DREAMS COME TRUE!!
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自分の腕の中でスヤスヤと寝息を立てている由紗の頬を撫で、うっすら笑みを浮かべる君藤。未来に帰還した愛由海に想いを馳せ、愛ある言葉を紡いだ。
「未来ではもうこいつの意識、戻ってるかもしんねぇな。そっちの俺と、絶対にこいつのこと守れよな。ーーー恋のキューピットくん」
今後も君藤は、将来愛由海に出会うまでの間、時折心の中で愛由海への言葉を紡ぐこととなる。
「ん〜」
自分から離れ、反対側に寝返りをうとうとした由紗の肩を掴み、再び我が懐へと由紗を迎え入れた。
「俺のここしかダメ」
由紗は君藤が自分に対し独占欲を露わにしていることなどつゆ知らず。夢の中で君藤のようで君藤ではない、またあの見知らぬ少年(愛由海)との夢を見ていた。
いや、この件は少々ややこしい。
前回愛由海が登場した”正夢”は、現実に起きた出来事だが、愛由海の記憶をなくした由紗が夢だと思い込んだ。だから正確には、今回こそ本当に夢の中の出来事なのだ。
現実では君藤に抱きしめられ、夢ではどこか君藤似の”あの男”とイチャついた由紗は、目覚めてすぐにベッドの上で土下座し、君藤に謝罪した。
「君藤先輩すっ、すみません!!」
「何?急すぎてびっくりすんじゃん」
呼吸を整えた由紗は、心して言葉を紡いだ。
「それが、その…夢とはいえ、先輩以外の見知らぬ男子と手を繋いでしまいましたっ。でも、どことなくその彼は先輩に似てたから、やっぱり先輩だったってオチって可能性もなきにしもあらず…なんて…。すみませんっ!!」
「…いつまでそんな風にシーツに額くっつけてんの?」
顔を上げた由紗の目に映る君藤の表情は、以外にも穏やかな微笑み顔だったものだから、首を傾げる始末。
「あー大丈夫。そいつだけ俺公認だから」
「・・・あの、え?しれっとそんな…公認??」
ますますわけがわからない混乱中の由紗に、君藤はたまらずぽかんと開いただらしのない唇にキスを落とす…ーーー。
「!?!」
目を丸くして君藤を見つめるびっくり顔の由紗をなだめるべく、低音ボイスが由紗の耳に心地よく届いた。
「わかんなくていい。じきに会えるから」
「……わけがわかりませんが、その日を楽しみに待ってます!」
二人は大きな掛け布団で身を隠しーーーこの後の展開は、ご想像にお任せします♪
****
次の日、朝のHR後ーーーー
興奮気味に由紗の元に駆け寄る鼻息の荒い莉茉により、教室の静寂は破られた。
「ねぇ、由紗。昨日私、あんたとラブホで過ごしたよね…?」
その”いかがわしさプンプン”の誤解を招く言葉を受け、由紗は咄嗟に周囲を見渡した。由紗は一身に皆の視線を受け、威圧感を感じるものの、それどころではない。
「ちょっと待って莉茉!!ラブホって、そんなわけっ……」
息を飲み、何か思いあたった様子の由紗。
「あ、思い出してきた?」
由紗はホテルに行く前後の記憶を思い出していた。が、なぜかいろいろと曖昧で、夢なのかもしれないと混乱していた。
「どういう経緯であの場所に行ったのかとかまったく覚えてないし、何を話したか、何をしたかも憶えてない…。本当に夢の中のような…」
「それ私も!ありえなさすぎるシチュエーションだもんねぇ。私のバイト先にあんたらが来るなんてさ」
「…うん」
「すごく曖昧なんだけど、顔見知りの連中の中に一人知らない男子がいたような、いなかったような…」
「あ、そうなんだよねぇ。スーミンの友達だったっけ…?こんな感じで他のことは曖昧なのに、実は鮮明なところもあるんだよ…」
莉茉は頬を赤らめる由紗を見た途端、一気に強烈なシーンが脳裏に蘇った。その直後、あーーーっと叫び、再びクラス中の視線に晒されるはめになった。けれども莉茉はそんなことなどおかまいなし。
「その理由、わかるよっ♪あんたもアレだけは憶えてんだね♡あれは現実だよ。私が証言者になってあげる。君藤先輩が颯爽と王子様の如くあんたを奪いに来た記憶だけは、鮮明に残ってたからね!」
力強く”グッジョブ”の如く親指を立てる由紗は、この上なくキュートな笑顔を見せた。危うく抱きしめそうになる莉茉なのだった。
すると、気配とともにひょこっと視界の端になにかが映り込み、由紗は顔を真横に向ける。
「ほんとあれは男でもうっとり級にときめいて仕方なかったわー」
スーミンの不意打ち登場。存在を確認した直後、近距離すぎて咄嗟にのけぞる由紗。
「いいところまでいきそうな予感はしてたものの、ユーミンがあの”高嶺の超絶イケメン”を本当に射止めるとはねぇ。拝んどこ」
手を合わせ、再び近づく端正な顔。二度目はじっと我慢でにらめっこ。
「拝むんなら目を閉じましょう、スーミンくん」
すかさず入れずにはいられないツッコミ気質の莉茉。だが、スーミンは一向に目を瞑らない。しまいには、うーんと首を傾けるのだ。
「俺もラブホの中での記憶はあそこぐらいしか…あ、それと、なんで帰りに結愛とカフェに行ったのかも記憶が曖昧で気持ち悪いんだよなぁ。……ひょっとして俺ら、魔法にでもかけられたんじゃない?」
「魔法、ねぇ…。でも、それってありえないよ、スーミン…」
しかし、それはあながち間違いではないのかもしれない。ニュアンスが違うだけで、大きく括れば魔法の部類だと思ってもおかしくない。
だがその記憶障害は、正確には”魔法”ではなく、”天の掟による記憶操作”の影響なのだ。
つまり、0時を迎えたことにより、愛由海の存在に加え、愛由海が憑依した人物(結愛)が話した秘密話の記憶ごと、喪失してしまったことになる。
愛由海が由紗以外の者に自分の存在を知らせてしまったがゆえの、天からの措置ーーー。
スーミンの先述を振り返る。スーミンが結愛とカフェに行った話。
好意を寄せている由紗と話す機会を(愛由海に憑依されたせいで)なくした結愛を不憫に感じた優男スーミン。そのフォローとして、カフェで”甘党男子”結愛の好きなケーキ3つとカフェラテを奢った時の話だ。
愛由海が結愛の体から抜けた瞬間から、結愛の記憶は鮮明だった。だが、それ以前の記憶がほぼ消失していた。
由紗と念願の対面直前に愛由海に憑依され、意中の由紗と知らぬ間のデート…。極めつけは、由紗が族時代の因縁の相手、君藤の彼女になってしまった…。結愛が最も不憫な人物なのは間違いない。
「俺、ファンタジー映画大好きなんだけどさぁ、まさか自分がその世界に足を踏み入れるとはね〜」
「あんたすごっ!そのポジティブ解釈!!」
能天気ファンタジーバカ・スーミンと、ナイスツッコミの莉茉に乾杯!!
わけのわからない記憶障害に対する困惑をも吹き飛ばしてくれるような、スーミンの前向きな言葉に救われた由紗たちなのでした。
**
その日の放課後、私は校門前で君藤先輩を待っていると、
「由紗ちゃ〜ん♡ヤッホー!!」
元気良すぎる美形男子がブンブン手を振って私に近づいて来る。
「恵瑠くん、ヤッホー。その節はどうも…」
なんだかとても気まずいのは私だけなのだろうか。監禁されて酷い目に遭ったり、男性好きなはずなのに好意を持たれてるような、そうでもないような…。そんな私の複雑な心境などつゆ知らずの恵瑠くん。
恵瑠くんもやはりラブホでの記憶障害を訴えてはいたものの、スーミンと同じく、魔法にかけられたのだと断定し、この話は終了。今日は菫さんと萌香ちゃんとランジェリーショップに行くらしく、ここで待ち合わせしているらしい。(心は女の子寄りだもんね。)
ちなみに、私は以前そのランジェリーショップで勝負下着を購入。
「ところで、海李とはもう結ばれちゃった?」
口は笑っているのに、目は血走っている。なんとなく監禁男の時の表情に似ている。結ばれたというのは、付き合ってるってことなのだろうか。それとも…。
解答に躊躇しているとーーー
「昨日、やっとな」
とても自然に私の肩を抱き、小っ恥ずかしいことを口にしたのは、私の最愛なる王子様。
らしくなく大胆行動&大胆発言をしちゃったものだから、女子たちからの悲鳴のような声と、男子たちからの大歓声で、頭がクラクラする。君藤先輩は相変わらず”感情顔に出さず”でーーー。
(…これって、公開交際ってやつ!?どうしよう。明日からみんなの目が怖いよーーーっ!!!)
「…そっか。やっぱあん時、力ずくで奪っとけば…」
「…」
一瞬ピリッとした空気の中、対峙したように見えた二人だったが、すぐに恵瑠くんの表情が柔らかく変化した。
「えへへ。冗談〜。僕はずーっと海李オンリーだからお忘れなく!」
「…キモいけど、まだそっちの方がいい」
君藤先輩は恵瑠くんの耳元に近づき、周囲の誰一人として聴き取れないほどの小声で呟いた。
「俺の心臓、奪おうと思うなよ」
そっと恵瑠くんから離れた君藤先輩は、恵瑠くんの反応を伺っているように見えた。何が何だかわからない周囲は、その動向をじっと見つめた。
「ふーん。失うと死んじゃうってわけねぇ〜。降参♪ますます惚れ直しちゃうじゃん♡」
「悪い、恵瑠。絶対大切にする。散々喧嘩してきた仲だけど、本気でお前の幸せを願ってるからな」
「神妙すぎて笑っちゃうじゃん。…そんな簡単に、次々人を愛せるタマじゃないから。僕」
恵瑠くんが珍しく真顔になったと思った瞬間、キレのある腹パンチを君藤先輩にお見舞いしていた。
「うっ…!」
「君藤先輩!!」
気丈な君藤先輩は顔をしかめつつも、力強く恵瑠くんの肩に手を置き、言葉を絞り出した。
「…お前にありえないことが…起こってることぐらい…わかっ…てんだよ…。イッテェ〜…」
「あ〜スッキリした!ごめんね、由紗ちゃん。最愛の彼氏にひどいことして。でもね、痛い目にあわすのはこれが最後!幸せにしてもらいなね」
そう言うと、私の額に温かくて柔らかい唇を落としたーーーー。
その後私に見せた笑みは、恵瑠くんとは思えないほど柔らかで、動揺を誘うには十分すぎた。
「リップサービスならぬ、”リップ”のサービス。…な〜んてね」
茶化しつつも、私を見つめる瞳がなんとなく切なげに見え、私の胸を締め付ける。
君藤先輩は感情を殺しているのか、やはり無表情で私と恵瑠くんを見つめていた。先ほどの言動からして、きっと恵瑠くんの、私が知り得ない何もかもを君藤先輩はお見通しなのだと察しがつく。
「行くぞ。またな、恵瑠」
「うん。海李、今度は僕とデートしてね♡」
またいつもの恵瑠くんに戻ったけれど、私の胸を締め付けたあの切なげな表情が、脳裏から容易に消えはしなかった。
私は歩みを進める君藤先輩のあとをついて歩いていたが、後ろ髪を引かれる思いがして、ふと立ち止まる。そして振り返り。
「恵瑠くん!ありがとう!!」
その言葉しか出てこなかった。
私たちに背を向けている恵瑠くんだったが、片手を上げ、何度も大きく左右に振った。
様子を見守っていた君藤先輩が私の腕を掴み、進行方向へと誘導した。
少し歩みを進めたところで、前を向いたまま私への苦情を吐露した。
「お前ってさぁ、さっきみたいなああいうとこが男を狂わすんだからな」
「え?どんなとこですか?」
「恵瑠との別れ際のアレ、とか…」
「あー!おでこにキスされたこと怒ってるんーーー」
「茶化すな。天然女…」
「私が天然?」
「そう…。まったく、常に覚悟はしてるものの、無自覚だから頭いてぇわ…。首輪つけとくかなぁ」
まさかそんなことを呟いていたなんて思いもよらない由紗は、もう一つ地雷を落とす。
「あの切な顏、心揺さぶられちゃったなぁ…」
私の腕を掴んでいる手に、力と熱がこもる。
「マジで買ってこよ。首輪」
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