あゆみくんの真実

「あゆみくん、いつでも俺に入ってきてくれていいよ」


 その志希先輩の言葉を皮切りに、プロジェクトが進み始める。


 と思いきやーーーー!


「おーい、わしの愛しの由紗や〜」


 ここ、相川神社の神主であるうちのおじいちゃんが現れた。その途端、みるみるうちに暗雲が垂れ込めた。


「もう!またおじいちゃんウザ絡みしに来ちゃったの?」


 ちょっと面倒でパワフルなうちのおじいちゃんの登場により、一大プロジェクトの進みが遅れることは免れない。となると、あゆみくんが消えてしまう時刻までに謎が明らかになるのだろうか。疑わしい。


「あの…君藤先輩、志希先輩。私のおじいちゃんです…」


 君藤先輩と志希先輩は、ともに柔らかな笑みを浮かべ、おじいちゃんに対し丁寧に挨拶をした。


「えっ!?また神様が現れた」


(は!?あゆみくんまたそれ言ってるし!あのね、この人は私のおじいちゃんであって神様じゃないって!似てるだけじゃない?)


「ううん。この人は絶対に神様だよ」


 わけがわからない。うちのおじいちゃんは神様顔なのだろうか。



「わしゃぁ、君のことは重々承知しとるぞ」


「え。俺、ですか?」


 いつもになく目力の強いおじいちゃんがロックオンしたのは、君藤先輩だった。


 君藤先輩同様、私の頭の中も疑問符が充満していた。


「あの、俺最近ここに来たことありますけど、その時おじいさんとはお会いしてないかと…」

「それでもわしは知っとるぞ」

「いや、今日が初対面だってば。おじいちゃん!」

「そんなにムキになるなよ、由紗。神様の言うことは絶対なの!どっか…そうだなぁ。空からでも見てたんじゃない?」

「本当に神様ならね!けどうちのおじいちゃんはあの通り、現実に生きてますから!」


 少々ムキになってしまった私は、心の中だけの会話じゃままならなくなった。よって、自然と声を介して言葉を紡いでいた。今までなら君藤先輩に不審がられていたはず。しかし、あゆみくんの存在を知った今、自然と受け止めてくれている。


 ふとおじいちゃんへと視線を向ける。御影石に腰掛け、寝息を立てていた。


「マイペースだなぁ、おじいちゃん。…それよりさぁあゆみくん、”由紗さん”って言ったり、今もそうだったけど、”由紗”って呼び捨てしたり…。わけわかんないよ」


「”由紗さん”って呼んだことなんて、一度だってなかったよ。元の世界じゃあね」


(…元の世界?)


「そうだよ。”由紗さん”呼びはこっちの世界限定にしようって決めてたのに、習慣は侮れないよね。何度も”由紗”って呼び捨てしちゃってさ…」


(…こっちの世界?)


 なんとなくいつも聞こえてくる私の後方から、声だけで感じていた気配とは違う、ただならぬ気配を感じた。



「由紗、後ろ向いて」



 君高コンビが私の後方をともに見て、声なく慄いている。


 だから向いてと言われても、思わず体がこわばってしまった。


 ようやく声を発した君高コンビ。その会話に、ますます慄いてしまった。


「血…だよね?」

「だらけ、じゃねぇ…?」


(え…?血だらけ!?)


 あゆみくんがもうすぐ消えてしまう。だからこそこのタイミングで本当の自分の姿を私たちに見せる気になったのだろうか。


(…あ!もしかしてあゆみくん…。)


 以前、私を混乱させるから顔は見せられないと言ったのは、血だらけだったからだと理解できた。


「顔のパーツ、血が邪魔して見えづらいけど、わりと端正な顔立ちっぽいよね」

「そう…かもな」


 二人のその淡々とした感想により、少しは力が抜けてきた。だけど、すぐに振り返ってあゆみくんの姿を見ることができないでいた。


 血だらけはやっぱり見るのに勇気がいるし、恐ろしい。


 思い返せば、あゆみくんの言葉はいつも違和感でいっぱいだったような気がする。


 そもそもなぜあゆみくんは私の元に執着したのかーーーー。


 大切な人を生還させるべく、なぜか私の”恋愛成就失敗”を願ったあゆみくんーーーー。


 意に反し、過酷なミッションクリアの暁には、恋愛成就させると私に14つのミッションを課した(ラスト一つ残すのみ)。


 ことごとくクリアする私に対し、やけくそなのか、恋愛成就に加担した。


 ーーー結局のところ、私を応援してくれてたんじゃないかと、錯覚してしまう始末。


 ここで振り返ってしまうと、もしかしたら、見たくもないものを見てしまうような気がしてならなかった。


 けれど、私が躊躇することは許されないと思った。


 あゆみくんは結局、私に対し悪態をつこうがなんだろうが、本人曰く、私の未来を幸せにしようとしてくれていた。


 それはまったく意味不明だけれど、恩義に報いるために。


 さあ。勇気を出して!


 とうとう振り返った途端、


「!!......うそ......」


 想像以上の衝撃を受けてしまったーーーー。



 あゆみくんとみられるこの人は、顔や体全体血だらけで亡くなったのだと思った。


 そして、この世のものとは思えない、とても不可思議な炎のようなオーラ?を纏っていた。


 私はそのすべての光景に胸が締め付けられ、すぐに涙で視界が見えづらくなった。


 体の力が抜けてしまい、ふらっと立ちくらみがした私の体を抱きとめてくれたのは、君藤先輩だった。


「しっかりしろ。あゆみくんはお前に言いたいことがあるから、こんな姿でも現れてくれたんだろ」

「そうだね。俺に憑依すればこんなにも悲惨な姿、晒さなくて済んだのに…。姿を見せたのは、真実から目を背けず、由紗ちゃんと向き合おうと思ったからじゃないかな」


 私に悪態をついてる時。真剣に本心を吐露してる時。笑ってる時。


 姿が見えないだけに、想像はいつも声色で判断していた。


 ”健全そうな人間”の姿を想像していた。なのにまさかこんなにも悲惨な姿で…。私のそばで、ずっと私のことを見守ってくれていただなんて…。にわかには信じがたい。


 こんな時にもかかわらず、私はあることを想起した。


 四谷怪談のお岩さんは男女関係のもつれから,薬と偽って毒をもられ、容姿が醜く変貌してしまい,ショックのあまり死んでしまった。そしてその醜い姿のまま幽霊と化した。


 あゆみくんもそうなのかもしれないと推測してしまった。つまり、不運の果てに命を落とし、最期の姿のまま私の元に来てしまったのではないかと。


 どんな目に遭って現在に至ってしまったのだろう。事故。殺人事件。それとも…。


 今一度あゆみくんの姿を見て、そのことを聞こうとした。


 けれど、それには及ばなかった。


「泣かないでよ、由紗。察しの通りだよ。俺、車にひかれちゃったの」


 驚きはしなかった。むしろ想定内。血だらけが物語ってますから。


「そうなんだ…。今でも痛い?」

「そうでもないよ。顔から足先までのほぼ全身傷だらけなんだけど、大袈裟に出血しちゃってるだけだから。ただ、打ちどころが悪かったのかもね」


 あゆみくんはあっけらかんとそんなことを言う。


「ところでみなさん。俺の顔見てなんも気付かないの?血だらけでわりとカッコいいってだけ?」


 私と君高コンビは、じーっとあゆみくんの顔を見つめた。



「あゆみくん。君さぁ……父親似?母親似?」



(へっ…!?)


 何か思い当たる節があるのか、君藤先輩が神妙な顔でそんなことを聞くと。


「父親似じゃない?」


 あゆみくんの返答を待つより先に、志希先輩が確信ありげにそう言った。


「そうだよ」


 やっぱりね、と目を輝かせて言う志希先輩の隣で、君藤先輩は表情に変化を見せず、引き続き神妙な面持ちであゆみくんを見つめていた。


「二人は気付いちゃったんだ。…で?由紗はまだ気付かないの?」


 正直に答えます。


「…わかりません」


 痛々しいあゆみくんは、あからさまに拗ねた表情でヒントをくれた。


「言ったじゃん。俺の顔を見たら由紗を混乱させるって」

「え…それは、血だらけだからじゃないの?」

「それもあるけど、よーく俺の顔見て。俺、父親にそっくりなんだ。マザコンだけどね」


 血だらけの顔が、ぬおっと私の目の前に近づいた途端、息を呑む。


 切れ長の目、スラッと通った鼻筋、形のいい口。それと、じーっと見つめる表情が特にーーーー似ている。


 答えに辿り着いたとほぼ同時に、あゆみくんが最大のヒントをくれた。


「顔もだけど、同じぐらいよく言われてたなぁ。父親と”声も似てる”って」


 その最大のヒントを聞いた私は、当分の間、絶句していた。


 頭を整理するにも、思考回路が完全にストップしてしまった。


 君高コンビは、そんな私を見守りつつも、沈黙を貫いている。


 ようやく少しだけ冷静を取り戻した私は、意を決して答えを告げる。



「君藤先輩が、あゆみくんのパパなの?」



 叫び気味に声を発した。そして、ある疑問にたどり着く。


(それじゃあ、相手は…お母さんは誰!?この先出会う人との子!?イヤダイヤダイヤダァ〜〜ッ!!!)


「私には全然…1ミリも似てやしない…」


「プッ」


 落ち込む私を見て吹き出したのは、君藤先輩だった。


「お前、アホなの?」


「えぇ…?」


「いや、いい。そのままいろいろ考えてろよ」


 君藤先輩は意地悪だ。私がどれだけあゆみくんの母親の存在に嫉妬しているのかわかってくれるつもりはないらしい。


 でも、ここはとりあえず冷静になろう。


 ーーーそう。声についてはあゆみくんと出会った初っ端から感じていた。


 君藤先輩に似ているとーーーー。


 だけど、なぜだかわからない。


「あゆみくんは、過去から来たんじゃないんだね」


【過去】から今の君藤先輩と同じぐらいの大きい息子が来るなんてありえない。それと、なぜあゆみくんは父親である君藤先輩ではなく私に執着し、私の幸せを願ったのだろう。



「あゆみくん。お前、”未来”から来たんじゃねぇの?」



(…え?未来?……そっか!過去じゃないなら未来ってことか。未来からなら辻褄が合う!)



「なんでもお見通しかよ、先輩は」


「あゆみくんがこいつのそばに来た理由は、こいつを守るためであってる?」


 あゆみくんはじっと君藤先輩を見つめたまま、小さく頷いた。


「…あー、そういうわけか。ずっと由紗ちゃんのそばにいるのって、未来で由紗ちゃんに何かあって、過去にさかのぼって守る必要があったから…とか?」


「うん。なにもかもその通りだよ。俺は、由紗を守るためだけに、未来からこの世界に来たんだ」


 そう断言したあゆみくんと目が合い、私に屈託のない笑顔を見せた。私の心情を読み取ったのか、その笑顔は、『心配いらないよ』と宥めてくれているようだった。痛々しい姿のため、説得力に欠けるけれど…。


 私を守るために、未来から過去にやって来たと言うあゆみくん。


 あゆみくんとはどんな関係で、私の身に何があったんだろう…。とても気になるけれど、怖くて聞けない。


 だけど、本当に不思議だ。


 現代を生きる者が異次元の世界にワープするという話は、ドラマや映画ではよくある設定。


 あと、過去や現代で亡くなった人が、幽霊として現世界に現れることは当たり前のことだと言える。


 ところが、未来で亡くなった者が現世界に現れるなんてこと、現実や物語でも聞いたことがない。


 だけど、なんとなくわかったこともある。


 あゆみくんのこれまでの意味不明な発言は、すべて今の世界以前のことを知っているかのような話っぷりだと感じていた。


 だけど、未来で産まれたあゆみくんは、ただ知っている情報をイタズラ本意でポロッと呟いてしまった。ということなのだと思う。


 初登場人物の名前を教えなくてもすでに知っていたり。(でも、志希先輩は君藤先輩のことを『海』と呼んでるのに、『海李』と呼んでたって断固として言い張ってたっけ。ま、呼び名はコロコロ変わっても不思議じゃないか。不思議なのは、恵瑠くんに関してはではなく、だったんだよね…。ある想像はするものの、未来でのことは、あえてこれ以上詮索しないでおこう。)


 志希先輩は霊感が強い者として、確信を得ていることがあった。



「でもさ、あゆみくん。君、まだ幽霊なんかじゃないよね」



(・・・・・はい!?幽霊じゃない!?!)


 驚くことが多すぎてわけがわからなくなった私は、とうとうその場にへたり込んでしまった。


「どうもおかしいと思ったんだ。君に憑依されてる時、ダイレクトに君の心情をキャッチできたとしても、その背景がまったく見えてこなかったからね。中途半端な幽霊的感覚って言うのかな。こんな感覚初めてだったんだ」

「正直言うと、俺自身も今の自分が幽霊なのかなんなのか、さっぱりわかんない」


「君、瀕死状態のまま幽体離脱して過去にワープしてきたんじゃないかな」


 志希先輩の見解はそうらしいが、異次元すぎてますます信憑性は不明。


 御影石に腰かけて寝息を立てていたはずのおじいちゃんが、豪快な欠伸をし、何かを話そうとしていた。


 すると、志希先輩がおじいちゃんを手で制止し、また耳を疑うようなことを告げた。


「みんなに伝えておくけどさ、おじいさんのこと、みんなさっきから普通に見えてるよね?でもこの人、この世の者じゃないよ」


「は!?」

「え!?」


 驚いたのは君藤先輩と私だけ。


(じゃぁ、さっきあゆみくんがおじいちゃんは君藤先輩を空から見てたっぽいこと言ってたけど、あれって天国のことだったんだ。…って!待て待て!!じゃあこのおじいちゃんは…え!?死んでんの…?死者が見えるの?私!もう訳わかんないからっ!!!)


「さすがにすごいなぁ、志希くんは。やっぱイケオジはずーっとかっこいいままなんだね」

「え。俺、未来でイケオジになってんの?」

「そうだよ。あと…いや、未来のことをペラペラ暴露しちゃいけないんだっけ?神様」


 口元に握りこぶしを当て、ゴホンッとわざとらしく咳払いをしたおじいちゃん。


「そうじゃのう。未来のことを教えてしまうと、あるはずの未来がなくなる可能性があるんじゃ。のう」

「本来ならを強調する理由はなんなの?神様」

「もうそんなことは言っとられん状況にきとるんじゃ。どっちみちあゆみとわしは未来にもうすぐ戻るタイムリミットが訪れる。だからわしは、君らに未来の話をしに来た」


 いつものおじいちゃんの様で、この世の者ではない神様が、本来なら禁止のはずの未来のことを私たちに告げに来たというのだ。


 本当に神様なのだろうか。咄嗟にそれを確かめる方法を見つけた。


 へたり込んだままの私は、おじいちゃんに向かって手を伸ばした。


「はい、おじいちゃん。手を貸して。立ちたいからさ!」


 すると、おじいちゃんの眉間にシワが寄った。


 私は勢いよく立ち上がり、おじいちゃんの手を握った。


「あれ?おじいちゃんは、この世の者ですね…?」


 感覚がある。どころではなく、おじいちゃんは私の手を強く握り返してきた。


「神様なんてここにはいないよ、あゆみくん!志希先輩も!おじいちゃんはこの世の者ですよ」

「触れることができたってだけじゃ、それは証明できないよ」

「え?」


 私に意味不明なことを言うあゆみくんに、おじいちゃんは珍しく神妙な面持ちでゆっくりと話しかける。


「すまん、あゆみ。わしはな、神じゃあないんじゃ」


 目を見開き、驚きを隠せない様子のあゆみくん。


「え?でも…」

「ほらみなよ、あゆみくん。おじいちゃんは神様じゃないじゃん」

「わしは、ただの幽霊じゃ」

「ほらみなよ。おじいちゃんは神様じゃくて……え!?幽霊??」

「じゃあ神様だと俺に嘘ついたってわけ?」

「ああそうじゃ。わしはただの幽霊。家族思いのな。あゆみに神だと嘘をついたのは、単純に神の言うことには誰しも従順になるものじゃろう。だからじゃ」

「ホント意味不明…。けど、外見的には納得かも。神様にしては薄汚くて、胡散臭かったからなぁ」

「おいあゆみや。爺に酷すぎんか?泣くぞ」

「おお、泣け泣け!嘘つきジジイ!」

「酷いぞあゆみ。爺は泣く!」

「…だけどさぁ、こっちに来て由紗のおじいさんと神様の顔が瓜二つだから驚いたなぁ」

「あゆみが住む未来にわしはもうおらんからな。由紗が結婚した少しあとにぽっくり死んだんじゃったかのう。この世界のわしは今居眠り中じゃったから体を借りたんじゃ」

「だから霊感のない海にもおじいちゃんが見えてたってわけだよ。由紗ちゃん」

「はい…。幽霊おじいちゃんとここで生きてるおじいちゃんの”コラボ”だったんで、紛らわしかったんです…。でも、嘘つき呼ばわりしてすみません…」


 プッと顔を逸らし吹き出し笑いをする君藤先輩。


「コラボって…」


 君藤先輩の肩に手を回した志希先輩は、コソコソと君藤先輩の耳元で何かを囁いた。


「こういうとこだよね。女子にさほど興味のない海を虜にさせる由紗ちゃんのいいところって」

「し、志希先輩っ!虜だなんて…」


 私は照れながらも、君藤先輩の顔を覗き見た。ーーー案の定、無表情でそっぽを向いていた。本当に可愛い人です。


「照れるなって。それに由紗ちゃんの素直に謝れるところもたまんないなぁ〜」

「エロい言い方やめろ」


 志希先輩はきっと、おじいちゃんが登場した時から幽霊だという正体をお見通しだったのかもしれない。


「ねぇ神様…じゃないか。幽霊の爺ちゃんは、いつ未来から過去にやって来たの?」

「あゆみ、お前と一緒にじゃ」

「え…マジで?ずっと見張られてたんだな、俺」

「そうじゃ。あの時のお前は、とても放ってはおける状態じゃあなかった。危うい精神を閉じ込めたまま、死を待たせるわけにはいかんかった。生死を彷徨うあゆみを過去であるこの世界に向かわせたのは、このわしじゃ。薄れる意識に中、お前は切に願ったじゃろ?両親二人の出会いからやり直して、自分を消したいとな」

「え?あゆみくんがそんなことを…」

「その願いはさておき、過去の両親に対面させてやらにゃいかんと思ったんじゃ」

「なんで?そこまでして瀕死のあゆみくんをこの世界に来させる必要があったの?」

「それはな、由紗。さっき言った通り、わしは家族思いなんじゃ。両親のことを誤解するわからず屋を軌道修正させるには、他に手立てはなかったんじゃ。大事なひ孫のためじゃからのう」


(それって無謀すぎやしませんか!?…え、ちょっと待って??今、”大事なひ孫のため”って言ったよね!?……ってことは、おじいちゃんの孫である私は、まさか…!!)



「お前の子でもあるんじゃねぇ?あゆみくん」



 ちょうど今その事に気付いてはいた。だけど、”あゆみ’s daddy”であることが早々と確定していた君藤先輩直々にそれを言われてしまっても…。にわかには信じ難い案件なのでございます。よって、当のあゆみくんに困惑な表情を向けてしまう私…。


 すると、”こくんこくん”と二度、平然とした様で頷いた。まるで、『やっと気付いたの?』とばかりに呆れられているようだった。


「お前、ほんとアホだわ」


 またそれを言う…。



「俺がお前を手放すかよ」


「……え、君藤先輩!」


「お前が好きになる男は俺だけじゃん」


「すごい自信ですね。悔しいけどその通りですが!」


「お二人さん。ごちそうさまでーす!」


 幽霊一体と、未来から来た臨死体験中のギリギリ人間一人。そして、人間三人のやや緊張感のある空気が一転、和やかな空気へと変化した。


「由紗を守れるのは俺じゃなくて、絶対的に先輩なんだってことを思い知ったよ」

「ん?何?あゆみくん」

「由紗に言ったんじゃないから気にしないで。神様…じゃなくて、ひい爺ちゃんに言ったの」


(へぇ、そうですか!…あ、そういえば。)


 このタイミングで気付いたことがある。さっきおじいちゃんは、君藤先輩を知っていると言っていた。そしてあゆみくんが空から見てたのだと言った。それはきっと、神様だからという理由からだったのだろう。でも私は、実際は違うのではないかと推測した。


 私たちが高校生である”現在の世界”では、まだ君藤先輩とこの世界のおじいちゃんは出会っていない。だけど未来から来たおじいちゃん(今目の前にいるこの世界のおじいちゃんに憑依中の幽霊)は、私の伴侶となった未来の君藤先輩のことを知っていて当然なのだ。だから、さっきのおじいちゃんの言葉を思い出し、納得できた。


『わしゃぁ、君のことは重々承知しとるぞ』ーーーー


 徐々に真実が明らかになっていくーーーー。


 それにしても、なんということでしょう。顔がニヤけてしまう。


 出会った当初からの謎だったあゆみくんの正体。それは...。



 君藤先輩と私の間にーーーー


 将来誕生する【息子】だということが判明した......ーーーー。



 予想すらしなかった真実。


 あゆみくんの正体は、君藤先輩と私の


 ーーーー愛の結晶だった。


(念押し報告...。)

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