40話 赤に染まるか?!運動会!!
無事、徒競走で1位を勝ち取った私は上機嫌だ。一つ残念というか心配なことがあるとすれば、それはママンが撮った写真というやつだ。
お願いだから変なところは撮られていないで欲しい。もうママンの写真撮り魔は私には防ぐことはできないので、諦めの境地というやつなのだけれど、せめて、せめていい感じの写真を撮ってくれていることを願う。
あのママンのことだから無駄に良い写真撮ってあることは間違いないとは思うのだけれど……偶にね、たまーに、私のあられもない姿と申しますか、非常にグレーな写真があったりするんですよ。もう児ポ法に引っかかっちゃうんじゃないの?的な。あくまで母親としての成長記録ということでゴリ押ししてきてますけど、警察に見つかったら逮捕なのでは、と私は内心ドキドキである次第です。
頼むからうちから犯罪者が出るのだけはやめてくれ……。そしてアレ系な写真は何とかして処分しなくては……。
どうやって写真を処分しようか。確か今の時代だとパソコンに取り込むなんて高度な技術をうちのママンは持ち合わせていないので、そうなると全て紙媒体。おそらくアルバムにある分だけでなく、予備として何枚か残っているはずだ。 となるとどこかに保管してあるわけで……。
「今度家の中の大捜索だな……」
私はそう、決意した。
そりゃもう硬く決意しましたとも。
さて、つつがなく競技が進んでいき、現時点での白赤の点数はと言うと――。
白組『150』
赤組『170』
あっるぅえー?おっかしーなー。
確かに前半の方はこちらが少しリードしてたと思うんだけれど、いつの間にやら赤組に抜かされていた。
あれか、徒競走後半の方で1位を赤組に独占されたからか。もしくはパン食い競争でうちのクラスのやつがもう一個!とか言ってパンを二つ食ったのが原因か。
……うん。反則ってことで減点されたのかも。一応ルール上一つだけとは書かれていないから反則ってことはないのだろうけれど、それでもビリも取ってるし、そっちかな。おのれ上田め!食い意地をそこまで発揮することはなかろうにっ!
因みにその上田君だが、
今は罰として『私は食の亡者です。』と書かれたプレートを首から下げている。罰のはずなのに彼はとても楽しそうに応援している。おい。
私は勝負事っていうと負けたくない派なので、やっぱり運動会と言えども自身の所属するチームが勝ちたいというのは大いにある。どちらかというとめい一杯楽しもうっていうのが運動会ではあると思うのだけれど、それでもそこに『勝ち負け』があるのだとしたら勝ちたいと思うのは不思議ではないと思う。
ただ単に私が負けず嫌いなのか、それとも男として生きていた時の名残なのか……。あれ?私って男の時はそこまで勝ち負けには固執しなかった気がする。どっちやねん。
とにかく、今大事なのは私が負けたくないと思っていること。そして負けないためにはどうするか。
運動会ともなれば個人がーというよりも、団体としてどう動くかが鍵となる。勿論、個人競技ではその個の力が試されるわけだけれど、主な目的としては如何に協力的であるかだ。
例えば他の競技で頑張っている生徒がいるのならばしっかりと応援しているかとかね。「他の人がやってるからあーし関係ないしぃ。てかネイル可愛くね?」みたいなのは評価が低い。直接的には参加していなくてもあくまで今出てる人たちというのは
そういう意味だと上田君はしっかりと応援しているので評価は高いだろう。結果はビリだったけれど、彼の珍行動に場は大いに盛り上がったので、エンターテイメント性としては非常に高得点だったのではないだろうか。
まぁそのエンターテイメント性が点数に反映されるのかはわからないけれど、少なくとも1位を取るよりは点数は少なく見積もられていることだろう。やっぱりギルティ。
『次は障害物競争です。選手の方は集合してください』
そんなことを考えていると次の競技のアナウンスがかかる。障害物競争と言えば真の出番か。
「おっし!じゃあ行ってくるぜ!」
「おー、真1位とれよ」
「そんなんあったり前田のクラッカーだわ!俺だぞ?1位とか余裕だし」
「もう既に怪しいわ」
「誠治!お前後で覚えとけよ!」
「俺物覚え悪いからなぁ……」
真は誠治と何やら楽しげな会話をしながら席を立った。にしてもネタが古くないか……?って今の時代だと最先端か……なのか?いや古いよな?何ともむずむずする。
「真、ファイトー!」
私も真に激励の言葉を投げかける。幼馴染だしなんだかんだ言って親友だからね。真にも頑張ってもらいたい。白組負けてるし。(ここ重要)
「おう!」
真は爽やかな笑顔を浮かべ背中越しに左手を掲げた。
……なんか銃で撃たれて止まるんじゃねぇぞとか言い出しそうだ。現実はそんな物騒では無いのでいきなり撃たれるなんてことはないだろうけど。きーぼーおーのは(ry。
さて、真がトラックに向かっていったので私はみーちゃんや澪ちゃん、それから一馬と誠治と共に近くまで行く。
流石にトラックのすぐ近くには行けないが、それでもある程度のところまでは近づけるのでそこまで行く。
とはいえ、そこも結構な人だかりになっている。今の私は身長が……はい、ミニマムとまではいかないんですけれど低いので中々見れない。同じく澪ちゃんも私と同様というか、私よりも身長が低いので猶更見え辛そうだ。なんかぴょんこぴょんこ飛んでて可愛い。
そんな澪ちゃんや私のことを見て不憫にでも思ったのか、一馬が無理やり前の方へ体をねじ込ませていきスペースを確保してくれた。普段がさつというか荒げない感じな一馬だけれど、こういうところは男らしくて本当いいやつだ。前世とは大分接点が薄れてしまったけれど、一馬のさりげない優しさを感じれて私ほっこり。
「おーい琴音に澪、美鈴と誠治もこっちこいよー」
「ありがとー!」
「やっと見えるよぉ。ありがと渡部君」
口々に一馬にお礼を言いながら作ってくれたスペースに入り込んでいく。
さて、目の前に現れるはトラック。そのトラックには様々な障害物が置かれている。
捕獲用ネットみたいなのとか、縄跳び、それから定番のバット、平均台、中にお題が入っているであろうBOX。
中々に面白そうな光景が見られそうだ。そう言えば前世の私も障害物競走走ったことあったっけ。お題の中身は何だったかな……確かお父さんだったような……。でもうちのパパンは仕事で来れなくて、その辺にいる誰かのお父さんをパクって行った気がする。
私が「お父さんいねぇー!お父さんどうすんだよ!」とか叫んでたらやたらノリノリで役を買ってくれたんだよね。結局誰のパパさんかわからなかったけれど、あれは嬉しかったなぁ。
『位置について。よーい……』
お、どうやら始まるようだ。
1番手の走者に真の姿がある。しっかり応援してあげなきゃ。
「しーん!!頑張れーー!!」
◇◆◇
遂にやってきたか俺の時代が……ってなんやねん。
俺は一人でボケと突っ込みをしながらトラックで待機する。
俺が行うのは障害物競走。ある意味一番面白い競技だ。ただ走るだけではなく、様々な障害をクリアしゴールへと向かう。何とも心躍る競技ではないか。面白さと競技制を備えた障害物競走こそ運動会の花と言える。そしてその花を飾るのは俺だ。
俺は運動が好きでも嫌いでもない。いやそれだと嘘か。黙ってるよりは体動かす方が好きだから好きかも。そいで、得意でも不得意でもない。
どれをやっても人並みにはできるし、苦手だと思うようなものも特にはない。よく言えば器用で、悪く言えば中途半端。何でもできるけれど突出はできないタイプだ。
勉強もそう。
人よりも要領よく覚えれる自信はあるし実際そうだ。大抵の事は1回で覚える。けれど突っ込んだ事まではそれなりに勉強しなきゃ覚えられない。普段はおちゃらけてふざけてはいるが、テスト期間ともなれば勉強をしなければ点数には反映されない。
それでも限界まで頑張るということは無いので大体人よりも少しできる程度で終わってしまう。
ある意味みんなそうなのかもしれないし、もしかしたら俺は多少できるタイプの人間なのかもしれない。昔の俺なら間違いなく自分はそれなりにできる人間だと錯覚していただろう。
でも今の自分は違う。
基本はできない人間だ。ある程度のことをすればある程度のことしかできない。この前のテストがいい例だろう。
俺は前のテスト平均で88点とそれなりに高い点数を取った。クラス順位は136人中の10位以内。最初のテストとしてはまずまずと言ったところだ。前の俺であればそれで満足だったはずだ。
だが、それは1人の人間によって崩された。
そいつは小学校の頃はテストと言っても大抵80~90。100点とって当たり前な小学校のテストでそれだ。お世辞にも頭がいいという印象はなかった。
運動に関してはその頃から凄くて、男の俺でも勝てないくらい運動神経は良く、何かにつけて比べたりもしたが何1つ勝てなかった。
故にそいつはスポーツ系女子なのだろうと思っていた。
だが、中学に入ってからどうだ。
スポーツもさることながら、今度は俺の領分であった勉強でも完敗だ。
何だよオール100点て。普通無理だろ。どんだけ勉強したんだよ。だと言うのにあいつはそれなりに頑張った!としか言わない。これがわからない。
一つ言えるのは、本当の天才というのは正にあいつのような存在を指すのだろうなということぐらいだ。
それで性格が悪いとかならまだわかるんだけれど、あいつの性格は明るい。そして誰からも愛されるタイプだ。完全に俺の上位互換。正直少し嫉妬したが、あいつといると不思議と楽しくなって気付けばそんな感情も薄れてしまった。
俺は視線を動かしある一点を見つめる。
そこには澪と同じ様にぴょんぴょんしたりグーっと背伸びをしながら何かを探している琴音の姿があった。
相変わらず騒々しい感じだ。俺も人のことは言えないが。
自惚れでも何でもなく、幼馴染としての勘だが俺の姿を探しているのだろう。やがて一馬がスペースを確保し皆を誘導した。すると背の低い澪や琴音、それから美鈴に誠治が前に出てきた。
それから数十秒程して琴音が俺の方を見る。
視線と視線がぶつかる。
『位置について。よーい……』
俺は不意にドキリとしたが、スターターの人が声を上げたので慌てて前を向く。しかし視線だけは琴音の方へ向ける。琴音はそんなことを知らずに笑顔を作り両手を口に当て声を上げた。
「しーん!!頑張れーー!!」
可愛らしい声だ。
小学校の頃はそんなこと思ったことはなかったのだがねぇ。今は不思議とどんな雑多な声よりもスっと聞こえてくる。琴音だけじゃない。美鈴や澪や誠治や一馬。俺の友達の声がハッキリと俺の耳に届いてくる。
「なんか照れくさいな」
俺は苦笑しながら腰に手を当てる。
妙にむず痒い。
だが、嫌ではない。
寧ろやる気が出るというもの。
確かに俺は器用貧乏だ。きっと普通にやったら俺はこれでも1位は取れない事だろう。だがしかし、今回ばかりは本気の本気でやってやる。
運動は琴音の庭だが、俺でも1位を取れるのだと見せてやりたい。というか負けっぱなしというのが癪だ。あいつはこの競技には出ていないので勝負も何もあったものじゃないが、俺の気分の問題だ。
ここで1位を取れなければ俺はあいつには何1つ勝てなくなってしまう気がするのだ。そしたら多分もう一緒にいても楽しめなくなるかもしれない。
……まぁそんなことはないだろうけど。
だがまぁ、本気を出すのは良いだろう。そしてそれはただの競走ではない。お笑い要素ありだ。そんなの俺の方が上に決まってる。
「うっし、頑張るか」
琴音たちの声援を受けやる気満々の俺氏。こいつは負けられねぇ。
パアァン!
乾いた爆音が鳴った。
こうして俺の戦い、障害物競走の火蓋が切って落とされたのだった。
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