ミッション6:休日逢瀬作戦再び!!(1日目)〜イチャラブへの道〜
『明日からまた覚悟しといてくださいね』ーーーー
『明日』というのは今日、日曜日のことで。当然休日なわけです...。そして明日、月曜日は代休。(普段休日である土曜日が運動会だったため。)
何が言いたいのかというと、あんな宣言をしたわりに、2日間休日で君藤先輩には会えないのです!
完全に凡ミス。昨日の宣言は『明日から』ではなく、『休み明けから』が正解だった...。
なんだか拍子抜けしてしまう。
「じゃあさ、ミッションとして君藤先輩にまた会いに行こうよ。今日と明日」
久しぶり感あるイケボくんのご登場。
「え?今日と明日!?」
突然思いついたのか、またも無謀なミッションを指示された。だがそのことはさておき。
「その前にあゆみくん。昨日は私の呼びかけを無視してくれちゃってさ。感じわるーい」
「眠たかったんだよ。機嫌直して」
「その声で言われちゃうとさ、許すしかないじゃん。あー、顔を拝みたいよ。まったく」
「...顔は無理。前にも言ったけどさー」
「私を混乱させたくない。でしょ?」
「わかってるんならもう言わないで」
”混乱”とは、何がなんだかわからないくらいに入り乱れる状況に陥ることだ。あゆみくんの顔を見たあと、本当に混乱を招いてしまうの?大袈裟じゃない?と、実のところ半信半疑だ。
あゆみくんのご機嫌がやや斜めとなったところで、本題に戻すことにしよう。
「それで?今回もまた休日に君藤先輩宅に出向けっていうミッション内容?」
「うん、そうだよ。サプライズは用意するけどね」
「どんな?」
「んー...さあ?それは行ってからのお楽しみ。由紗さんはさ、君藤先輩と部屋で何がしたいの?」
「え!?なっ、何を唐突に!...んー...そりゃあ...まあ...」
「...ふーん。イチャイチャしたいんだ」
(あっ。その言い方って君藤先輩っぽい。ドキドキした〜!)
「心の声が俺に聞こえてること、時々忘れてるでしょ...」
「へへ。ついついねぇ...。話戻すとさ、前回はイチャイチャ未遂だったから...その展開をまた期待しちゃうんだよねぇ...」
「正直に言うんだね」
「...だって、好きなら触れたいって思うのが普通だと思うから」
ハァーっという深いため息の音が聞こえてきて。
「念を押しとくけどさ、昨日君藤先輩といい雰囲気だったみたいだけど、14のミッションが成功した暁じゃないと、二人の恋は成就しないことになってるんだからね。あまり調子に乗らない方がいいよ」
「どうしたの?あゆみくん。機嫌悪そうな声に聞こえたけど...」
「そう?気のせいじゃない?...ところで由紗さん、昨日君藤先輩と交換してたじゃん」
「へ?交換...?」
「SNSのID」
ーーーーそうなのです。昨日ハンバーガーショップを出る寸前、なんとなんと、君藤先輩から『SNSのID教えといて』と、さりげなく言われ、私は発狂したのでした。
「きっと君藤先輩の家に遊びに行きたいって連絡したら即OKくれるんじゃない?」
何を仰るあゆみくん。だがしかし、女嫌いで有名な君藤先輩から、あんな言葉が出てくる日が訪れるとはーーーー。
『SNSのID教えといて』ーーーー
ぶっちゃけ、それって”嫌いじゃない女認定”していただけたってことですよね。
『あまり調子に乗らない方がいいよ』ーーーー
(...はい。すみません。調子に乗りました。まったくもう。あゆみくんの言葉が蘇るなんて...。)
「俺の言葉が蘇ったみたいでよかったよ。さ、早く連絡してみてよ」
なんだか今日のあゆみくんは、いつも以上に無理難題なことを圧力強めにけしかけているような気がするのですが...。
「きっと君藤先輩、断わろうと思うけど、私を傷つけないような返信をしなきゃって悩むかも…」
「由紗さんって、猪突猛進のイメージが薄れてしまうほど、案外自信なさげで小心者なんだよね」
「よく知ってらっしゃる...」
「ずっと見てるからね」
数週間の付き合いなのに、大袈裟な。
さらなるイケボくんの急かしにより、ようやく勇気を出し、いざお誘い!!
【今日、お暇ならお会いできませんか?】
と、スマホのSNSに用件を入れ送信。意外なことに数秒で既読がつき、すぐにOKのスタンプが送られてきた。
「ほら言ったじゃん。文字通りの即OKだったでしょ?」
「信じられない。...でもどうしてあゆみくんはそんなにもお見通しなの?」
「さっきも言ったけど、ずっと見てるからだよ。二人を...」
すごく重苦しい声に感じた。俯いて一点を見つめ、思い詰めたようにぼそぼそと呟いている姿が思い浮かぶようだった。
確信はないけれど、やはりあゆみくんは現時点でもう人間ではなく、幽霊なのではないか。それは何度も捨てきれない疑念。
あゆみくん、私は本当のことを知りたいです。
「そっか。いつも見守ってくれてるもんね」
あゆみくんにそう声をかけることが精一杯だった。
「うん。あ...ほら、返信急がなきゃ」
「あー、うん!えっとー...」
お礼をどんな言葉で返そうかと思案していたら、また君藤先輩から返信が届いた。まだお礼を伝えていないのに...。焦りが加速する。
君:【で、今日どうすんの?】
思案するも焦りが祟って...。
由:【私のためにお時間をいただき、ありがとうございまそ。PM1時過ぎにご自宅にお伺いします】
君:【堅苦しい】
【文章長すぎ】
【ありがとうございまそって(笑)】
【ウケるわー】
【外じゃなくていいの?】
ご指摘込みの返信が立て続けにきた...。
短い文章をこまめに送る器用なことができない私は、意外にも君藤先輩がSNSを正しく使いこなしていることに尊敬の念を抱いた。
由:【家がいいです】
君:【了解。待ってる】
よろしくお願いしますとピンクのブタちゃんがお辞儀をするスタンプを送り、記念すべき君藤先輩との初SNSメッセージを終了した。
**
君藤先輩の豪華高級マンションに到着したのは、PM1時の10分前。
前回同様、あゆみくんの案内により、私をここまで導いてくれた。
そのあゆみくんが、マンションに到着した途端、声を発しなくなった。
あゆみくん曰く、私が声をかけてもあゆみくんが反応しない場合の理由は、2つあるらしい。
私がトイレ、お風呂に行く時や、着替え中等、即座に居てはならぬ雰囲気を察知した場合。それと、誰かに憑依した場合。この2つの場合は、私の元から消えるから反応できないらしい。
私がここに到着したと同時に、マンションのエントランスの自動ドアが開き、私がいる反対方向へと去って行く人を見たのだが。その人物はなんとなく、志希先輩に似ている気がした。
その直後、あゆみくんにさんざん話しかけても、言葉が返ってこず。
なんだか、とても嫌な予感がするのです...。
(まあいいか。案ずることなかれ。あゆみくんにも自由な時間があってもいいわけだしね。)
と、物わかりのいイイ女をきどりたがるJK。私が縛り付ける権利などありゃしないのだから。とはいえ、人の体に憑依すると、対象人物にはご迷惑をおかけするわけで…。
そろそろPM1時。私は気持ちを切り替え、一度深呼吸をし、エントランスを抜けて、エレベーターホールへと進んだ。エレベーターに乗り込むと、前回のことが思い出された。つれない態度の君藤先輩は、私の質問攻めに対し、素っ気なく短い言葉で淡々と答えたあの瞬間が蘇り、胸を熱くした。
そして今日は、どんな君藤先輩の顔が見れるのだろう。期待に胸を膨らませ、私を乗せた個室空間は上昇して行くーーー。
乱れた呼吸を整え、そっとインターフォンへと手を伸ばし、チャイムを鳴らした。
そして。
ガチャッーーー
大きな玄関ドアが開く瞬間、緊張が走る。
そして、大好きな顔が、私を見る。
「コンニチハ」
「なんでカタコト?」
「すごく緊張してます...」
「いらっしゃい。あがって」
そっけなくそう言うと、私を置いてすぐに自室の方へと歩き始めた。
「あ、ちょっと待ってくださいよ、先輩。お邪魔しま〜す...!」
一度来てるからって”勝手知ったる他人の家”...というわけにはいかないのですが...。
久しぶりに君藤先輩の部屋に足を踏み入れる。今日はベッドではなく、床に座ることにした。
また先輩の人格が崩壊し、私に甘えておかしくならないために。いや、あの時は凛子さんの彼氏が来ていて、寂しさを募らせていた幼い頃の先輩に戻るきっかけがあった。しかし、今日は、凛子さんは外出しているらしく、私と君藤先輩の二人きり。甘えるきっかけがあるとすれば、”オスの本能”を理性で抑えられなくなった瞬間かもしれない。それを願っている反面、怖さもある。
ところで、今日なぜ凛子さんがいないかというと、先程君藤先輩が凛子さんに私が来ると伝えると、用事があると言って、上機嫌で出かけて行ったらしい。ミニブタのクルミちゃんを連れて。
「凛子はお前のこと、気に入ってるから」
(...え!?てことは、邪魔をしないように気を使って外出したとでも?じゃあ本当に二人きりってわけですね?実は、あの方がいるかもーなんて思ったけど、勘が外れちゃったか。)
「でもさ、今日、二人だけじゃなくて...」
(え...?)
君藤先輩が気まずそうな顔をして、私にそこまでを伝えた時。
ガチャッーーー
ドアからひょこっとある人物が顔を覗かせたのだったーーーー。
「トイレお借りしました〜。由紗ちゃん、文字通りの”お邪魔”していまーす」
「...え。邪魔するんならお帰り願います...」
(やっぱいたかーっ!!)
遊園地に続き、君藤先輩宅にもいる”お邪魔虫”こと・志希先輩。
みんなの憧れの的。そして我が校のイケメンツートップの片割れ、志希先輩に向かって、私は思いきり無礼な口を聞く。
「サプライズだよ」
意味深気に強すぎる視線を私に向ける志希先輩。
サプライズ。その言葉から思い出すあゆみくんのあの言葉。
『サプライズは用意するけどね』
『どんな?』
『それは行ってからのお楽しみ』ーーーー
あゆみくん。あなた、やっぱりまた憑依しましたね...。志希先輩に!
サプライズを用意すると言っていたあゆみくんは、実際のところ、サプライズを決めかねていたに違いない。(これは勘ですが...。)
そこにタイミングよくいいカモ(志希先輩)を見つけて今に至っているのだろう。
(毎度スミマセン、志希先輩...。うちのあゆみがやらかしてしまいまして...。)
「志希わけわかんねぇ。なんのサプライズだよ」
「俺と由紗ちゃんがまた出会えた奇跡に!」
「...お前、この前の遊園地の時もだけど、様子がだいぶおかしすぎねぇ?さっきまでここにいて、こいつが来るって言ったら、お邪魔虫は消えますって帰ったはずじゃん?また戻ってくるとかわけわかんねぇ」
「怒るな怒るな。気が変わったんだよ。でもそれは、由紗ちゃんのせいなんだけどねー」
(おいおい、イケボくん...。いや、でも確かにそれは当たってるかもね。私のせいであゆみくんは志希先輩に憑依するはめになったっていう勝手ではあるけど、独自の言い分もあるだろうから。)
「マジでどうかしてるよ...」
こんな時、君藤先輩の顔色をうかがうも、呆れているようにも見える気がするが、あまり表情の変化がない。よって、心情が読めないので困ります...。
私にはまったくもってあゆみくんのことを理解できないでいた。
なぜ他人に憑依してまで私たちの前に現れるのだろうか。
あゆみくんは私に対し、実はこれっぽっちも恋愛感情を抱いていないのに。(本人への確認済み。)
「で。今日はここで何するんだっけ?」
(イチャイチャしたいです。君藤先輩!)
「心の声ダダ漏れですよー。由紗ちゃん」
志希先輩(あゆみくん)が白い目を向けてくるもんだから、若干怯む私。
その時、君藤先輩のスマホが鳴った。
「何?...ハァー、わかった。すぐ行くから」
話を終えた君藤先輩は、気怠そうにドアの方へと歩みを進め、こちらを振り返った。
「ごめん。ちょっと凛子のところに行ってくる」
「え?凛子さんどこにいるんですか?」
「近くのスーパーにいるらしい。夜彼氏が来るから手料理食べさせるんじゃねぇ?でも慌てて出て行ったから財布忘れたって。ちょっと行ってくる」
珍しく慌てて出て行く君藤先輩。そして、取り残される私と志希先輩(あゆみくん)。
「すぐ帰ってくるんだから、そんな沈まないでくれる?」
「ずっと一緒にいたいんだもん...」
君藤先輩は、すぐ戻ってくると言っていた。だけど、約1時間弱経っても帰ってこなかったーーーー。
「まだ帰ってこないね、君藤先輩...」
「おかしいね。近くのスーパーに財布届けに行っただけなのに、もう1時間以上経ってる。ありえなくない?」
「んー。凛子さん関係じゃないかなぁ。例えば......そう!来る途中に公園があったでしょ?確か、スーパーの隣だったよね。あそこで親子の語らいしてるとか」
「じゃあ俺らも行ってみようよ。なんとなくいる気がするから」
「あゆみくんはなんでもかんでもお見通しなんだね」
「そんなことはないよ。あの人は...掴めない」
「え?やっぱあゆみくんもそう思うの?そうだよね。何考えてるかわかんないよね。君藤先輩って。...でもね、私はそんなところも放っておけないなって思っちゃう。私の愛情で冷めきった心を温めてあげたいって、勝手な母性を抱いちゃってんだよねぇ...」
「ムカつく」
(へ?なんでムカつかれなきゃなんないの!?)
「ムカつくからムカつくんだよ!あーっ、もう!このストレス我慢できないっつーの!!外行こうよ。その辺に君藤先輩がいるかもしれないし」
あゆみくんは猛烈に外へと行きたがっている。おそらく、憑依によって人の体を自由自在に動かせることで、大いにストレス発散できるってわけなのだろう。
そして、私が折れるはめになる。
「行くよ行く!でもその前に君藤先輩のSNSに連絡してみるね」
私は先輩のSNSに連絡しようとした。が、スマホの番号も教えて貰っていたことを思い出し、直接話した方が手っ取り早いと思った。
♪♪〜〜♪♪〜〜♪♪〜〜
しかし。君藤先輩のスマホは、君藤先輩の部屋に置き去りにされていて、賑やかに着信音が鳴り響いている。
(キャーッ!ひょっとして”ゆさ(ユサ)”って名前で表示されてたりします?♪)
期待を胸に、スマホを覗いてみた。
【ウザ女】
そう表示されているではありませんか...。
(あーそうですか...。君藤先輩らしい......。ていうかさ、スマホ忘れて出かけてんじゃないよ、先輩!!)
♪♪〜〜♪♪〜〜♪♪〜〜
それから間もなくして、また君藤先輩のスマホが鳴り、覗き見ると。
【萌香】
女嫌いで有名な君藤先輩のスマホに、女性の名前が表示されている違和感ーーーー。
なんだかとても、胸騒ぎがします。
〜〜
昼下がりの公園に到着した。今にも雨が降り出しそうな天気の中、私の心には、もうすでに雨が降り注いでいる。
君藤先輩のスマホに映し出された文字。
【萌香】
ーーその人は君藤先輩とどんな関係?ーー
そんな疑問に押し潰されそうな私を尻目に、志希先輩(あゆみくん)は、何やらスマホを操作している。
「志希先輩のスマホ勝手に触っちゃダメじゃん、あゆみくん!」
「大丈夫だよ。少しだけ音楽聞くだけだからさ」
「それならまあ、大丈夫かもね...ハァー...」
「あっ、またため息。さっきから何度目?」
「...さぁ...ハァー......」
この公園に君藤先輩の姿は見当たらない。一体どこへ?
心ここに在らずの私へ向けられた志希先輩(あゆみくん)の射るような視線に、私は気付くことはなかった。
「利用させてもらうよ、萌香ちゃん。
...ごめん。由紗」
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