君藤side:告白は突然に!!

 俺は知らなかった。


 ーーー極度の女嫌いーーー


 そうみんなから認識されていたことを。


 別に女嫌いと誰かに一回でも告げたことはない。この常に不機嫌そうな顔がもたらした虚言なのだろうと、容易に察しがついた。


 だけどそのおかげで、数人の女子が遠巻きに俺を見て控えめに黄色い歓声を上げる、までで留まってくれていたからとても楽だったし、平穏な日々を送れていた。


 本当、女嫌いを広めてくれたおかげで。



 なのにーーーー


 みんなが俺の知らないところで作り上げた”君藤海李の観念”を覆すであろう、最強にヤバい女が突如、俺の目の前に現れた......ーーーー。


 その女は登校中、なぜか俺んちのクルミに引きずられ、パンツ丸見え状態で転倒。


 それが、一つ年下の相川由紗との出会いであり、俺の平穏な生活をぶち壊す幕開けとなった。


 この女を認識したのは、その時が初めてだった。同じ制服を着てるから同じ学校に通う生徒だとすぐにわかったけど、初めて見る顔だった。



『まず最初に言っておきます。私は君藤海李先輩のことが大好きです。あわよくば、真剣交際を望んでいます!1年B組相川由紗。相川由紗のこと。どうぞお見知りおきを! 』



 選挙演説みたいな威勢のいい告白をされたのは初めてだった。ていうか、告白自体が初めてだった。


 イラッときたけど嫌じゃない。


 最初はその程度だった。


 だけど、あいつは毎日俺の前に現れ、不覚にも徐々にではなく、急速に惹かれていった......ーーーー。


 違うと思いたかった。ありえないイレギュラーな展開に、胸騒ぎがするだけだと思いたかった。


 とにかくあいつと出会って、戸惑うばかりの日々だった。


 凛子が口を滑らせたんだろうけど、あいつは俺が幼かった頃、母親に依存していたことについて知っていた。


 俺自身、そのことはオブラートに包んでもらいたいところだったけど、ズケズケと持論を展開するあいつを疎ましく思う自分と、あいつの持論を信じ、前向きに生きたいとも思う自分がいるということに驚いた。


 とにかく、相川由紗という女に興味が湧いた。


 俺に対し、積極的にアタックしてくるわりにウブだったりするのだ。


 そうなると、おもしろいからこっちからエロいことを言って迫り、反応をうかがったりもした。


 とにかく、俺の今までの人生において、こんな俺などありえねぇ...。


 本能によってベッドでイチャつきたい衝動に駆られた時は、さすがにマズいと思った。だって、あいつが俺の大事にしてる巨大なぬいぐるみに抱きついたからムカついたんだ。だからお仕置きして.........いや、なんか違う.........

 ...........

 .........

 ......そうだ!思い出した。


 あいつが俺の大事にしてる巨大ブタのぬいぐるみに抱きついたからムカついたんじゃなく、ブタのぬいぐるみがあいつに抱きつかれたからムカついてあいつをベッドに...。


 あいつは知らない。ブタのぬいぐるみがピンク色だったから、メスブタだと勘違いしたと思うけど、ヤツはれっきとした野郎だってことを。


 オスブタがあいつに抱きつかれたことにモヤモヤした結果、やらかした俺はあの時、自分自身にもムカついていたんだ。


 行動が軽率だったこともだけど、心かき乱され、柄にもなく夢中になってることに気付いた時、男に尻尾を振って夢中になる凛子と同類じゃねぇかって思った。


 いや、決して悪いことではないと思う。大人に近づくにつれ、それに気付けてよかったとも思う。


 時々、幼い頃の俺の心情が蘇るのが厄介なだけで...。



 ーーーなんで凛子は僕のところに帰って来ないの?ーーー



 幼ながらに理由はわかっていたけど、あえて祖父母に聞いたところで、確信をつく答えをくれるわけではなかった。


 物心ついた時、人の恋愛について俺は思った。


 ーーーそんなにも異性に夢中になれるものなの?ーーー


 俺はまったくではないにしろ、人ほど女に興味が持てなかったはずなのに、結構あっさりと興味を持ってしまったあいつに対し、どう接していいものか悩んだ。


 答えが見つからず、初めての気持ちに蓋をしようかとも思った。


 でも、虚勢を張った俺などお構いなしに、あいつは毎日図々しく近づいてくる。


 ついには俺にほっぺチューをかます始末...。だが気付けばその先を望んでいた自分に驚愕した。


 そうやって俺の高い防波堤を難なく超えてくるのが、あいつの凄すぎる特技とも言える。


 俺は正直、女に興味を抱くことを、きっと今も認めたくないんだ。


 というのは強がった言い方かもしれない。本当は、俺なんてありえないくらい臆病で...恋愛することが怖くて仕方ない。


 あいつが俺への愛に冷めて去った時、俺は辛すぎて死にたくなるかもしれない。


 凛子への愛は家族愛だけど、あいつへの愛は異性愛だ。ここまできたら認めざるを得ない。


 凛子も含め、人はだいたい家族愛よりも異性愛の方が大きくなりがちだと俺は思っている。俺自身においても、あながちそれを否定できない。


 そんな中、心変わりでもされてしまったら。...あれ?俺ってこんなにも女々しい男だったんだ。


 俺は愛する人に背を向けられることが、この上なく耐えられないんだ。だから、女を好きになったとしても、容易にそんなマイナスな末路を想像してしまえるのだ。


 猛烈に気になってちょっかい出すくせに、土壇場で冷静かつ臆病になる。


 そして、俺には誰にも言いたくない過去の秘密がある。


 これが、恋愛に対してブレーキをかけざるを得ない最大の要因だったーーーー。



 守りたい者に危険が及ぶ可能性があると考える俺は、恋愛など諦めるしかないのかもしれない。


 すぐにでもそばに置きたいのに置けない辛さとの葛藤の日々を、俺はやり過ごすしかなかった。理性だけが頼りだった。


 なのにあいつといると、理性が働かなくなりそうだ。いや、働かない。


 そして、恋愛の教訓である、【恋をすると女は厄介な生き物になる】を断定するのは間違っていて、あながち皆が皆、それに該当するとは限らないかも...と思いたくなったんだ。


 むしろ、【恋をすると、男女ともに厄介な生き物になる】ーーーーこの方が正解なのだ。それを身をもって感じた。


 俺があいつと出会って一番厄介だと思ったのは、嫉妬心だ。


 男子(志希も含む)と話すあいつを見ると、自然と目が据わり、冷たい視線へと変化する。


 ただ単にイライラするーーーー


 こんな感情は初めてだったが、ようやく男としてスタートラインに立てた気がして、無性に胸がくすぐったくもなったっけ。


 これも、人間としての成長だと、誰か関心してもらえると嬉しいのだけど...。


 まさかあんなにもいろんなことに冷めていた俺が、よりによって恋愛できるなんて、誰も想像できなかっただろう。


 人生捨てたもんじゃないって、ドラマかなんかでよく耳にするけど、正直他人事だった。


 本当、人生捨てたもんじゃねぇよなって、今なら言えそうだ。(ただし、小声で。)




 余談だけど、ベッドでコトを起こさなくてすんだ理由ーーーー。


 それは、あいつへの気持ちが先走って、オスになって暴れそうな自分に、


 ”付き合ってもないのにゲスじゃねぇ?”


 って、冷静になれたから。


 それと、あいつが俺との艶っぽい状況下であるにもかかわらず、”あゆみくん”という架空の心のお友達とやらと平然と対話していたからだ。


 ”あゆみくん”の存在を、軽くスルーした感じになっているが、俺としては引っかかるものがあった。


 なんで俺といるのに、架空の人物と本気で対話できちゃうわけ?ヤバくねぇ?あいつ...。


 なんで”あゆみ”って名前なわけ?架空の人物ってことは、あいつが名付けたんだろうから、いつか問いただしてみたい。


 ”あゆみくん”ーーーー


 たかが架空の人物。されど架空の人物。のような気がしてならないのはなぜだろう。



 すごく気になる存在だ......ーーーー。




 それにしても、俺の生殺しの刑は、いつまでも続いていくのだろうか。


 過去の呪縛から開放される日を夢見ている俺は、夢の中であいつを求め、光の射す方へとさまよっていた......ーーーー。



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