2章 委員会を決めよう

22話 インドアとアウトドアどっち?

 ぐっもーにん!今日も元気だね学校へ行きましょー!だよ!


 昨日はよーちゃんがぷんすこ泣き泣きしてたので、その溜まったあれやこれやを解消しました。やっとお姉ちゃんらしいことが出来たんじゃないかな。


 その甲斐もあってか今日のよーちゃんはご機嫌だ。普段は朝なんて凄くローなのだけれど、私の顔を見てにへらって笑うんですよ!しかも「ねーちゃん、おはよー」って言ってくれたんですよ!更に更に朝ごはんとか準備してあげてるわけなんですけども「いつもありがとー」とか言ってくれるんですよ!これがっ!これが喜ばずにいられますかっ!!無理ですよ!ニヤニヤですよ!!朝から琴音ちゃんのテンションが100%ですよ!スーパーハイテンションで体が赤くなりそうだよ!!今の私なら双○打ち放ってラスボスワンパン出来そうだよ!!あ、でもあれ二激入るからワンパンではないか。ワンターンキルだよ!!


 あ、でも調子に乗ってハグしたら逃げられちゃった。うん、ごめん。それは私が悪かった。でもね!よーちゃんが可愛すぎるのもよくないと思うの!もう悪魔的だよね!


 そんな感じで上機嫌な状態で学校へ行った私です。




 今日はテスト明けなのでみんなご機嫌だよね。しかもこの一週間は部活動決めの週になるから、そわそわしている。


 因みに真や一馬は陸上部に決めていて、誠治はテニス部。みーちゃんや澪ちゃんは美術部とのことだ。結局前世とは変わってないね。


 さて、そこで私様なんだけれど……まだ迷ってるんだよー!美術部も魅力的だし、陸上部でまた走幅跳もやりたい!どうすればいいのー!


 兼部出来ればいいんだけれど、どっちつかずになって後悔しそうだ。やろうと思えばできるとは思うんだけどね。ただ、100%できるとは断定できないので手が出ないよ。誰かの後押しとかあればできるかもしれないけど。


 前世の経験を活かすというのならば陸上部だろうけど……何度も言うよ。ユニフォームがね!ユニフォームが嫌なの!あれ殆ど下着なんだもん!恥ずかしいぢゃん!砂で汚れるってのもあるし!


 かと言って文化部だと体が鈍っちゃって運動不足になりそうだし。でも絵をもっと突き詰めていきたいという思いもある。


 正直選べんわ!!私にどうしろと?!なんでこんな究極の選択をさせられるの?!


 ……いや待てよ。帰宅部でブラザーズとの親睦を深めることに専念しても……あぁ!ダメだ!内の学校必ず部活入らないとダメだからその選択肢はない。


「うわぁ……どおしよー……」


こいつぁまずいや。委員会なら即決なんだけどねぇ。ほんとどうするかなぁ。


「ねぇ琴ちゃん、結局部活どうするのー?」

「もうほんとそれだよ~。どうしよぉ」


 みーちゃんがどうするのー?と聞いてくる。その手には入部届が握られている。きっとこれから提出でもしてくるんだろうなぁ。


 私は机に突っ伏する。どーすればー、いいのー!今私の頭の中では5枚のカードが握られてて、そこには全部「どーする?」しか書かれてないよ!選択肢のはずなのに全部疑問形だよっ!しかも「はい」か「YES」並に一緒だよ!私の選択肢君役に立たなすぎなっ!こんなっ……こんなものっ!床に叩きつけてやるわ!ていっ!!


「そんなに悩んでるなら取り敢えず体験入部してみたら?やってみたらまた変わってくるんじゃない?」


!!


 そ、それだ!何故今まで気付かなかった!というかそれ説明あったやないかーい!聞いてなかっただけだし、忘れてたー!マァー!!


 でも言い訳させて欲しい。だって昨日までテストだったもん!私そっちに集中してたから、正直部活なんて二の次だったもん!スタートダッシュを華麗に決めるにはそれなりに勉強しないとダメじゃん!私の基礎能力が低いからこそ、人よりも頑張らないといけないから仕方なくなくない?


「そ、それだよ!みーちゃん!そーしよ!」

「う、うんそうだね」


 私はガバッと顔を上げみーちゃんの両手を掴みぶんぶんと振る。みーちゃんは目を丸くし呆気にとられている。そんなみーちゃんも可愛いぜ!


 ものは試し、ということで早速美術部にお邪魔することにした。みーちゃんは入部届を出したわけだが、正式に入部が決まるのは今週の金曜日とのことだ。それまでは仮入部という扱いらしい。


「あらいらっしゃい。君も入部希望者かな?」


 美術室に入って一番に声をかけられる。それは美術部顧問の村井先生だ。男性の美術教諭で、確か学年主任だったかな。前世と変わらぬ声と恰好、そして頭……。そう、村井先生なんだけど、前世である有名な噂があったんだよね。その噂っていうのが「カツラ」説だ。


 非常に失礼極まりなくて申し訳ないんだけど……村井先生って本当に髪型が変わらないのよ。普通は多少変わるじゃない?1ヶ月もすれば伸びるし、そうしたら髪型も少し変わるじゃん。でもこの先生変わってるとこ一度も見たことないのよ。それこそ3年間いっつもおんなじ。不自然なくらい同じ。で、しかもその髪型もきのこ型というか、これがまたださい。それがふんわりとした髪だったならば良かったのかもしれないけれど、残念ながら髪が細く、かつペタ~としているので、もう、ね……?


 これは我々東中生にとっては学園七不思議に数えられるくらいのものだ。残りの6つわからないけど。


 村井先生が笑顔で私にあれやこれやと説明してくれる。凄く丁寧で優しくてわかりやすいよ?でも、でもね……ダメ、なの……。私、耐えられそうにないの……。あなたの頭が、気wにwなwりwすwぎwてw。


 我慢、我慢よ琴音!あなたは強い子。多少のことでは同様して取り乱したりなどしないわ!なぜなら理想のお姉ちゃんたるもの、人を馬鹿にして笑うなど……ぷふっ……ん゛ん゛っ!あってはならないのですから!


 確かに目の前のこれはレベルが高いわ……。少し風が吹けば飛んで行ってしまいそうな程に頼りない毛髪だというのに、決して動くことのない鉄壁。それこそアロン○ルファでくっつけてるんじゃないの?というぐらい動かないそれは、もう不自然でしかない。しかしそんな彼はあくまで自然にしているというのだから……や、やめ!それ以上考えると笑いを堪えられなくなる!


 そう、目の前にいるのは地蔵よ。地蔵に変化する表情がついて、頭には笠じゃなくてカツラがついただけの地蔵様よ!


 くふ……やばい。それも面白い……これ詰んでない?どうでもいいからもう早く話終わってぇ!!私のライフはゼロに限りなく近いのぉ!!


「――よし、それじゃ川田さんもデッサンをやってみようか。題目はぁ……そうだね。今日は『手』にしよう。右でも左でも構わないよ。自分の空いている手をよく観察して描いてみてね」

「わ、わかりました」

「完成したら僕に声をかけてね。もし僕がいなかったら教卓の上に置いてね」

「はい」


 村井先生はそう言うと教卓の方に戻っていった。


 あ、危なかった……。普通に見る分にはいいんだけれど、回想しながら見るといろんな思い出とかが溢れてきちゃって笑えてきちゃったよ。しかもその笑いを紛らわせようと、別のものとして見立てようとすればそれも面白いし……ほんと危なかった。


 と、思ったのは束の間。


 村井先生はくるっと振り返り、やたら爽やかな笑顔を浮かべながら口を開いた。結構な勢いで振り返ったのだが、やはり髪は微動だにしていなかった。


「あっ!はここにあるからね」

「ぷふっ!」

「どうしたの?」


 ふ、ふざけんなてめぇ!かみ……かみって……しかもここにあるって言うなよ!面白すぎるだろ!なんだよ、紙と髪をかけた自虐ネタですかぁ?!なんとか笑いを堪えられたと思ったところにそんな爆弾落とすなよ!炭酸にメントスだよ!もー!!


「あ、いえ!そ、そそそのぉ……実家の猫!猫思い出しちゃって!ほら!右に置いてある絵!それが猫ちゃんじゃないですか!なのでそれ見てうちの猫が面白い顔してたのを思い出しちゃって……わ、私も!私もそれぐらい描けるようになりたいなぁ!」

「あぁこれかい。よく描けているよねぇ。確か3年前に描かれたものかな」

「そ、ソウナンデスネー」

「ははっ、まぁいきなりこんなに描くのは難しいかな。こつこつこつこつ。毎日続けていけば上手くなっていくから、是非うちに入部するといいよ」

「け、検討します」


 な、なんとか、誤魔化せたぁ。もうドキドキだよぉ……。なんか活動する前に疲れちゃったよ。あれだよね。ご飯作る前はお腹すいてるけど、作り終えるとお腹すかなくなる現象。あれと一緒だよね。……違うか。


 冷や汗掻いたおかげで笑いの波が引いた。笑ってしまったのは不覚もいいとこだけれど……仕方ないよね?うん。私頑張ったもん。


 取りあえず、一旦落ちついてデッサンをやろう。私はみーちゃんの席の隣に腰を下ろす。そして村井先生からもらった用紙に鉛筆でデッサンをしていく。シャーペンでもよかったんだけれど、私の今持ってるシャーペンってHBなんだよね。つまり薄いのよさ。薄くて硬くて細長いのよね。それだとデッサンに向かないので、美術室に置いてあるBの鉛筆を借りているというわけだ。


 私は右利きなので、左手をモデルに鉛筆を進める。


 こうやって見てみると本当に小さな手だよね。白いし傷も無ければぷにぷにとして柔らかそうだ。爪の形も綺麗だ。あ、でも前世でも爪は綺麗だったな。私の記憶の最後の時ぐらいはささくれが凄かったけど……ストレス社会怖い……大人なりたくない。緑の妖精に連れられて子供の国に行きたい……。


「ねね、琴ちゃん」


 そんなことを考えながら描いていると、みーちゃんが私に耳打ちをしてきた。時折耳に入ってくる吐息がこそばゆいよ。


「なぁに?」


 私が返事をするとみーちゃんはきょろきょろと何かを確認してから続けた。


「村井先生ってさ……絶対カツラだよね?」

「くふっ!」


 やめて!その話は蒸し返さないで!!

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