ミッション8:君藤先輩に触れてもらうべし!!
恵瑠くんは知っているのだ。
君藤先輩が凛子さんの愛に飢えていた子供の頃のことを。
それほどにまで二人は親しい仲なのだろうか。
「もしかして、お母さんのこと?」
「...それ、なんの話?」
「え。違うの?」
どうやら私の見当は外れたらしい。
あのこと以外、どんな秘密があると言うのだろう。とてつもなく胸騒ぎがする。
「僕以上に君藤海李の秘密を知ってんの?あんたは」
恵瑠くんの目が血走り、若干焦りの色を見せているように感じる。
「私はそのことしか知らないから」
「そう...」
恵瑠くんと私が知っている君藤先輩の秘密。それは、お互いに知らない秘密。つまり、それぞれ別の秘密を保有している、ということになる。
恵瑠くんは、私の保有する君藤先輩の秘密を聞こうとはしなかった。しかし、自分が保有する秘密を、私と共有しようとしているのかもしれない。
君藤先輩と恵瑠くんの間には昔、何かあったに違いない。だけど、踏み込んで聞いてもいいのか悩んでいる時、恵瑠くんは核心へと向かい始めた。
「君藤海李は中学まで、この地ではない別の地に住んでたんだよ。そして、僕もね」
私はてっきり、こんな風に思っていた。君藤先輩は自然豊かなこの地で、私よりも一年早く生まれ育ったのだと。
ーーーー想像すらしていなかった私が知らない君藤先輩の秘密。
今私の目の前にいる佐倉川恵瑠くんは、私の知りえない君藤先輩の隠された過去を知っている優越感に浸っている。それは思えば、先程からの言動から読み取ることができた。
優越感。それは、私も同じだった。私が知っている君藤先輩の秘密を恵瑠くんに話そうなど、サラサラ思いもしなかった。それどころか、私の心の中だけに留めておこうと思っている。
繊細な心情が絡む幼い頃の出来事ゆえに、私の口から他者に軽々しく話すわけにはいかない。そう言えば聞こえがいいのかもしれないが、ただ単に、君藤先輩の秘密を人と共有するなどもったいない。これが本音だった。
この時私は、油断していた。
この直後、恵瑠くんの口からまったく思いもしなかった、まさに君藤先輩の”秘密”を暴かれることとなるなんて。予想もしていなかっただけに、心の準備が不十分だった。
「僕と君藤海李はね、中学時代敵対してたんだ。二人とも族の総長としてね」
「・・・・・え!?」
「意外でしょ」
(ぞ、ぞ、族!?君藤先輩が...族の・・・・・総長!?!いやいや、それってよくある恋愛小説や漫画のヒーローの設定で多いやつじゃんかっ!!君藤先輩もまさかのそのキャラの仲間入りなわけ!?ていうか、二人とも中学生で総長!?)
「嘘...。マジかよ。先輩がまさかの族のトップだったなんて...。そういやぁ、この手のヒーロー多いよな...」
あゆみくんも同じようなことを思っていた模様。
思いもよらない、私たちが知らない君藤先輩の秘密だったーーーー。
君藤先輩に鋭い印象はあっても、あの綺麗すぎる容姿としなやかな所作からは、過去に暴走族の総長をしていただなんてとても思いが至らない。
そして、恵瑠くんに関しても、君藤先輩以上に想像することができなかった。
彼が醸し出す全体的な雰囲気も、口調も、柔らかい印象を与える彼なのに...。まさかまさかの君藤先輩の族と勢力を二分する暴走族の総長だったなんて......。意外すぎるにも程があるってなもんです。
「海李は本当にケンカが強かったんだ。外見的には美しさが際立っていて、 繊細で、とても儚げだった。今思えば、それが海李の最大の武器だったのかもしれないな。だってみんなが海李の容姿に油断した結果、ボコボコにやられちゃうんだから。...だけどその後、暴力で頂点を極めることに嫌気がさした海李は、誰も知らない遠い町に身を置いたってわけ」
(ケンカに明け暮れる君藤先輩かぁ。あのサラサラヘアーを振り乱して......ヤバい。それはそれでとてつもなくかっこいいと思う!絶対に♡︎)
「人の黒歴史を勝手に語るんじゃねぇよ、恵瑠」
どこからともなく現れたのは、私の大好きが過ぎる、この世にたった一人の人物。
君藤海李先輩だった......ーーーー。
(どうして?......あ、そういえばさっき恵瑠くんが言ってたっけ。)
『きっと今頃、君藤海李のところに僕の友人が到着してる頃だなぁ〜』ーーーって。
私が恵瑠くんにさらわれたということを、恵瑠くんの友人が君藤先輩に伝えに行った結果、今に至る。
「恵瑠、お前こいつに何かしたんじゃねぇだろうな」
「ううん。まだ」
「まだって、こいつはどう見てもお前の趣味じゃ...」
「そうなんだけどね。海李が特別にそばに置く女がどんな子なのかなぁって気になって、ちょっと拉致してやろうかなぁ〜って」
「いや、やんわり笑顔でちょっとだけ過激なこと言ってる自覚ねぇのかよ」
「うん。まったく♡︎」
(...ん?なんだこの違和感。恵瑠くんが纏う空気が変わったような...。ちょっと変わり者だからかな。ていうか、私があなたの趣味じゃなくて悪かったですね…。)
恵瑠くんの陰謀に振り回されているわけだけど、今、私の率直な心情としては、君藤先輩が目の前にいる現実に、猛烈に感動している。
「先輩がいる」
「......元族の総長だったなんて、幻滅しただろ」
「いいえ。まったく。サラサラヘアーと強い男なんて...最高じゃないですか」
「え。サラサラ、ヘアー?どういう連想してんだ?お前」
ここは『へへへ』とはぐらかすだけで精一杯の私なのです。
突然”拉致現場”に現れ、呆れ顔をかます君藤先輩。かと思えば眉間に皺を寄せ、怒ったような、それでいてとても切なそうな表情で私を見つめた。
月並みな言い方だけど、私の心臓は高鳴りを増した。
この世に生まれ、これほどにまで鼓動が早くなった経験は初めてだった。
なおも続く、その視線ーーーー。
「君藤先輩...?」
すると君藤先輩は、様子を安じた私の肩に手を伸ばし、力一杯自分の胸の中に、私を抱き寄せた......ーーーー。
(キャーッ!!!どうなってんの!?この夢のような展開!それに君藤先輩の胸元、すごくいい匂いがするっ♡︎)
密着したことによって体感した君藤先輩の鼓動はとても速く、そしてもちろん、負けじと私の鼓動もさらに凄まじく速くなっていた。
君藤先輩は、私の耳元に唇を近づけ、こんなことを囁いたものだから......膝から崩れ落ちそうになった。
「お前、マジであいつに何もされてねぇよな」
神妙そうな表情と鼓動の速さからして、私の身に危険が生じたのでは?と心配してくれたのではないか。もっと言ってしまえば、気が気じゃなく、挙げ句、余裕をなくしてくれたのかもしれない。そう自分に都合のいい捉え方をしたかった。
「はい。何もされてません」
私を抱く手に一層力を込めた君藤先輩。
この瞬間、私はあることに気付く。
だから、早急に君藤先輩に確認しておきたかった。
その前に、なんだかイメージが崩れるのだけれど、口をぽかんと開けて呆気にとられているイケメン台無し恵瑠くんに断りを入れることにした。私は恵瑠くんがいる斜め後ろに少しだけ顔を向け。
「...恵瑠くん、ごめんなさい。あなたが放心状態中に君藤先輩と込み入った話をすることをお許しください」
「......」
恵瑠くんは、許しを請う私の言葉など耳に入らないほどに、君藤先輩と私の抱擁シーンにダメージを受けている模様......。
「いらねぇよ。こいつにそんな断り」
「いいえ。様子がかなりヤバく、静かになったことをいいことに、込み入った話をさせてもらうわけですから!恵瑠くんの存在を無視してるようで良心が痛みます」
「ふーん。お前って律儀なヤツだな。まあいいや。で、何?込み入った話って」
つい今しがた自分の懐(ふところ)から私を解放した君藤先輩は、私の真正面に立ち、私が言葉を紡ぐのを待った。
話の内容を思えば、緊張度が増す一方だが、意を決して口を開いた。
「君藤先輩、あの...怒らないで聞いてくださいね。......今私を抱きしめたのって、先輩の意思でしてくれたんですか?」
「どういう意味?俺の意思じゃなきゃ俺自身が動くはずないじゃん」
(そうですが。ほら、身近にあゆみくんに憑依された志希先輩のような、ありえない体験をしてる人もいらっしゃいますし。なんてことは言えない...。)
「じゃあ、私に触れたいって思ってくれたんですね?」
さらなる緊張の一瞬。
私を鋭く射抜く君藤先輩の眼差し。
「お前その質問、デリカシーねぇなぁ。俺、軽はずみや魔が差して女に触れるタイプじゃないけど?これじゃあ質問の答えになんない?」
ということは、これってミッションクリアになるのだと、かなり有頂天になる私。(ただし、表情には出さぬよう気をつけて。)
普段鈍感な私だが、はっきりと肯定されなくても、これは手応えありだと感じた。
デリカシーがないと言われたそばから、さらに調子に乗る始末...。
「先輩はなぜ、私を抱きしめたいって思ったんですか?」
この質問はマズかったかと思った時にはもうすでに遅かった。ギロリと冷酷な目を向けられていたのだから、怯むしかない。
「まだ掘り下げんのかよ」
「すみません。でも...」
「まあ、あれだよ。...無事だと思ったら、勝手に体が動いた。ただそれだけのことなんだけど」
ぶっきらぼうな口調で面倒くさそうだけど、頬を薄桃色に染めてなんだかとてもかわいい人だなぁって思った。好きーって飛びつきたい気持ちを懸命に抑えることに精一杯だった。
「君藤先輩。それってつまり、安堵の末の抱擁ってわけですね?」
「お前、マジでデリカシーなさすぎ」
「私のこと、嫌いじゃないんですよね?」
「......」
そっぽを向いてはぐらかそうとしてもダメです。私のことを嫌いじゃないって前に言ってくれたのは、先輩なんだから!
少し待ってみても返答がない。
やはりそれは、私的には肯定してるとみなしますから!
つい今しがたまで放心状態だった恵瑠くんは、君藤先輩が自分の目の前で私を抱き寄せた行為が、よほどショックだったらしい。
「許せない。離れな由紗...」
聞こえてきた恵瑠くんの声は、かつがつ聞き取れたほどの小声だった。
恵瑠くんは私が君藤先輩を知る以前の中学時代から、君藤先輩に特別でデリケートなる好意、つまり、同性への密かなる想いを寄せていたに違いない。
時が経ち、ようやく君藤先輩を見つけ出し、周辺を調査した結果、目障りな存在(私)に敵意を抱いた。そして、嫉妬という感情に支配された結果、このたびの拉致事件を引き起こしたのだろう。それは、確固たる愛情を持て余している証拠と言えるのかもしれない。
私は恵瑠くんが気になった挙げ句、視線を向ける。
(君藤先輩を見つめる視線が私と同じで熱帯びてんじゃん!恋する乙女じゃん!!やっぱ好きすぎるよね!?君藤先輩のこと!)
私はそんな情熱オーラを放つ恵瑠くんに圧倒されたが、引き続き君藤先輩との語らいを切望した。
ところが語らい始めたのは、君藤先輩と恵瑠くんなのでした。
「ほんと久しぶりに会えたね。海李っ♡︎」
(......え?やはり恵瑠くん。冗談抜きで本当に...。)
物腰の柔らかさは女子並みかそれ以上。違和感を感じずにはいられない。恵瑠くんから醸し出されている女性らしい色気を感じてはいたけれど、もしかするとオネエ系ボーイなのかもしれない...という考えには至らなかった。けれど今は否めない。
君藤先輩が発した、私が恵瑠くんの趣味じゃないという言葉。あれは君藤先輩が恵瑠くんがオネエ系ボーイだということを理解していたという証拠なのではないか。
「お前、相変わらずキモい。まとわりつくな。どっか行け」
「酷い!ずーっと海李に会いたかったんだも〜ん♡」
君藤先輩の腕に頬をすりすりしている恵瑠くんは、完全に恋する女の子。
手強そうなライバルの出現に、顔を引き攣らせるしかなかった。
(え。何この茶番...。単にこのオネエ系ボーイはさ、君藤先輩をおびき寄せて、ベタベタしたいがために私を拉致したってわけじゃん。...ま、危害を加えられたわけじゃないし、ミッションクリアのきっかけを与えてくれたから感謝するべきか...。)
「こいつは俺の彼女じゃねぇから、もうこんなことすんじゃねぇぞ」
(はい。わかってます...。私は君藤先輩の彼女じゃありません。)
真実だけど、いざ言葉に出されてしまうとショックさを隠せているのかどうか、不安になった。もはや言葉すら出てこない。
(それならどうして私を抱き寄せたりしたの?いくら単純な私でも、思わせぶりな態度は迷惑です!......いえ、それでも嬉しかったです。これが本心です。)
「なーんだ。ビンゴだと思ったけど、彼女じゃないんだ。僕の勘違いか〜。...ふっ、それとも」
恵瑠くんが不気味に微笑んだあと、君藤先輩の耳元でこっそりと何かを囁いたため、私にはまったく話の内容が聞こえてこなかった。
恵瑠くんが君藤先輩の耳元に口を近づけすぎたものだから、擽ったい素振りをしている君藤先輩。
だけど、急に表情が変化した。
片方の口角を上げ、余裕たっぷりな笑みを見せた。
「は?何それ。まったく、考えすぎ」
その言葉は、恵瑠くんのどんな言葉に対しての返答だったのかわからないため、モヤモヤが募った。
恵瑠くんの『それとも』の後に続く言葉を、猛烈に知りたい。
『この子を元総長の彼女にしてしまったら、こんな風に危険に晒すことになるかもしれないから、あえて彼女の座から外してあげてるんじゃない?』ーーーー
まさか、そんなことを言っていたとはつゆ知らず...。
その後ーーー
会ってない期間、恵瑠くんは募る話があるらしく、君藤先輩の手を引っ張り、散歩コースを下って行った。
「すぐ戻る」
そう私に告げた君藤先輩は、腕にまとわりつく恵瑠くんに強引に引っ張られ、ままならない歩行にイラついてはいたが、さほど嫌ではないのかもしれないと感じた。
(うっ...ここにきてまた君藤先輩にゲイ疑惑浮上!? いやいや、それは君藤先輩本人が断固否定してたし、却下!)
ずっと体が強ばっていたので、ぐっと背伸びをした時だった。
どうもこの頃様子がおかしいあゆみくんが、ここでまたありえないことを言う。
「まさかのミッションクリアしちゃってるし。マジかよ...」
恋愛成就の神様の如く、私が心底あなた頼みだということを自覚していないような発言が、この頃とても目立つあゆみくん。
腑に落ちないけれども、地道にミッションクリアしていく所存ですから!と、ヤケクソで気合を入れる私なのでした。
すると、背後から何者かが近づく気配。すぐさま振り返ろうとした時、ガシッと背後からハグされてしまい、身動きが取れなくなった。
「久しぶり〜!我が愛しの孫、由紗〜♪」
ハイテンションな老人の声。脳が振り返る必要はないと即判断をする。
「会う度に孫を溺愛するおじいちゃん。ごきげんよう...」
ローテンションな孫とハイテンション爺の温度差は計り知れない。
甘えてくる孫の対応を希望していた爺は、一向に自分の方に振り返らない塩対応の孫に業を煮やし、スタスタと孫の目前に仁王立ちした。
「ツレない孫よ。久しぶりに会ったというのに...菓子はやらんぞ」
「いいよ。そんな幼子じゃないから」
すると、後方からまたイケボくんが声を発した。のだが、なんだか様子(声色)がおかしい。
「えっ?神様!?まさか...由紗のじいちゃんが神様だなんて...。てことは...」
(......??)
おかしなことを言っている。今この場にいるのは、おじいちゃんと私だけ。
ここで、あゆみくんと心の対話、始めます。
(あゆみくん、もしかして今、うちのおじいちゃんを見て”神様”って言った?それとも、私には見えない神秘の世界が見えてるとか...?)
「由紗さんのおじいちゃんが神様だよ。四角い顔、白髪、右頬の大きなホクロ。特徴が俺の知ってる神様そのものなんだよ」
(神様って.........あの?)
「自称だったけどね」
(このおじいちゃんがあゆみくんと1対1の時に言ったの?)
「そうだよ。信じ難いんだろ?だけど俺は...神様にすがるしかなかったんだ。......あーごめん。俺がまた…口が滑って話をふってしまったけど、これ以上は無理」
本当なんなんだ。毎回人が質問せざるを得ない言葉をぶっ込んでくるくせに、肝心な答えは曖昧なまま終わらせる。おかげで消化不良の会話にも慣れてきた。
でも、あゆみくんが神様にすがるしかなかった経緯が気になるのです。
だけど、うちのおじいちゃんが自称神様だなんて...。
(ふざけて言いそうではあるけど...。)
あゆみくんが本当に幽霊だとすれば、天国でおじいちゃんにそっくりな神様に会った可能性は大だ。だけど、うちのおじいちゃんは、まだこの世で元気に神主という天職に勤しんでいるのだ。
本当、あゆみくんの発言は、大抵訳がわからないことだらけで困惑状態......。
それにしてもあゆみくんは、うちのおじいちゃんのことを本気で神様だと思っているのだろうか。そして、どういう経緯で神様に会えたのだろうか。
「あーもうっ!わからないことだらけだよー」
「どうした?由紗」
「うおっ!少しの間存在を忘れてた...おじいちゃん。いや、神様」
「はぁ?由紗、頭でも打ったか?神様になりたくてもなれるはずないわー」
「......だよね」
「まぁゆっくりしておいき。わしゃ今から会合に行ってくるからのー」
元気印のうちのウザかわいいおじいちゃんは、よほど孫娘に会えて嬉しかったのか、ぎこちなくもスキップしながらフェイドアウトした。
突然の拉致事件は、結果的に、ミッションクリアへと繋がるシナリオにすぎなかったらしいーーーー。
君藤先輩と恵瑠くんが戻ってきたのは、それから約15分後だった。
「海李は誰のものでもないらしいね。お気の毒様〜」
そんなムカつく言葉を私に浴びせた恵瑠くんは、夕日が沈む頃、案外あっさりと姿を消したのだった。
私はというと、君藤先輩が自宅まで送ってくれた。そのことに浮かれた私は、君藤先輩の心情に気付きもしなかった。
「今日は悪かったな。あいつのこと、許してやって。非は俺にあるみたいだから」
先輩にどんな非があったのか、気になってしまい、すぐに表情に表れたらしく。
「俺が安易に...感情のままにお前をそばにいさせたから...」
そして。
「お前の好意には、やっぱり応えられない。ごめん」
2度目の失恋は、突然だったーーーー。
近づけたはずだった。
なのに、また私から遠ざかる君藤先輩。
先輩からの少なからずの好意を感じた時があっただけに、その言葉をどう受け止めたらいいのかわからなかった。
(これって、”勘違いも甚だしい”ってやつじゃん...。惨めさこの上ない。)
期待した自分を全力で恥じた。
私は疲労感に苛まれ、帰宅後すぐにベッドの上で意識を手放した。
その直前、あゆみくんの声が聞こえたような気がしたのだけれど、記憶に留めることはなかった。
「なんかすっごい複雑。喜ぶべきなんだろうけど、愛するからこそ苦しむ二人なんて見たくないよ...。悪人じゃいられなくなるじゃんか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます