ミッション11:他の男とデートせよ!!

 **


「うわー初めて来たー...。こんなエロエロムードの中何すんの?3対4でヤッちゃーーー」

「そんなので呼んだんじゃありません」



 いつもになく初っ端からエロ発言をかますスーミンに、なぜか敬語で応戦する私。


 理解はできる。この妖艶且つ官能的な部屋が媚薬と同じ役割を担っている。つまり、この部屋の雰囲気に流され、男性の野生の部分を隠しきれなくなった。ってことなのだろう。


「…ありがとね、来てくれて」

「いいよ全然。いやー、まさか結愛がこんなにも早くユーミンに手を出そうとするとは。友達として誇らしいよ。男の鏡だわー。痛っ」


 やっぱ感性おかしい...この人。拉致事件(未遂)の時の恩人だけど、冒頭の卑猥発言の制裁として、ちょっと肩を小突いてみた。


 あゆみくんが呼んで欲しいと願った私の友達は5人。スーミン、莉茉、萌香ちゃん。そしてなぜか恵瑠くんと菫先輩...。


 まずスーミンを最初に誘った。


『結愛くんと興味本位でラブホに来たから、変な気を起こさないためにみんな誘ってワイワイしちゃおうってことになったの。お願い来て!』ーーーー


 と強引に誘った。私は恵瑠くんと菫先輩の連絡先は知らなかったから、ランジェリーショップに訪れた日に二人と積極的に連絡先を交換していた萌香ちゃんに連絡係をお願いした。ほぼ同じ誘い文句を使ってもらって。(『男友達の結愛くんって人と興味本位で...』以下同セリフ。)


 スーミン以外(萌香・菫・恵瑠)はどこかで落ち合って仲良く【ジャスミン】へと入館しようとしたところ、入口付近でぼーっと突っ立ってたスーミンを恵瑠くんが発見。


『あ、その節はゴメンナサイ!憶えてる?僕のこと』

『あー、憶えてますよ。あの節のストーカーくんだ。改心したんなら許します。まぁあれは最終的に君藤先輩においしいとこ譲っちゃいましたけどね』

『いやーん、キミってばオモシローイ!』ーーーー


 こんなあり得ないほどコミカルな展開により、仲良く入館の運びとなったらしい。4人全員キャラ立ちした逸材なだけに、これからの充実した2時間は保証されたも同然だ。


 莉茉は仕事中だったにも関わらず、お母さんの了承を得て参加してくれた。(忙しくなって手が回らなくなった場合、スマホが鳴るらしい。)


「由紗ちゃーん、会いたかったぁ〜♡ハグハグ〜ッ」


 菫先輩は私を見るなり両手を広げ、やたら私にハグをおねだりする。本当にかわいい人だなぁと思う。


「はわ〜♡相変わらずマシュマロオッパイ気持ちいーっ!!」


(…今日はダイレクトじゃなくて、挨拶がわりにハグで触れてきたわけね…。ウケるよ、この人。改めて思う。おっばい好きは男だけじゃないんだなぁ。)


「…菫先輩、この前は体調大丈夫でした?」

「あーうん。あのあと君藤くんが無事に送ってくれたから大事にいたらなかったよ」

「そうですか。よかった」


 ”よかった”とは何が?と自問する。君藤先輩が菫先輩を無事に家まで送り届けたから?それとも菫先輩が君藤先輩の彼女じゃなかったから?答えはきっと両者だと思った。どちらも頭をよぎったことに間違いない。



「萌香ちゃん、受験勉強とか大丈夫だった?忙しいのに無理言って来てもらっちゃってごめんね」


 萌香ちゃんは片手を突き出し、手のひらを何度も左右に振った。


「あーいいのいいの。由紗ちゃんのためならどこにいたって飛んでくるよっ♡」


 この子が君藤先輩の義妹でよかった。底抜けに明るい。柔軟な思考の持ち主。ノリも良し。君藤先輩の良き理解者。言わずもがな必ず君藤先輩の日常に花を咲かせてくれる人。


「ステキすぎる♡ありがとう!」


「恵瑠くん、今日はようこそ。来てくれてありがとね」

「何よ、殊勝なあんたなんて気持ち悪ーい…」


 フンッとそっぽを向く恵瑠くんの顔は、心なしか赤く染っている。その空気感に何かを察した萌香ちゃんが。


「へぇー。わかりやすっ!いやー由紗ちゃん…そりゃあ海くんもヤキモキして策士になるわけだわー」

「…え??」


 萌香ちゃんはハテナ顔の私の耳元に近づき。


「モテるって厄介だね」


 モテ…る??



『無自覚なんだろうけど…結構モテてるぞ。お前って…』ーーーー



 兄妹そろっての確証を得ない発言。なおも続く私のハテナ顔。鈍感ゆえの不憫。



「ところでさぁ由紗ちゃん。今日が初対面の住田の兄貴に聞いたんだけどさ、兄貴の友達の結愛くんが由紗ちゃんをラブホに連れ込んだって聞いてね。いてもたってもいられず殴る覚悟でやって来たってわけ」


『住田の兄貴』。ヤクザの世界に生息するスーミンが脳裏に浮かぶ。吹き出さずにはいられない。プッ…。眉間にシワを寄せ、私に冷たい視線を送るスーミン。余計にヤクザっぽいからやめてほしい。また吹き出し、睨まれるのループ。状況に飽きたら、萌香ちゃんに気になる質問をした。


「萌香ちゃん...。あの...ここに来ることは…君藤先輩にはーーー」

「あー、大丈夫!海くん心配するだろうから正直に伝えてきた」


「「「「「ええぇぇぇーっ!」」」」」


 5人の声が部屋中に響き渡り、木霊するレベル。まだ動揺が収まらない中、私は恐る恐る真相を探る。


「いや、ちょっと待って…。具体的にどういう言葉で伝えたの?」

「『結愛くんって男の子が由紗ちゃんをラブホに連れ込んだらしいから救出してくるね』って」

「萌香ちゃ〜ん...。そっ、それはヤバいやつ!君藤先輩が誤解するから~!」

「やだなぁ由紗ちゃん。それが狙いなんじゃん」

「萌香ちゃん...それ、どういう意味?」

「由紗ちゃんが他の男にラブホに連れ込まれたって言って海くんに誤解させてさ、シリに火をつけなきゃおもしろくないじゃん」


 気になるのは君藤先輩の反応なのだが...。


「海くん、あっそうって言って部屋に入って行ったっきり姿見せなかったなぁ」

「学校では遠巻きだけどいつも女子からの視線に晒されてて気疲れがひどいんだと思う。だから寝てるのかもね」

「さあどうだろー」


 なぜか棒読みな言い方が気になって仕方がない。


 2時間と決められた時間の中、カラオケ大会が開催された。


 莉茉はちょいちょい”皆でAV観賞”をノリで勧めてきたが、誰かが変な気を起こさないとも限らない。(特に菫先輩...。)


 楽しい時間は過ぎていく。


 残り30分。私は一人、ベッドで眠りについてしまったーーーー。


(やっと寝たか、由紗。カラオケで大音量のさ中でも寝れる癖、やっぱこの頃もなんだなぁ。まあそれを狙ってたけどね。)


 どうやらこの状況は、結愛(あゆみ)が期待していた展開だったらしい。


「あー、ユーミン!人が歌ってる最中に失礼だよなぁ。次はユーミンとのデュエットなのにーっ!」

「仕方がない。このカラオケ女王莉茉さまがお相手して差し上げますわ〜♪」

「えー、ユーミンがいい。女王にキャラ変したキモ女なんて願い下げ」

「ちょっ、本気で傷つくんですけどぉー」


 片や。


「由紗ちゃんの寝顔かっわいいーっ♡食べちゃってもいい?」


 変態に襲われる5秒前。略してHO5。


「いやダメでしょ。菫さん!」


 スヤスヤ眠る由紗の隣に転がりかけた菫だったが、間一髪のところで割って入ることに成功した萌香。


「やっぱり海くんの言う通りだわー。気を付けるべき人間は結愛くんじゃなくて菫さんだって」

「だから由紗ちゃんを私から守れって?」

「まぁそんなとこ。変態女が一番ヤバいって。まぁ実際は守れって言われたわけじゃなくて、じーーーっと目で訴えかけられただけ。あの目に察しない人はいないわー」


 将来の兄嫁だと心の中で決めつけていた萌香は、無垢で純粋な由紗の貞操を護ること第一!という役割を担ってここに訪れたのだった。


「君藤くんらしい...。でもね、場所が場所なだけにムラムラしちゃうんだもん。仕方がないじゃん」

「この人ここに呼んだのミステーイクッ!」

「結愛どうしたの?さっきから歌わないし、喋らないし、ただ傍観してるだけじゃん。いつもみたいにノリよく騒げばいいじゃん」

「今日は傍観して楽しむことに決めた」

「なんで?」

「思い出、残したい。些細な一瞬でも見落としたくないんだ」

「…あー、そうだよな。君藤先輩がいちゃあもうユーミンに手出しできないよな」


 結愛はひと呼吸おき、柔らかな笑みを浮かべた。


「ねえみんな。大好きな由紗と俺の話を聞いてほしいんだ」


「…ん?今結愛くん、由紗のことをちゃん付けじゃなくて呼び捨てしなかった?」

「”ちゃん”とか”さん”とか、そんな間柄じゃないから。俺と由紗」

「…んん?」



 真剣な眼差しを一人一人に向ける結愛(あゆみ)。当然、結愛の顔をしたあゆみの言ってる意味を理解できる者は誰一人いない。



「まあその前に、教えて欲しいことがあるんだ。君藤先輩のこと」



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