11話 必殺料理人琴音ちゃん!

 良妻志望の琴音ちゃんだよ!


 じゃなかった。全お姉ちゃん選手権優勝候補の琴音ちゃんだよ!!


 これからブラザーズのために美味しい美味しいカレーを作ろうと思うよ!


 ちょっと誰だ今不安だとか言ったやつ!出てきなさい!お姉ちゃん怒らないから正直に言いなさい!どうせ予想と反してひっどいもん作るとか思ってるんでしょ!ある意味展開としては王道でテンプレだもんね!その展開の方がおいしいもんね!でも残念!テンプレクラッシャーの異名(今考え付いた)を持つ私はそんなドジっ娘アピールなんてあざといことしないんだからね!ここはお姉ちゃんみを発揮する絶好のチャンスなんだから外さないよっ!


 さてまずはお手手を洗うよ。動画とかではよく「手洗った?」とか意識高い系のコメントを見るからね。私も突っ込まれないようにちゃんと洗うよ。……突っ込まれる相手はここにはいないけど。あ、エプロンもちゃんとしてるからね!


 そして次に人参とじゃがいも、玉ねぎ、豚肉、それからカレーのルーを取り出すよ。カレーのルーは勿論市販のものだよ。料理ダメにしちゃうあるあるとして凝ったものを作ろうとルーから作り始める人がいるけど、それはナンセンス。一般家庭で食べるのなら市販のルーで十分だし舌になじむからね。普通に美味しくてそれなりに早く作るのならやっぱり市販のルーが最強です。QED。


 まずはお米をといで炊飯器に突っ込んじゃうよ。お米炊くくらいはねぇ、できない人なんていないでしょ。……いないよね?


 次に鍋を用意しておく。まだお水は入れないよ。あ、切った食材用のボールも準備しないとね。


 続いてじゃがいもと人参を水洗いして綺麗になったらピーラーで皮を剥いていく。包丁で器用に剥いていってもいいけど、やっぱり簡単にできるピーラーの方が圧倒的に楽で安全だもんねー。


 皮を全部剥き終わったらざく切りで一口サイズにしていく。うん、特に危なげなく扱てるかな。まぁ料理なんて基本を守れば誰でもできるからねー。……これじゃ検証にならんな。ま、あくまで第一の目的はブラザーズに美味しいご飯を作ってあげることだからいいんだけど!


 じゃがいもと人参の処理が終わったら今度は玉ねぎだ。いい玉ねぎだといいな。めっちゃエキス飛んで涙目とかにならないといいな。


 私は玉ねぎの皮を親の仇とばかりにちぎっては投げちぎっては投げ……勿論ごみ箱にね!丸裸にしていく。すると瑞々しいテカッテカのお肌がまぁキレイ……玉ねぎなんだけど。


「ついにだよ……ゴクッ」


 いつも玉ねぎ切る時ってドキドキしちゃうんだよね。こう身構えちゃうっていうか。でもこいつを攻略しなければ私の明日は来ない。「お姉ちゃん大好き!大きくなったら結婚するー!」て言われるためにはまず料理くらいできなければお話にならない。


 私は意を決して玉ねぎに包丁を入れる。その際ささやかな抵抗として息を止めるのも忘れない。玉ねぎのエキス噴射って目に飛ぶっていうより、鼻の粘膜に付着しちゃうから大惨事になるんだよね。だからこうして鼻呼吸を止めて口呼吸をすれば目に染みるとかは結構防ぐことができる。まぁしぶきがヤバすぎて目に入っちゃったらそれは……ご愁傷様!

 サクッサクッと心地よい音を鳴らしながら軽快に包丁を動かす。ふふん、やっぱり私ってばできる娘。そんじょそこらの小娘には負けませんことよ。ブラザーズに言い寄るはお姉ちゃんが排除だよ……くふふふふ。


「さて、と」


 難なく玉ねぎ丸いコンチキショーを処理した私は、鍋に火をかけ程よく熱せられたところでサラダ油を適量たらす。鍋の底に油が馴染んだら豚肉を入れ色が変わってきたら玉ねぎを投入しあめ色になる直前くらいまで炒めるよ。そしたら今度はじゃがいもと人参を入れて適当に加熱していく。ある程度火が通ったら水をダバーっと入れていく。そしてグツグツグツグツ煮ていくよ。そうすると当然灰汁が出てくるので、それを流しへぽぽーいする。灰汁が出なくなってきたら、漸くお待たせとカレールーを投入する。


 それからは火を弱めコトコトとやっているといい匂いが辺りを占領していく。んー、いーねいーね!美味しそうだよ!


 私は調理者の特権である味見をするべく、小皿にカレーを少しよそう。


 ふー、ふー、と熱を冷ましちょこんと口を付けズズーとカレーを啜る。あ、と言ってもめっちゃ汚い音出してずぞーって啜ってるわけじゃないからね!表現の問題だからね!


「……ん、美味しい」


 うんうん!納得の味かな!隠し味でチョコとかいろいろあるけど、今日はそーゆー冒険はしないよ。初めてっていうのもあるし、大抵失敗して美味しくなくなる原因っていうのが「隠れてない隠し味」ってやつだからね。今回はオーソドックスなカレーで十分だよ。今後ブラザーズの味覚を知ったうえでアレンジしていけばいい話だしね。


 さて、ご飯も……まだ炊けてないか。でも後10分か。それなら十分かなー。


「「ただいまー」」


 お、丁度よく愛しのブラザーズも帰ってきたじゃないか。これはお姉ちゃんがお出迎えしてあげないと。


「おかえりー!」


 私はエプロンを翻しながら玄関までパタパタと走っていき笑顔で出迎える。するとどうだろう。ブラザーズは「ゲッ」とでも言いそうな引き攣った顔で私の顔を見てくるではないか!お姉ちゃん傷ついちゃうよ!グサーッだよ!ぶろーくんはーとだぜぇ……。


「今日はどこ行ってたのー?」

「友達の家」


 わーお。お姉ちゃんの質問に対して雑、めっちゃ雑だよけーちゃん。確かに友達の家行ってたんだろうね。でもね、そこから話題が広がリングするのを期待してたんだよ。そんな返しだとコミュ障なっちゃうよ!


「そ、そっかぁ。楽しかった?」

「普通」


 お姉ちゃん泣きそう。


 どうして、どうして単語で返事なの?文章にしようよ!私と会話しょ?


「あー、腹減ったー。あれ?いい匂いする。今日カレー?」


 私がけーちゃんとの間にある溝の深さを再確認し落ち込んでいるところによーちゃんが声をかけてきた。ナイス!ナイスだよ、よーちゃん!その質問を私は待ってたよ!!


「うん、そうだよー!ほらほら、もうご飯はできてるから手洗いとうがいしておいで!」

「うい~」

「……」


 よーちゃんはめんどくさそーに気のない返事をし中に入っていった。口ではそんな風ではあったがすぐに洗面所に入って水を流す音が聞こえてきたので、言われた通り手洗いうがいをしっかりとやっているようだ。可愛い。


 けーちゃんはと言うと……特に何も言うでもなくムスッとした顔で私の横を通り過ぎていく。……やっぱ私嫌われてるのか。さっきまで舞い上がってたけどちょっとしょぼーん。そんなに前の私は酷かったのかな……。なんとなくぼんやりとだけどどんな感じだったのかはわかるんだけど。でも細かくわからないし……はぁ。


 まぁでもくよくよしてても仕方ない。


 琴音ちゃん元気な娘!前向きポジティブ!ネガティブなっしんぐ!


 私はグッと握りこぶしをつくり意識を変える。折角美味しく作ったんだから楽しく食べないと勿体ないもんね!


 私は台所に戻りお皿を用意する。ご飯は……お、いーね!あと少しだ。これなら料理に使った食器とか洗ってたら丁度いい感じだね。


 そうして食器を洗い終えると丁度「ピピー」という炊飯器の炊けましたよの音が鳴る。私は用意した食器に炊き立てのご飯をよそい、ついでカレーを三日月形になるようにタラーとかければ完成ー!


 うんうん!こうして見るとちゃんとできてるし食欲がそそられてくるよー!早く皆に食べてもらわないと。


「みんなーできたよー!」


 私は大きめに声を上げみんなを呼ぶ。その間にカレーライスを各場所に配置してスプーンも出しておく。うん完璧。これですぐにでも食べられるよね。


「あらー♪見た目はちゃんとしてるじゃない。匂いもいいし美味しそうー♪」


 一番に来たのはお母さんだ。どうやら心配していた以上のできだったようで嬉しそうだ。ふふん、あったりまえよ。私は理想のお姉ちゃんを目指す人間よ?こんなこと簡単にできなきゃお先真っ暗よ。


「おーうまそー。ねぇもう食っていいい?」


 ついでよーちゃんがやってくる。よーちゃんは早速スプーンを手に取ると早く食べたいと急かしてくる。可愛い。


 少ししてからけーちゃんがやってきて席に着く。相変わらず無言だしムスッとしている。今日は何か嫌なことがあったのかな……。それでお姉ちゃん邪険にされてるんだと思いたい。


「よし、みんな揃ったねー。じゃいただきまーす!」

「「いただきます」」

「……いただきます」


 私の音頭と共にそれぞれいただきますと食材になってしまった哀れなものたちに感謝をしカレーを口にし出した。こう、自分の作った料理が他人の口に入る瞬間って緊張するよね。ぶっちゃけ一番緊張する。私は手に汗を握って様子を見る。どうだ……どうなんだい。どうなんだってばよ!


「んー!美味しいじゃない!ちゃんと火も通ってるし」


 イエッス!お母さんからお褒めの言葉を頂きました!ふぅー!やったね!味見してるから問題ないのはわかってたけど、実際に食べた人から良い感想を頂けたのは本当嬉しいよ。さて、お母さんからは感想は貰ったけどよーちゃんとけーちゃんはどうかなぁ。見た感じパクパク食べてるから問題はないんだろうけど……やっぱ直接感想聞きたいじゃん?


「ねね、どう?」


 私は我慢できずに声をかける。するとよーちゃんは口に運んでたスプーンを一瞬止めた。


「んー、普通に美味しい」


 出たー!普通に美味しい!言葉の意味的にはよくわかないケド、ブラザーズにとっては結構な誉め言葉だ。素直に言うのが恥ずかしくて出ちゃう「普通に美味しい」ですよ!翻訳こん〇ゃくすると「めっちゃ美味しい」という意味なのですよ!これはお姉ちゃん頑張った!お姉ちゃん料理した甲斐があったよぉー!!


「……これ、ねーちゃん作ったの?」


 さっきまで沈黙を保っていたけーちゃんが自主的に口を開いた。しかも視線もちゃんと私に向いてる。


「そうだよ!どう?美味しい?」


 このチャンスは逃せない。これはけーちゃんが私に心を開きかけているのかもしれない。心のとびらを開けてくれているのかもしれない。こいつぁ行くしかないっしょ。


 けーちゃんは私の返事に驚いたような顔をすると視線を下に向けカレーを見る。そしてまたパクパクと食べ始めた。


 ありゃりゃ、会話はもう終了なのね。お姉ちゃん寂しいぞ。


 でも、まぁ。さっきよりは顔の険しさも取れてきたし、美味しそうに食べているので良しとしましょう。


 私は頬ずえをつきながらけーちゃんとよーちゃんの食べる姿を眺める。くふふ、可愛いなぁ。作った甲斐があるってもんだよね。


 ふと、けーちゃんが視線だけをこっちに向けてきたので笑顔をプレゼントすると慌てて視線を外して勢いよくカレーを食べ始めた。少し顔が赤くなっている。


 どうやら少し。ほんの少しだけど歩みよれた気がした。それだけで今日はもう幸せ一杯です。おかげで私のスプーンが全然進まないよ!

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