッ!とか笑ったと思えば次の瞬間には「なにぃ?!」とか最高にダサいじゃないですか。彼の場合はちょっと特殊だからそれもいい味してるけれど、現実でそんなことしようものなら、そりゃただの噛ませ犬ですよ。ス○ちゃま街道まっしぐらですよ。


 私が目指すはあくまで理想の(ry


「位置についてっ!」


 おっとと!色々考えてたらスタートの合図が掛かり始まってしまったよ。油断しないしない言っときながら別のこと考えてスタートが遅れるとか笑えない。


 私の愛しのブラザーズも見ててくれているんだ。無様な姿など見せられるものかっ!けーちゃーん!よーちゃーん!お姉ちゃん頑張るからねぇ!!


「よーい――……」


 審判の声に私は前傾姿勢を取る。


 いつぞやの前のめりポーズである。他の娘たちも各々スターティングポーズを取っているが、私から言わせればまだまだ甘い。そんなんじゃ風になれないぜぃ嬢ちゃんたちぃ。


『パァーン!』

※スパンキングの音じゃないよ!


 スターティングピストルが耳に響く程のドデカイ音を鳴らす。それと同時に強く踏み込み走り出す。

 スタートダッシュは上々、フォームも安定している。このまま全力で走れば納得のいく走りができることだろう。


「琴゛音゛ぇぇぇえええ!!勝゛ちなさい゛!!!!」


 ふとママ上の声が聞こえてきた。というか誰よりも目立って聞こえる。あんたどこの藤○達也だよ。なんか最後の最後に死神に名前書かれておこな感じな声だよ。なんかちょっと恥ずかしいよ!ママン!


 でもまぁ……元気は貰える。体に力が漲ってくる。元から負ける気なんてなかったけれど、それ以上にこの徒競走は負けないと確信を持てる。やっぱり母の想いは凄まじいんだね。なんかちょっと涙出そう……。


「ねっちゃーーー!がんばぇえーーーーーーー!!!」

「!!!!?」


 この……声は……!よーちゃんの声!ちょっと舌っ足らずな感じだけれど、よーちゃんの魂の籠った声援が……私の全身から五臓六腑へ、そしていたるところに沁みこんでいく……。


 ……。


 …………。


 ………………。


「くふ、くふふっ……」


 はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい!お姉ちゃん頑張りますぅ!もう全力振り切って頑張っちゃいますぅ!もう一位確定ですぅ!


 なんか過ぎ行く人が私の顔を見てぎょっとしていたけれど構うものか。弟の声援に嬉し過ぎてにやにやしない姉なんていないわけないじゃん!それでちょろーっと笑い声が漏れちゃうのだって不可抗力よ!仕方ないやん!


 軽くトリップしながらも、私は全身の筋肉を限界まで酷使し前へ前へと進んでいく。火事場の馬鹿力ってやつでしょうか。私のリミッターがなんか色々解除されて何かが解き放たれている気がする。そう、言うなれば今の私はチーターさん。野生開放してそりゃもうビューンですよビューン!(語彙力死滅)


 今までにないくらい軽い体で走る私は、目前にゴールテープが見えたのでそのまま突っ込んでいく。ゴールする直前に上半身を前に突き出すのも忘れないよ!


『一着白。二着白。三着赤――』


 ゴールと同時にマイクから徒競走の結果が流れていく。私は勢いを殺し切れずそのまま数十歩ほど前に進んでしまう。幸いゴール前にはそんなに人はいないので、勢いのまま進んでいける。


 それにしても一着、二着が白組とな。これは結構いいポイントなのでは?まぁ、その他では赤組に3位まで独占されてたりもするから大きな開きと言うのはないだろう。


 ふと校舎の窓に張られている点数を見てみる。すると赤組が『85』、白組が『90』と出ている。


 ふむふむ、出だしは白組が若干リードかぁ。幸先いいんでないのぉー?といっても点差はたったの5。こんなのちょっとしたことで覆ってしまうのでまだまだ油断はできない……とは言え、私が頑張れる種目はリレーのみ。後はみんなの応援をするぐらいしかできないのだけれどね。


 私は点数から視線を外し、今度は先ほど家族がいた場所に目を向ける。


「いよっしゃー!ナイス琴音!流石琴音!あたしの娘だコンチクショー!」

「お母さん……恥ずかしいからやめてよ」

「何言っちゃーのさ!あんたの姉でしょ!一位取ったんだからもっと喜びなさいよ!」

「いやぁまぁ……嬉しいていうか、かっこよかったけどさ……はしゃぎすぎだろ」

「これがはしゃがずにいられるかい!くっふ、琴音のかっこいいところも撮れたし……くふふ、こりゃ大漁の予感ね」

「はぁ、ほんとお母さんはお母さんだよ……」


 ……。


 うん。今回ばかりはけーちゃんに同意だよ。見てるこっちが恥ずかしいょ?ママン……。喜んでくれるのも気合い入れてくれるのもめっちゃ嬉しいけれど……限度があるっしょ……。


 ていうかやっぱり写真撮ってるのね……。あぁ、また変なの一杯撮られてるんだろうなぁ……。


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