ミッション10:君藤先輩に✕✕せよ!!
意識は朦朧。体が重い。絶望感に打ちひしがれる。これからどう生きていけばいいのだろう。
君藤先輩に菫先輩という大切な存在がいる今、君藤先輩への愛情の持っていき方がわからなくなってしまった。大袈裟だと揶揄されるかもしれないけれど、やはり結局絶望感しか残らない。
大きくため息をつき、それを合図に瞳を開く。
「あれ?...うちだぁ」
そして、心配そうに私の顔を覗き見る三つの顔に、ほっとする。よって、涙を流す始末...。
「弱いなあ、私。君藤先輩がすべてだったんだなぁ。重すぎてキモいよね...。最悪...」
「そんなことない!羨ましいぞバカ!...あんたほど全力で愛する人を追いかける女、私他に見たことないから!」
(莉茉、ありがとう。でもそれは、それほど自慢できることじゃ...。)
「私の義姉は由紗ちゃんしかいないからね!どう?私の言葉、信じてみない?」
(信じる気は満々だよ、萌香ちゃん。...でも、”都合のいい女”がいる君藤先輩は、不本意なのだが、だいぶ厄介ボーイなのではないかと思うのですよ...。)
「僕さ...荒波を立てた責任は感じてるんだ。だから償いとして、由紗ちゃんの力になりたいと思ってるよ。願いはなんでも言って。叶えてあげるから」
(悪魔が心を入れ替え、神に君臨したのだろうか。頼っても、バチは当たらないのなら...。)
「お願い...。ただ...君藤先輩の顔が見たい」
両口角を上げ、らしくなく優しく微笑む恵瑠くんの優しい表情に、拍子抜けする私。
「好きな気持ちが未遂のうちに、しかと仰せ奉りました。姫」
その恵瑠くんの言葉を、私はどう受け止めたらいいのだろう。昨日の君藤先輩と恵瑠くんの会話からすると、今まで同性しか好きになれない男の子に、初めて気になる異性が現れ、それがよりによってこの”ちんちくりん”な私。という風に解釈できるのだけれど...。私ごときが異性を初めて好きになるに値する人材だとはとても思えない。そんなことを考えている最中、私はいつの間にか、再び意識を手放していたーーーー。
**
(あゆみくん...。真っ暗だよ。電気つけてよ。おーいっ!)
「あのさ、俺にそんな便利機能備わってないからね。ただ由紗さんのそばを死守するしかできないから」
「死守はありがたいけど、今…君藤先輩にそばを死守してほしいって思っちゃった。ごめんなさい…」
急に切なくなり、感情ダダ漏れで手に負えない状態の私に、容赦なくあゆみくんからの冷静な忠告を受ける。
「泣くのはやめてよ。武器を使ってるつもりはないんだろうけど、男はみんなそう思いがちな生き物なんだから」
まったく。おかげでメソメソしたい気持ちが失せました。あゆみくんは、人の気持ちを逆なでする天才だと思う。
それにしてもよく寝た気がした。さっきまでいたはずの三人は何処へ。真っ暗な部屋の中に人の気配は感じない。夢だったのだろうか。相変わらず体は重く、ベッドから起き上がれそうもない。
(何時だろう...。)
暗い空間。壁時計がある方にじーっと目を凝らす。
目が慣れたせいか、秒針がチッチッチッという音を立て、時を刻んでいるのを確認できた。普段はまったく気にならない音だが、今ばかりは耳に馴染んで心地良い。
ーーー6時10分
さすがに朝ではないだろう。夕方の6時10分に違いない。
ということは、日勤だったママがそろそろ家路に着く頃だ。帰ってきたら、体が動かない不甲斐ない娘のために、照明のスイッチを押していただこう。それまでは、まだゆっくり時間をやり過ごしたっていいでしょう。
「まったく、ママさんが帰ってくるまでに家事手伝いとかしてあげてもいいんじゃない?」
そのお姑口調に、ますます苛立つ。
「体が動かないからヤダ」
「ねぇ...そういう拗ねた言い方やめなよ。君藤先輩が見たら呆れられるから」
「そういうあゆみくんこそ、すべてを悟ったようなこと言うのやめてよね。それと、もう自分は用無しだって思ってるんじゃないの?」
「俺が用無し?なんで?」
いまいち理解できていないあゆみくんに対し、憤慨しそうになる。
「悟りの男がとぼける気?」
「なんだよ。機嫌損ねてるところ申し訳ないけど、本当に全然話が読めないから!」
焦燥感に駆られたような声色からして、本当になんのこっちゃな状況なようです。
「あゆみくんも見たでしょ。14のミッションをクリアしたところで、もう君藤先輩は人のものになっちゃったんだよ!?私との恋愛は成就するはずがないじゃない。よかったね、なぜかは結局教えてくれなかったけど、私から君藤先輩を遠ざけたがってたじゃん」
これはダメなやつ。君藤先輩と上手くいかなかった腹いせに、無害なあゆみくんにとめどなく不満をタラタラと言ってしまう愚かな私。なんて醜いのだろう。わかっていても、もうすでに止められはしない。
「何がしたかったの?あゆみくんは。本当の狙いが知りたい」
わかってる。秘密にしておかないといけない理由があるってことは、なんとなく。わかってはいても、言葉が音となって飛び出していく。
「いいよ。教えてあげる」
「え...?私を守るため。それなら何度も聞いてるけど、的確な答えじゃーーー」
「生き返るためだよ」
その言葉を聞いただけで察しがついた。要するに、私に14のミッションを課せてクリアさせれば、自分の命を復活させることができる。あゆみくんは神様のそんな無謀なりにも、望みある提案に従ったのかもしれない。
どういう経緯で私に白羽の矢が立ったのかとか、なぜ私や君藤先輩の周囲の人たちのことを知っているのかなど、疑問に思うことは多々あるけれど...。そんなことはもうどうでもいいと思った。ここでミッションをやめるのはすっきりしない。だけど、それより何よりーーーー。
「あゆみくん、酷いこと言ってごめんね。用無し、とかいろいろ...」
「...いいよ。言われて当然なのかもしれないし」
優しい声にほっと胸を撫で下ろす。
「私の恋愛成就目的のミッションは、途中棄権するしかないけど、あゆみくんと知り合えたことが収穫だったんだと思うんだ。だからまだやれるはず」
何よりーーーー
”縁”を感じたから。
「由紗さん...それって」
「だからね、残りのミッションはなんとしてでも続けるから。今度はあゆみくんが生き返ることを目的としたミッション!がんばるよ、私!!」
「俺が...生き返るためのミッション...?」
なぜか疑問符で返してきたあゆみくん。今度はあゆみくんのためだけに、ミッションをクリアしようとしている私への照れ隠しだったりするのかな。
「じゃあさー、お互いの目的を胸に秘めて、とりあえず俺が課せるミッションをがむしゃらに遂行してよ。今までと変わりなく、君藤先輩絡みのミッションにしてあげるからさっ」
言葉は悪いけれど、言われなくてもやってやろうじゃん!という意気込みだ。目的はどうであれ、一生懸命残りのミッションをクリアしろと命令されたのだ。
「要するに、恋愛成就の指南役を降りないってことであってます?あゆみくん」
「…うん」
(由紗。やっぱあんたはいい女だよ。散々過酷なミッションを課せてきた俺との出会いを、収穫だなんて...。けど、お人好しにも程がある。元々指南なんて...俺にする資格なんてなかった。期待させること言って、お人好しな由紗の性格につけ込む俺は...存在価値なんてない。俺のために今後もミッションを頑張ると宣言してくれて嬉しかった。でも、ごめん。結局最終的に行き着くのは、由紗にふりかかる不幸を阻止することに徹する。つまり、由紗の未来を守るために、邪魔な存在を排除することに徹する。これは、神様と俺しか知らない内緒の任務。由紗、大好きだよ......ーーーー。)
幸か不幸か、あゆみの心の声は、由紗の耳には届かない。
善良な指南役に徹する”悪人あゆみ”の苦悩。それは果てしないーーーー。
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