ミッション6:休日逢瀬作戦再び!!(1日目)〜離れる心〜
私の夢は、君藤先輩のカノジョになること。
が、しかし。なんだか暗雲が立ち込めている気がしてならないのです。
そして、私と志希先輩(あゆみくん)が今いる公園の真上にも暗雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうだ。
公園と言えど、子供たちが集う遊具設備のある賑やかな公園ではない。芝生の地面が延々と広がり、その周囲を大きな木々が取り囲んでいるだだっ広い草原に近いような静かな公園である。
木々の前に規則的に並んでいるベンチに座る私たち。
「...萌香って、誰だろう」
地面の一点を見つめ、私は一つの疑念ばかりに囚われていた。
(ひょっとして、君藤先輩にまさかの隠れ彼女が存在してたなんてこと...あり得る?)
思い詰めている表情を隠せないほど深みにはまっている私の横で、スマホの音楽を聴いている志希先輩(あゆみくん)。軽やかな音楽のリズムに合わせて体を揺らしている。
ヒップホップダンスをしていたあゆみくんには、たまらないであろう楽曲に違いない。
そして、決して重苦しい雰囲気ではない志希先輩(あゆみくん)が、わりと重苦しくも弱っている私を視界に入れた。
「気になってるみたいだね」
主語がなくても、あゆみくんが言いたいことはわかる。
「萌香さんって、かわいいのかなぁ...」
すると迷いのない声で、あゆみくんは私にこう言った。
「かわいいのは由紗さんで、綺麗なのは萌香ちゃんかなぁ」
「......へ?あのぉー、あなたは登場人物すべて私よりも前からご存知なのね...。一体全体、あなたは何者なの...!?」
「教えなーい」
はい。期待はしていません。慣れてます。と思っていても、なるべく無心に徹しようと心に決める。意外と心の対話は疲れますから。
ーーーーだけど。今日に限っては、気になりすぎてしつこくて嫌われてもいいと思えるほど、不安の波が押し寄せてきたから始末が悪い。
「あのさー、萌香ちゃんは、先輩と仲のいい女子の一人だよ。由紗さんと同じく、気軽に二人きりでも会えちゃうほどのね」
(そうだよね...。私だけが特別だなんて自惚れてはいないにしろ、他の女子よりは先輩に近づけてるなんて思ってたんだ。私...。萌香さんも、先輩が多少気を許す女子ってことだよね...。)
それからしばらくの間、志希先輩(あゆみくん)は目を瞑り、スマホでヒップホップボーイズグループのある1曲をリピートして聴いている。目を閉じているその顔から真剣さが伝わり、私は思わず見惚れてしまっていた。
「古いけど、本当この曲好きだわー」
人は心の底から好きなものに対し、とても切なげに感情を吐露する。今まさに私の主観が志希先輩(あゆみくん)によって証明されたような気がした。
だけど...この曲は最新曲だけに、”古い”と言うにはあまりにも違和感アリアリで。きっと勘違いだろうというありきたりな解釈で落ち着く。
普段は声でしかあゆみくんの存在を感じることができなかった。しかし、あゆみくんが志希先輩に憑依した時は、志希先輩を通してあゆみくんのあらゆる表情を見ることができた。それは、あゆみくんが自身の存在証明をしているようにも見えた。
志希先輩(あゆみくん)はベンチから立ち上がり、スマホをベンチの端に立てかけた。そして、ベンチを背にして垂直に歩き始め、再びこちらに向き直った。目を閉じて一度深呼吸をし、次に開眼した時にはもう力強い眼差しへと変化していた。そして、先程からずっとリピート再生しているアップテンポな曲に合わせ体を揺らし、リズムを取り始めた。すると次の瞬間、手足を大きく動かし、キレのあるダンスを踊り始めた。
(すごい!すごい!すごいっ!!あゆみくんのダンス、すっごく洗練されててかっこいい!!)
ハハッと笑うその顔に、不覚にもドキッとした。志希先輩の大人っぽい顔で、イタズラげにあゆみくんらしい顔も覗かせている。
ところがそれから間もなくして、苦痛の表情を浮かべ、ダンスを中断した。
「あー、やっぱ無理だ。志希先輩すっげー関節硬いから、これ以上続けちゃうと疲労困憊で当分動けなくなって俺訴えられるかも」
と、冗談めかし、交互に肩を回しながら再び私に近づいた。
「志希先輩だからかっこいいって思ったんじゃない?由紗さん」
「それは心外だなぁ。志希先輩にダンスのイメージはないし、あゆみくんが憑依してこそのダンスパフォーマンスだと思ってたのになー」
「それは失礼しました。じゃあ、元々俺として志希先輩を見てくれてたわけ?」
「そうだよ...」
あゆみくんは私が体育祭で踊ったダンスについて、ダメ出しをしてきた時、またダンスがしたいのかもしれないと感じた。
もしもあゆみくんが幽霊なら、それは二度と叶わない。ヒップホップダンスに情熱を燃やしてきたあゆみくんなだけに、それほど悔しいことはないだろう。だけど、現在他の人の体を借りる、憑依という形で再びダンスをすることができたのだ。
しかしそうした結果、やはりあゆみくん自身の体あってこそのダンスなのだと思い知ることとなったのだ。
「由紗さん?...なんでそんな悲しそうな顔してんの?」
「...どうすればまた、あゆみくんはあゆみくんの体でダンスができるの?私、あゆみくんのダンスが見たい」
「......ありがとう。でも、もう無理なんだ。俺なんて...そんなこと願ってもらっちゃ...ダメなんだ」
この時、あゆみくんは私の知り得ない、膨大な心の闇を抱えているのだと感じた。
あゆみくんは私と関わった日から今まで、声によって同年代のとても飄々とした元気のいい男の子の印象を醸し出していた。それが今は微塵も感じさせない。
なぜ私の恋のキューピットを買って出てくれたのか。
あゆみくんのことに対して、知りたいこと、疑問はいくつかあるものの、私がそれらを解明することをあゆみくんは望んではいない。そう感じたことはしばしば。
もしもあゆみくんがこの世の者ではなく、あの世の者だとしても、憑依された志希先輩には申し訳ないが、私は思う存分ダンスを踊らせてあげたいと思った。
あゆみくんは今まで十分な努力を積んで、ダンスが上達したという経緯があるのは間違いないだろう。
あんなにもダンスが上手だというのに、あゆみくんの肉体は、ここにはない。
憑依した体ではなく、あゆみくんの本当の体に触れたい。
要するに私は、あゆみくんに生きててほしいと、切に願う。(状況的に無理はあるが...。)
あゆみくんの無謀なミッション指令により、挫けそうになること多し。だが、14のミッションをクリアした暁には、私の恋愛成就という輝かしい未来を与えてくれる、私にとって感謝すべき奇特な人物なのだ。私の大切な人ランキングの5位以内に入るほどのーーー。
何があっても、一瞬コイツーッって怒ることはあっても、嫌いになることなどないだろう。
だからなおさらーーーー
君が闇を抱えている理由を知りたい。
「由紗さん?」
志希先輩(あゆみくん)が驚きを含んだ真剣な眼差しで、ベンチに座る私を見下ろした。
「あゆみくん...」
「まーた泣きそうな顔してるし。油断してたらキスするぞ」
志希先輩(あゆみくん)はそう茶化して、泣く寸前の私の頭を優しくぽんぽんと叩いた。優しくされると、自分の胸中を吐露したくなる。
「あゆみくんは今、闇の中にいるの?」
「...今みたいに由紗がずっと元気でいてくれれば、闇なんて...無縁だよ」
あゆみくんは最初からそうだった。
私の幸せを願い、健康を心配してくれている。私のことを恋愛感情抜きに想ってくれているような気がしてならない。知り合いでもないのにーーーー。
そして、きっとあゆみくんが本心を吐露する時は、決まって私のことを”由紗さん”ではなく、”由紗”と呼び捨てにするという法則がある気がする。いや、そうであってほしいのだ。呼び捨てにされるということは、親密度が増している証拠だと思いたい。
あゆみくんが、とても愛おしくてたまらない。
そんな気持ちを持て余した結果、私はベンチに座ったまま、志希先輩(あゆみくん)の腰に手を回し、ギューッときつく抱きついていた......ーーーー。
「あゆみくん...恋愛感情なしで大好きだよ」
志希先輩(あゆみくん)は、言葉なく優しくハハッと笑い、自分に抱きつく私の頭を撫でた。
そして、
「恋愛感情なしでいてくれる方が助かります」
と、本心(?)を吐露した。
なぜ私があゆみくんに対して恋愛感情なしだと助かるのだろう。
あゆみくんは本当にいろいろ謎だらけで読めない。本当もうお手上げです。
「あーあ。君藤先輩にこんな風に抱きつきたいなぁ」
強烈な願望が口から飛び出していた。
しかし。
「諦めなよ」
「え...。なんで!?」
そんな突き放すような言葉に焦った私は、志希先輩(あゆみくん)を見上げた。しかし、志希先輩(あゆみくん)と視線が合わない。
志希先輩(あゆみくん)の視線の先を追うと。
「......え!?」
嘘のような本当の展開?いや、マンガやドラマの世界か!と、ツッコみたくなるような展開が、目の前には存在していて...。
私の愛する人がそこにいて、突っ立つあゆみくんの腹部にいつまでもギュッと抱きついている私を、無表情で眺めていたーーーー。
「君藤先輩...!!」
私は志希先輩(あゆみくん)から慌てて離れた。
『なんとなくいる気がする』と言った志希先輩(あゆみくん)の勘が的中。そしてもう一つ、しぶしぶ納得せざるを得ないことが...。
「ね。君藤先輩に抱きつくどころの騒ぎじゃないでしょ?だから、今日は抱きつくのは諦めな」
きっとあゆみくんは、少し前からそこに君藤先輩がいることに気付いていたのだろう。そして状況的に、私が熱望する”君藤先輩への抱擁”は諦めた方がよさそうだと感じたのだ。
この最悪な状況的に。
(とてもわかりづらかったよ、あゆみくん...。)
そして、私は今全力で平常心を装っている。
待っていても帰ってこなかった君藤先輩。
抱きつきたくても諦めるしかない。そして、無理矢理平常心を装うしかない。
それはなぜかーーーー。
君藤先輩に私と志季先輩(あゆみくん)の抱擁を見られて動揺しただけならよかった。
ーーー君藤先輩の隣にいるその人は、誰?ーーー
いや、なんとなくわかる気がする。
君藤先輩の腕に全体重をかけてしがみついている愛くるしい女の子はきっと...
【萌香】さんだーーーー。
萌香さんはショートヘアーの目鼻立ちがハッキリしている美人さん。今ブレイク中女優のハル似で大人っぽいけれど、なんとなくの直感で、私よりも少々若く見えるけど、定かではない。
「萌香。離れて...」
(やっぱりこの人が萌香さん...。)
私の直感は当たっていたらしい。君藤先輩が離れるように促すも、お構いなし。それどころか、ますますギューッと巻きついている腕に力を込め、君藤先輩から離れることを拒んでいる様子の萌香さん。
(本当は私と会うよりも、彼女と会いたかったってことなのかな。だから、凛子さんに財布を届けたあと、彼女と逢い引きしてたの...?)
目の前に私の知らない君藤先輩が存在していて、とても信じ難い光景に愕然とした。
だけど、惚れた弱みなのだろう。君藤先輩の腕にまとわりつく萌香ちゃんに対し、嫌がるでもなく、喜ぶでもない平常運転の君藤先輩を、やはり自分のモノにしたいと強く願う変人の私。
「お前らって、そうやって抱き合う仲なんだ...」
「えっ...?いいえ!全然!」
何をおっしゃる君藤先輩。激しく左右に首を振り、全力で否定をする私。
これには深いわけがあるのです...。と、言おうとしたけれど、あゆみくんのことを話さないと説明がつかない。かといって、嘘はもうつきたくない。などと考えあぐねていると。
「海くん顔怖いよ。なんでそんなに怒ってるのかなぁー?」
「は?怒ってねぇし。お前は口を開くな」
「ハイハイ」
カップルの痴話喧嘩はすぐに終焉。
すると...。
「あのさー、俺と由紗ちゃん、抱き合う仲かもよ?」
志希先輩(あゆみくん)がそんな勝手なことをほざく。
「あっそう」
「けど、そっちだってこそこそラブラブしてんじゃん」
肯定も否定もしない君藤先輩は、先程から表情に何の異変も見られない。そして、なおも私たちをじっと見つめるだけだった。
(オイオイあゆみくんっ!!抱き合う仲だと肯定するようなことを言ってどうするの!あとさ、『そっちこそラブラブ』って...。いちいち余計なこと言わないのっ...!!)
志季先輩(あゆみくん)は、わざとらしく澄ました顔で素知らぬフリを決め込んだ。憎たらしい。
(顔面偏差値の高い志希先輩のお体をお借りしてるから許せる技なんだからね!!)
イケメン様の体を借りて調子に乗るあゆみくんは、口笛を吹く始末...。ますます憎たらしさ倍増。
君藤先輩と萌香さんに気を取られながらも、あゆみくんへの対応に困り果てていたその時。私は未だ君藤先輩の腕に重心を預ける萌香さんの言葉に度肝を抜いた。
「海くん、今日海くんち泊まってもいい?」
(は.........はい!?!)
「改めて確認しなくても、今日そのつもりで来たんじゃん」
(か、完全にカップルの会話...!!君藤先輩が急に別の人に見えてきたっ...!)
私の思考回路が止まった。
「だって、猛烈に強い願望が現実になるなんてさ、夢じゃないかって疑いたくもなるよ」
今の萌香さんのセリフを私的解釈に変換したらこうなる。
【だって、猛烈にエッチしたいな〜♡って願望が現実になるなんてさ、夢じゃないかって疑いたくもなるよ】
......なんということでしょう。
君藤先輩を愛してやまない私の目前で、そんな艶やかな情事を想像させるようなことを...。
私、ここでぶっ倒れてもいいですか? ショックすぎて眩暈がしますので...。
「ごめん。凛子に財布届けたあと、こいつにも会ってさ。凛子と彼氏も合流してて四人でいろいろ話してたら結構時間経ってた。お前らを放ったらかしてた上に急で悪いけど、遊ぶの今日はキャンセルさせてくれない?」
(四人でいろいろ話してたって...。萌香さんとは家族ぐるみの付き合いしてるってこと!?いろいろ何話してたのか気になってしまう!!)
君藤先輩と萌香さんのツーショットを見た瞬間から、薄々わかってはいた。
きっともう、今日は君藤先輩のそばにはいられないのだとーーーー。
だからだろうか。無性に先輩が欲しくて、もがいてまでも君藤先輩への愛を証明するしかないと思った。
「君藤先輩、これだけは覚えておいてください。私は一生、君藤先輩しか愛せません。先輩しか欲しくない」
「ならなんで?志希に抱きついたのはどう説明するわけ?」
「志希先輩は、人としてとても愛しい人ですが、恋愛感情は皆無です!私のハグ癖は大目にみてください」
こんな都合のいい話、受け入れて欲しいなんてむしのいい話なのだろうか。でもーーー。
「...悪いけど、今日はもう話しても無駄かも。じゃあな」
「あっ、海くん待って〜!ではお二人、また会う日まで」
一旦君藤先輩から離した腕を、再び君藤先輩の元に駆け寄り、躊躇なく絡ませる萌香。君藤先輩はそんな萌花に一瞬視線を向けるも、すぐに正面を見据えた。
志季先輩(あゆみくん)と私は、君藤先輩の”今日はキャンセル”という要望にあっさりと応え、密着度の高い二人の後ろ姿を見送った。
「君藤先輩のこと、もう諦めたら?」
「恋の指南役がなんてことを...」
「だって...俺そんな辛そうな由紗さんの顔見たくないもん」
志希先輩の顔を借りて、切な気にそう呟くのは反則だ。不覚にも、あゆみくんの言動に胸が高鳴る。
「一応ミッションをクリアしてるけど、嬉しくないよなー。こんなミッションクリア...」
「お願いあゆみくん。このままミッションを続けさせてほしいの。君藤先輩にシークレット彼女がいようとも、私の気持ちは変わるはずがないから」
「...とりあえず、今の由紗さんの気持ちを尊重するよ。これ以上不幸せな顔は、もう見てらんない」
(俺がしてきたこと...。もしかして不正解で、逆効果だったりする!?)
**
PM9時すぎーーーー
これは重症だ。こんな時間になっても食欲がなく、力が出ないなんて...。
君藤先輩と萌香さんのベッタリくっついた親密そうな後ろ姿が、私の脳裏から離れないせいだ。
「無理矢理にでも何か口に入れなよ。倒れても知らないよ」
耳元で心配そうに食事を促す優しい声。
「倒れたら君藤先輩、お見舞いに来てくれるかなー。あゆみくん...」
おバカな質問は慎むべきです...。
「知んねぇし」
呆れてます...。
「あっ、その言い草も声も、君藤先輩っぽくてドキドキする〜!」
本当、口閉じましょう...。
「......思い悩んで落ち込んだり、喜んだり...由紗さんは感情が豊かで忙しいね」
「我ながら、それは自覚してます...」
「ねえねえ由紗さん。もしかして忘れてない?」
「...ん?何を?」
「明日の代休も、君藤先輩と会わなきゃミッションクリアにならないってことを」
「あー、そっか…。さっきまで覚えてたけど、君藤先輩と萌香さんへのモヤモヤが強すぎて一瞬忘れてた...」
「そこまでモヤモヤに迷惑かけられてるなら、直接君藤先輩に真相を聞けば?」
というわけで・・・・・・
私は自分の不安要素を取り除きたいがために、まんまとあゆみくんの言いなりになった。
モヤモヤを解消するには極端な話、夜が深まりつつある今、品がなくて恐縮だが、情事の有無が気になるところなのです...。
由:【先輩。もしかして今、何かの最中だったりします?】
君:【遠回しすぎ】
【別になんもない】
由:【なんも、とは?】
君:【ちゃんと健全。ていうか、それって何?ヤキモチ?】
(あー、あなたにはかないません。)
由:【当然それです!ヤキモチです!そして健全でないと困ります!】
君:【ふーん。だけどさあ、俺、健全じゃないことに興味深々なんだよなぁ】
(えぇ...!?いや、当然よね。若い男子たるや、したくてたまらないものなんでしょ...♡(照))
由:【じゃあ、私がその対象になります!だから、今隣にいる美女には指一本触れないでくださいね!!!!!!】
君:【隣には誰もいねぇし】
由:【萌香さんは...】
君:【あいつは別の部屋にいる。何?そんなに気になる?】
何様?って記されていなかったことに、ほっと胸を撫で下ろす私。
(え…じゃあ萌香さんはどこにいるの?凛子さんと談笑してるとか?あ、でも凛子さんの彼氏さんも夜だしもう来てるはずだよね...。萌香さんは今まで何度も凛子さんの彼氏さんと会ったことがあったりして...。あーっ、もう!四人の仲良しな風景が脳裏に浮かぶからムカつく。これじゃ身がもたない。冷静にならなくちゃ。とりあえず君藤先輩に返信しなきゃ。)
由:【いちいち聞かないでくださいよ!かわいい子とベタベタにくっついて去る姿を見送ったんですよ!?心配するのは当然じゃないですか⚓】
君:【⚓←コレ、怒りなわけね。新しい】
由:【先輩、愛してます】
君:【唐突すぎ】
由:【この際、隠れ彼女がいても気にしません】
君:【いや、普通なら常識としてダメだろ】
【だけど、あいつは残念ながら隠れ彼女じゃねぇから】
由:【じゃあ、なんなんですか?】
君:【お前が妬いたんなら成功】
由:【...???】
君:【なんでもねぇよ】
【で、今日のリベンジ、いつにする?】
由:【明日がいいです!!!!!】
だって、休日2日間君藤先輩に会ってこそのミッションクリアなのですからっ!!ーーーー
(まさか君藤先輩から話を振ってくれるとは。ありがたや〜。でも、君藤先輩に連絡を取った一番の目的は、萌香さんとの情事を懸念した挙句、いてもたってもいられず...だったわけで...。隠れ彼女じゃねぇって言葉、信じてもいいよね。)
君:【ところでさ、なんで志希と抱擁してた?】
(うわー...この質問、すごく答えづらいってぇ〜......。だってあれは、中身のあゆみくんに対する感情が爆発して思わずやってしまった行為なので...。)
由:【すみません。ちょっと説明しづらい状況だったのは間違いなくて。でも決して、断じて恋愛感情はありません】
君:【仲良くないとああはならねぇよな?】
由:【きっと何をお伝えしても誤解されるだけだと思いますが、私の中で突如芽生えた友情愛が爆発してしまいました】
君:【長文すぎ】
【わけわかんねぇ】
【明日も休みだけど、また覚悟してりゃいいわけ?俺】
『明日からまた覚悟しといてくださいね』ーーーー
由:【本当に明日も君藤先輩にお会いしてもいいんですか?】
君:【いいよ】
由:【ありがとうございます♡】
君:【明日は二人きりで会うってのはどう?】
(ええ!?これって少女漫画でよくある展開じゃん!”コンパに紛れ込んでる御曹司がヒロインを誘う時の名文句”♡SNSだけど、自然な言い回しが紳士的で素敵です。先輩♡)
由:【それ、名案です!ぜひお願いします!】
突き放したかと思えば近づいて喜ばすーーーー。
それを繰り返す君藤先輩って、実は小悪魔テクニックを駆使する恋愛マスターなのでは...。と、疑念を抱かずにはいられない。
君:【本当に名案だと思う?】
由:【はい!もちろん!】
君:【ラブホだけど平気?】
「ええーーーっ!!!」
SNSの弱点は、淡々としていて、文章だけでは心情が伝わらないところだ。だけど、いつものように、無表情でしれ〜っとそんな大胆発言をする君藤先輩の涼やかな姿が目に浮かぶ。
(そんな大胆発言、私だけにしてくれたらいいのにな。...明日は先輩と二人きりで会うのに、沈んでちゃダメだよね!)
パンッパンッと、自分の平凡顔を痛めつけるべく両手で強めに叩き、己の弱い精神に喝を入れた。
痛みにより目が覚めた私は、気を入れ直し、改めて君藤先輩とのやり取りに目を通す。スマホの画面に表示された”ラブホ”という単語に、チャラ男からしか飛び出さない単語だーーーという偏見があった私の返信は次の通り。
由:【先輩からのお誘い限定で、平気になります】
すると。
君:【ふーん。冗談だけどね...】
相変わらずの塩対応。
由:【あのー。私の心を弄ばないでくださいよ!!!】
↑これは怒りではなく、むしろ喜んでます...。
(この際私の身も弄んでいただいてけっこうなのですが!!!M気質ありますのでっ!!!)
こんな淫乱な感情が芽生える自分に呆れる始末...。さすがにこの本心は先輩にお伝えすることは、はばかれます...。
君:【反応に興味があっただけ】
(もしも私が淫乱な感情を先輩に伝えた時、先輩はどう反応するのか、私も興味がありますけどね♡)
「よーし!食欲わいてきた〜♪」
(・・・・・現金なヤツ...。ていうか、淫乱な感情って...。何聞かされてんの、俺。俺がそばにいること、時々、いや、結構な割合で忘れ去ってるよなー、由紗って...。)
ほんとそれです。
私はこの時、君藤先輩とのSNSのやり取りに夢中になり、恥ずかしい心の内があゆみくんに丸聞こえであることを、完全に忘れていたのです。
あゆみくんが呟いた言葉すら、耳には届かなかった。
「本当、残念ながら仲いいよなー。二人...」
(だけど俺は...心を鬼にして、由紗の未来のために諦めちゃいけないんだ。ミッションなんて失敗して、先輩のことなんて諦めてくれよ、由紗...。)
あゆみの闇の心、由紗知らずーーーー。
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