キスマークとラブホの真実
今日は週末。まったりの土曜日。ともいかない状況です…。
昨日の出来事(あゆみくんが結愛くんに憑依・ラブホに友達大集合なのに私爆睡・君藤先輩に連れ去られたのに私爆睡・君藤先輩と念願のお付き合い開始・イチャラブなしのお泊まり等々…)で頭の中はお花畑と嵐が融合した、摩訶不思議な感覚に苛まれているところ、追い討ちをかけられる…。
覚悟はしていたが、莉茉からのSNSはすこぶる騒がしい。そこには悪気はないのだろうが、初っ端から聞き捨てならない言葉が連なっていた。
そっちはもう本人から聞いてるのだろうけど、こっちはまだ何も聞かされてはいないのだ。そう。頭の中に嵐が吹き荒れているのは、それのせい。
【由紗〜♪昨日はいろいろとオツカレ〜!!結愛くんに乗り移ってたあゆみくんサイコーにいい子じゃん!あんたの未来はイケメン2人に囲まれて羨ましい限りだわー!おーっと!まだ聞いてなかったらごめんよぉ〜(汗)】
(…ええ、そうなんすよ。まだ聞いてないんすよ。…で、私の未来に存在するイケメン2人って誰と誰?)
疑問オンパレードはまだまだ続く。
【おとぎ話みたいな話だけど、ああも真剣に言われちゃあねぇ。】
(……おとぎ話のような話を真剣に、ねぇ…。)
私は素直にそばにいるアイツに、不満をぶちまけた。
「私より先にみんなにすべてを話すとは思わなかったなぁ…。私も含めて話してくれると思ってたからさ…」
「…ごめん」
「そんなにもうこの世から去りたいの?48時間以内に。それってさ、自分に課せた秘密のミッションだったりして。みんなに話して戻るべき世界に行くべし!っていうミッション」
「さあねー。けど、もう由紗さんに疲れたから、戻るべきところに帰りたいよ」
飄々と言い放つものだから、溜まりつつある不満をつい吐露してしまった。
「私には手の甲のキスマークが消える頃に話すって焦らしたくせに!」
「いや…最初はさ、最後の足掻きでキスマークつけて先輩への挑発だけを狙ってたんだよ。でもなんか最後に少しでもファンタジー要素のある展開があってもいいかなぁ〜って思ったからさ。女子は好きそうじゃん?そういうの」
「好きだけどぉ!あゆみくんとは出会い自体がファンタジーだから!そもそもみんなに話してから48時間以内にキスマークが消えるって、マジで思ったの?キスマークは消えなくてあゆみくんが消えたんじゃ、私だけあゆみくんのこと知らないままだよね!?」
「それはそれで幸せかもよ?」
「無責任にそんなこと言うな、コラッ!」
「うっ…コワー。ごめん。正直深く考えてなかった。俺のくだらない適当な設定を気にしててくれて感謝してます…」
「まったくいつも私を振り回して…調子いいんだから!」
「…ところで由紗さん」
改まった声色の変化に、昨日の事を聞かれると思い、静かに鼻で呼吸を整えた。
「なんでしょう」
「今日朝帰りだったけど、昨日は先輩とイチャイチャしてたわけ?」
ほらきた。
「ちょっと期待したけど、二人とも疲れてそばで寝ただけだよ」
「へぇー。期待してたんだァー。だから今日なんとなく沈んでるの?」
「愛する人とは結ばれたい。ただそれだけだよ」
「…なにそれ。名言っぽーい。…で?付き合うことになったんでしょ?」
そうだった。一番肝心なことをまだ伝えられてなかった。
「うん。そうなんだ、あゆみくん。今までいろいろと…結果的に力になってくれてありがとう!!本当に…成就しちゃいました……」
「複雑そうな顔しないでよ。難関だったであろうミッションを難なく突破するとはね。神様は俺じゃなく、由紗さんに味方したってわけ。不本意だけど諦めるしかないよなぁ」
「あゆみくん…」
よぎるのはやっぱり、あゆみくんの大切な人のこと。
「なーんて本心を言ったらヤなヤツだよね」
「口に出して言ってんじゃん。ヤなヤツめ!」
あゆみくん。君は今、どんな表情をしているのかな。私のために意図的に明るい声で話してくれているのだろうか。気持ちとは裏腹に。
「ま、おめでとう。…じゃあ、お祝いに俺のすべてを由紗さんに教えてあげる。あのね、俺の正体はーーー」
「あーっ!待ってあゆみくん。心の準備ができてないよ。急ぎすぎじゃない?」
「言ってるだろ。俺には時間がないんだよ」
壁に掛かる、趣のある木の時計を見上げた。時刻は午前11時20分ーーー
あゆみくんがみんなに話してからもうすぐ17時間が経過する。
「あのね、キミの真実を聞くのって、君藤先輩と一緒じゃダメかな」
「先輩も…?」
「ダメかな。けどそこをなんとか!」
必死に頼み込む。
「先輩、前から俺の存在に気付いちゃってたかもね。まあ志希先輩が霊感強いから、ずっとはほっとかないんだろうなぁってわかってたんだけどね」
「志希先輩に遊園地で記憶がなかった時のことを一度聞かれたことがあったじゃん。きっとあの時らへんに君藤先輩もあゆみくんの存在に気付いてたのかもね」
「おそらくね。で、どうやって先輩と一緒に俺のことを聞くつもり?先輩には俺の声は聞こえないよ」
「そのことなんだけどさ、今度はちゃんと許可取って志希先輩に憑依させてもらってさ、志希先輩経由で真実を話してもらうってのはどうかな」
「志希さんが許可してくれたら、その方法でいいんじゃね」
あゆみくんは私の未来を幸せなものにするために、あの世から再びこの世に舞い戻った。ということは、あゆみくんが生き返らせたいという大切な人と私には、なんらかの接点があるのだろうか。
君藤先輩との恋愛成就のためのミッションだと提案。遂行させながらも内心失敗するよう願い、なぜ失敗の暁に大切な人の命を生き返らせるということになるのだろうか。
もうすぐその最大の疑問を解消できるに違いない。
「あっ、そういえば、結愛くんはあれからどうなったの?」
会ったことも、話したこともない私のことを気に入ってくれて、デートにこぎつけてくれたというのに…。
今回のミッションは当初、【あゆみくんとデートをする】というミッションを課せられていた。しかし、あろうことかあゆみくんは、『運命を感じたから』という理由で結愛くんに憑依。結局、【あゆみくん以外の男子とのデートをする】というミッションに変更。とは言え、体は結愛くんでも、中の人はあゆみくんなのだから、”以外の男子”と言われても…。なんとも複雑だ…。
そんなこんなで、あゆみくんの気まぐれに振り回されっぱなしの私なのです。
よってあゆみくんの憑依先の結愛くんとのラブホデートをミッションとして遂行。友人たちを呼び寄せ、これからがお楽しみ!というところでまさかの爆睡。だからその後のことが気になって仕方なかった。
聞いたところ、結愛くんも志希先輩同様わりと霊感があるらしく、憑依された経験がしばしばなんだとか。
『せっかく由紗ちゃんとのデートだったのに、憑依されて記憶ないなんて最悪だよ。でもまたデートしたいな』
と、リベンジを企んでいるとのこと。その後はスーミンとパンケーキが有名なカフェを堪能しに行ったとか。
(きっとスーミンがフォローしてくれたんだなぁ。事情を知った上での機転に感謝!!)
結愛くんも昔、君藤先輩たちとやり合うほど悪かったらしい。だけど、今は君藤先輩と同じく、そう感じさせるような節はない。
(ほほーん。運命を感じただけじゃなくて、霊感ありきで体の相性がいい人だったわけか!)
「うん。まあそうだね。馴染んだよ。とっても♡」
(ちょっと卑猥…。)
ここでまた莉茉からのSNSが。
「……ん??何これ。昔話??」
内容はこう。
【王子様はいきなり部屋へ押し入り、眠姫をお姫様抱っこした。連れ去る直前、皆の方を振り返り、余裕綽々たる態度でこう言い放った。
『悪いけどこいつは連れてく。今度は二人だけで来るから。じゃ』ーーーーと、ニヤリ。二人はキラキラと輝きを放ち、去って行った。残された皆は、当然歓喜に溢れた。めでたし。めでたし。】
何度見返しても、どんなシチュエーションの物語なのかわからない。眠姫をさらう王子がドヤ顔でそう言ったのだろうが、いまいち胸に迫るものがない。よって。
【何これ。少しだけ気になる物語だね。】
こんな陳腐な感想を述べるに留まる。
【王子は君の王子♡これでピンとこい!!】
私の王子=君藤先輩?
そっか。莉茉が急にわけのわからない物語の一節を送ってくるわけがない。さっきからのメッセージとの脈絡がないわけがないのだ。昨日の話に関することだ。そうなると話は別。ただの昔話ならなんら胸に迫るものはない。
だけどこれは、私が知らない昨日の出来事のワンシーンーーーー。
君藤先輩が王子様で、私が眠姫。
昨日君藤先輩(王子様)は、ジャスミンの一室で眠る私(眠姫)をさらいに来た。そして。
『悪いけどこいつは連れてく。今度は二人だけで来るから。じゃ』ーーーー
あの女嫌いで有名な君藤先輩が、みんなの前でよりによって意外にも大胆胸熱宣言をしたのだ。
(ラブホは”恋人たちの聖地”(自論)だから、今度は二人だけで来たいという願望があるってことですか!?♪♪)
にわかには信じ難いが、莉茉は嘘をついて友達をぬか喜びさせるような悪趣味ではない。
(マジですか?今度は私と二人だけでラブホに行ってくれるんですね!!キャーッ♡余裕綽々でみんなの方に振り返って言い放つ様が脳裏に♡ニヤリもたまんないっ!!この前買った下着上下セット着て行こっ♪♡)
「……あのさ、そんな大胆なこと、恥ずいから心の中でさえ呟かないでくれる?俺には筒抜けなの忘れんなっての」
「いいじゃんいいじゃん。照れずに聞いてて。両想いになった女子の脳内はみんなこんな有様だからね!」
「そんな有様、男は知らなくていいんだけど。女をうぶな生き物だとは思ってないけど、許容範囲を超えない程度ではいてほしいよね…」
肝に銘じておきます…。反省半分。だけど嬉しさも半分。なぜなら男性側の意見は貴重だから。普段こんなふうに男性からのダイレクトな言葉を聞けることはなかった。あゆみくんと出会うまではーーーー。
もっと。これからもずっと。あゆみくんには私のそばにいてほしい。そう願うことはいけないことなのだろうか。現実的には無理だからこそ、愛しさが募るのだろうか。それらの気持ちは一向に説明がつかない。友情愛?きょうだい愛?単なる情?はっきりと言えることは、恋心ではないということ。
このモヤモヤとした感情を持て余すには、少々覚悟が足りないのかもしれない。
ーーーーあゆみくんの正体判明まであとわずか。
度肝を抜く真相に、驚愕しすぎて心臓持ちません状態に陥る未来など、この時想像すらできなかったーーーー。
その後、愛由海君は何の脈絡もなく、独り言のようにボソッと呟いた。
「先輩はホント、可愛い人だよ。『お前は俺を…』って、中途半端な問いかけでも確認せずにはいられない性分なんだから」
「え?なんのこと…!?」
「自分への愛を確認したがるわりには、ツンデレゆえにこじらせ具合が可愛いんだよ。あの人」
「…んー?だからさぁ…」
いつもの愛由海くんによる”気になりすぎる意味深発言”に翻弄されてる感が否めない由紗。
「今はわかんなくていいよ。大丈夫!由紗はツーカーでその問いかけに喜んで返事するから」
『お前は俺を』の後に続く言葉は何かと想像する由紗だったが、想像力が乏しいのでお手上げ状態。
『お前は俺を…』ーーーー
『はい。愛してます』ーーーー
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