生首キャッチ

生首キャッチ(日常編)

「なぁ注汲つぐみ、相談があるんだけど」


 吊森つりもりは神妙な面持ちでやって来た。どうやら俺の貴重な休み時間を無駄にしたいのだろう、せっかくすさみが席を外して平和な十分間が訪れると思ったのに。


「出来れば勘弁願いたいんだけど」


「出来ない相談だよ、それは」


 腰掛けたままの俺を見下ろしながら吊森つりもりは言う。これじゃどっちが相談を持ちかけてるのかわからん。

 それにしたって、すさみにしてもそうだけどどうして俺に相談なんかしたがるのさ。どうせろくなアドバイスもできないなんて俺が一番よくわかっている。もしかしてこいつらはそれを知らないのだろうか?

 頭悪いなぁ……俺が言えたことではないけど。


「まあ、話だけでも聞いてくれ」


 理由はまぁ今は置いておくとして、俺に話しかける数少ないクラスメイトの一人である吊森つりもりはその凛々しい眉を少しだけ下げて口火を切った。


「最近、放課後の体育館に幽霊が出るんだよね。このままだと部活に支障が出るからなんとかして欲しくてねー。

 注汲つぐみって幽霊とかイケるやつでしょ?」


「食いもんの好き嫌いみたいに言うな。そんなもん、オカ研にでも頼めば良いじゃんか?」


 我が校には立派にオカルト研究部たる部活が存在する。帰宅部の俺なんかに言うより余程頼りになるに違いなかろう。


「いやいや、頼みにくいでしょ。わかってるくせに言うなよな」


 なんでこいつ、人にものを頼もうとしてるのにこんなに偉そうなんだろう。

 まぁ、吊森つりもりの言いたいこともわからんではない。第一にオカ研は正式な部活じゃなかった気がするし、今は部員が一人しかいない。しかも三年生で受験勉強を理由に断られる可能性も高いときているから、その扉をノックするのは些か気が引けるのも理解できる。

 そして何より、その唯一のオカルト研究部員と言うのが近寄りがたい存在でもあった。


「そりゃあ出来れば注汲つぐみなんかよりあの先輩の方が頼りになるだろうけどさ、なんとなくあの人を目の前にすると緊張しちゃうんだよね」


 このオカ研部員の人がまた規格外の人物で、この真倉北まくらきた高校一の有名人でもある……まぁ、機会があればその話もしよう。


「……で、どんな幽霊が出るって?」


 相談事を断れないのが俺の悪い癖だ。それはすさみを相手にした時に限ったことではない。いつもいつも損な役回りである。


「夕方、ふと気が付くと体育館の隅でボールをついてるやつがいるんだよ。んで、近寄ってみると、そのボールってのが生首なんだ。驚いたところにその首を放ってくる。それを受け止められないと不幸が起こるらしい」


 さも当たり前と言わんばかりに概要を説明する吊森つりもり。まずは話を聞く姿勢を見せた俺に対する一言があっても良いんじゃね?


「なんて言うか……ありきたりだな」


「でも目撃者がもう一人もいるんだよ。そんでうち一人は首を落っことして、実際に次の日には練習中に足を怪我をしてる。女子バスケ部の一年だよ」


「偶然じゃねぇの?」


「たとえそうだとしても、部活に出たがらない奴がいるんだからどうにかしないと」


 吊森つりもりは大きく溜息を吐いた。こいつ自身は幽霊なんてどうでも良いのかもしれない、そう思える仕草だ。


「頼む、私達女子バスケ部の未来がかかってるんだよ」


 数少ない友人の言葉に、俺も溜息で応えるしかなかった。

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