ミッション5:リレーで1位獲得作戦!!



 愚痴った私が悪かった・・・・・。



『え?体育祭でリレーすんのがそんなに嫌なんだ。ふーん。じゃあ次はクラス対抗リレーで1位を取ることがミッションってことで』ーーーー



(あのー...あなたは私の恋のキューピットじゃないの?どうして私が嫌とするものをミッションにしちゃえるわけ?鬼だよ鬼。私はね、足が遅いわけじゃなくて、リレーのあの緊張感漂う感じがたまらなく嫌なおかげで成果がでないの!ねぇ、聞こえてるんでしょ?私の心の声。)


『聞こえてるよ。あのさ、ミッションが苦労なく簡単にクリアできちゃったら、その恋の価値が下がると考えてのミッション決めなわけ。文句言うようならーーー』

『あーっ!わかった、わかった。ごめんって。ミッションクリアに向けて頑張るので、引き続きご指南よろしくお願いします!!』

『わかりゃいいよ。じゃ、頑張って』


 簡単に言うアユミクン...。



 **



 あゆみくんから次のミッション宣告をされて数日。私は焦りと闘っていた。


 クラス対抗リレーで1位を取るなんて...。自信がないにもほどがあるってもんです。


「ねぇ莉茉ー。どうしたら今度の体育祭のクラス対抗リレーで1位を取れると思う?」


 昼休憩中、大きな手鏡とにらめっこをしている私の相棒・莉茉に切実な質問をしてみた。


「そんなの決まってんじゃん。私たち帰宅部には不利だけどさ、練習あるのみ。陸上部の誰かにコーチを頼むってのはどう?」


 親友の悩み事なんて興味がないらしい莉茉は、手鏡とにらめっこしたままさらっと提案した。


「それだ莉茉!」


 名案だとばかりに意気込んでみるも、適任をコーチとして迎え入れるほどの人脈は、私にはない...。


「でもなんで?いつもはリレーなんて面倒くさいだの、適当に終わらせるだの言ってさぁ。意気込みなんてゼロなはずじゃん?」

「うん...そうなんだけど、あのーそのー...今回は君藤先輩にいいとこ見せたいんだ!」


 それも一理ある。だけどミッションだということは言えない。言うとなれば、姿なきあゆみくんのことを明かさなければならなくなる。正直それは面倒なことで...。


「そっか。でもクラス対抗で1位ってことはさ、あんただけ頑張っても意味ないじゃん」

「あーっ!!」

「うるさっ!...ね。クラス全員の頑張りの賜物ってやつなんだから」


 と、いうわけで。その日の放課後ーーー。


「はーいみなさーん!学年クラス対抗リレーで1位をとるために、今日からリレーの練習をしましょう!!」


 私は勇気を出してそう叫んだ。


 えーっと、同調不可能な声がほとんどで落胆するしかなかった。そして、当然意見が飛び交う。


 意見1:俺は(私は)陸上部だから一切問題ない。という意見が12人。

(え?意外とうちのクラス陸上部が多いじゃん!!)

 よって、コーチをお願いするも、部活が忙しいと皆が口を揃え、断られる始末...。


 意見2:俺は(私は)部活が体育部で、毎日走り込んでるから練習など無用。


 意見3:このクラスで帰宅部なのは私と莉茉だけだから、私たちが一番足引っ張ること間違いない的な...。

(本当に知らなかったよ...。うちのクラス、こんなにもリレーに適した人材の宝庫だったなんて!...でもさ。なんなんだよ。せっかくクラスみんなで団結してリレーで1位を取るべく、汗水流して練習してさ。青春の1ページを刻むつもりだったのに...。)


 ドライな人たちだなあと激おこプンプン丸だったのもつかの間。自分たちのせいで1位になれなかったらと思うと、ミッション云々どころではなく、クラスメイトからの信頼をなくして立ち直れない自信がありすぎる...。


「了解!じゃあみんな、私は莉茉とともに猛練習に励みますのでご安心を〜」


 なんて軽はずみに口走ったが...。混乱中の私は冷静な莉茉からも、大打撃を喰らう。


「あー、由紗...。ごめん。私今日から日曜日以外バイトあるから無理っす...。あ、でもノープロブレム。私リレーには自信ありありだから」

「なぜに?」

「何を隠そう私、土屋莉茉!中学時代は彼氏なしの陸上一筋で、2年前国体の100メートル短距離走2位という成績を収めましたのよ!!」


 口元に手を当て、ほーっほっほっほっと高笑いをする莉麻に若干イラつくが、不安な気持ちに襲われた。


「へぇー。すごいね。そっか。元陸上部なんだから私のコーチを買って出てくれてもいいところをバイトで無理だから他の人に託したかったわけか」

「声低めだし棒読みー&棘あるー」

「はい。思い切り刺々しさを顕わにしてみましたけど何か」


(八つ当たりなんて...。私、サイテーか!だって...だってさっ!私の相棒・莉茉が今は遠くに感じてしまうのですよ...!)


 私に突きつけられた現実。


 それは、”一人でリレーの練習”ーーー。


(まじか...。)


「ちょっとお手洗いに行かせていただきます」


「了解...。あっ、ごめん由紗!もう私バイト先に直行しなきゃ」

「あ、うん。行って行って!棘ありは莉茉がいない寂しさの表れだから気にしないでね」

「わかってるって!大好きよ由紗!じゃ、練習ガンバッ!!」


 莉茉の軽さはいつものこと。だがこのいつもと変わらない軽さが、とても心地よかったりするのだ。


 莉茉と別れ、私は一人トイレに向かう。


 トイレのドアノブに手をかけたその時、パシーンッという音がすぐ横の男子トイレ前から聞こえ、その音源先を凝視したままフリーズする私。


 うちのクラスの謎めいたメガネくんと、学年一の美少女ちゃんから何やら険悪なムードが漂っている。メガネくんは頬を真っ赤に腫らし、叩かれた反動で私の方に顔を向け俯いており、美少女ちゃんはそんな彼を睨みつけている。


「サイテー...」


 美少女ちゃんが声を絞り出し、言い放った言葉はそれだった。


 あいにく周囲には私しかいない。私はトイレに入ろうとする直前まで考え事をしていたからか、険悪オーラが漂っていたであろう二人を気にも留めることなく、スルーしていたのだ。


 メガネくんはハーッ...と気怠そうに息を吐き、美少女ちゃんの方へと向き直った。


「俺が最低?なんでだよ。だって、本当のことだろ?」

「住田くんが見たのは兄よ」

「学校帰りにたまたま3回目撃したけど、いつも違う男だったっての」

「3人兄がいるの。大学生の兄一人と会社員の兄二人。帰宅が早い兄とスーパーに買い物に行く習慣があるから」

「あっそう」

「信じてないでしょ」

「みんな顔違ってんだな。一人もあんたと似た顔いなかったぜ」

「だとしても、本当にあの人たちは私の兄なの」

「もういいよ。どっちにしろ、俺今誰とも付き合う気ないからさ」


 どうやらこれは、美少女ちゃんからメガネくんへの告白現場なのでしょう。


 ーーーが、前半部分は浮気を疑う彼氏的な発言に聞こえたのが不思議。この場を去ろうとする美少女ちゃんに、メガネくんが信じられない言葉で引き止めた。


「前の時は、お前一人っ子じゃなかったっけ?」

「よく覚えてるね...」


 と引きつった笑顔を見せ、小走りでその場を去って行った。


 メガネくんは少し前まで美少女ちゃんのことを”あんた”と呼んでいたはず。しかし最後は”お前”と呼んだ。しかも最初の出だしは”前の時は”と言ったはず。


「さては、二人は元恋人同士だったの?」

「へ!?なんでいんの?いつから?」


 メガネんくんは今の今まで周囲の存在をないものとしていたらしく、私の存在に驚愕していた。


「パシーンッという音とともにフリーズさせていただいておりますが...」

「そんなにも前からか...。デリカシーなさすぎだろ、あんた」

「つい気になって...」

「まあいいわ」

「ふーん。メガネくんって、”まあいいわ”な状況じゃなくても”まあいいわ”で真相究明を怠って生きてきたでしょ」


(うっ...だんだんと顔が鬼の形相へと変化していませんか...!?)


「は?メガネくんやめろ」

「いやそこ?...んー、じゃあ君の名は...住田だったよね。こう呼ぼう。スーミン!!」

「...よし。いいぞ」


 プッと吹き出した私を、不思議なものでも見るような目で見ているスーミン。


(スーミンって、同クラだけど確か...話したことなかったんだっけ。とっつきにくい謎めいた理系男子的容姿なだけに、女子との接触はあまりないように見えたが、男子からは人気あるんだよね。)


 今、メガネくん改め”スーミン”と話してみてその理由に気付いた。


 スーミンの魅力。それは、案外話しやすく、意表を突く返しをする天然ボーイであること。


「だけどね、さっきの子に対してはなんか様子おかしかったけど、スーミンって元カノちゃんのこと嫌いなの?」

「俺元カノって言ったっけ?まあいいや。あいつを嫌いっていうか、嘘つきが嫌い」

「そうなんだ...」


 ”元カノ”であることは否定しない。イコール、美少女ちゃんが”元カノ”であることを肯定していることになる。


 あの美少女ちゃんの名前は、確か志田怜羅(シダレイラ)。美男美女のとっつきにくい者同士が付き合って別れ、未練タラタラな女側が復縁を迫っていたのだ。


 復縁交渉が決裂した男女のことに、部外者が何首を突っ込んでるんだと、軽く自分に警告した。


「今何時?スマホ見せて」

「いやいやスーミン、あたしゃトイレに参上する身だよ。スマホは教室。ていうかあんた、今手に持ってるのはなんなんだい?」


(スマホ、ですよね...。よく老人が頭の上に眼鏡を乗せて『眼鏡どこにある?』っていうのと同じパターンじゃん...!)


「ちび○○子ちゃんみたいな話し方ウケる。ーーーやばっ!部活の時間過ぎてんじゃん」


(ちび○○子ちゃんみたいって...。決して意識して言ったわけではないのですが...。)


「スーミン部活何やってんの?」

「陸上」

「君もかい!」


 ツッコまずにはいられません。うちのクラスは本当に陸上部だらけ。


 ...そういえば、さっき私がクラスのみんなに勇気を出して叫んだことを、スーミンは教室に不在だったため、知らないってことになる。


(...あっ。そうだ!!)


「スーミン!お近づきになれたことをいいことに、無理承知なお願いをします!!」

「え」

「部活終了後の10分程度でいいので、私のリレーコーチをしてもらえませんか?」

「いいよ」

「即答?」

「おかしい?嬉しくないの?俺のコーチ就任」

「就任って...。大変嬉しゅうございます...が」

「言葉マジウケる」


(いや、それを言うならあんたもでしょ!)


 ククククと笑うスーミンは、先程までの気難しい顔など微塵も感じさせない。


 放課後落ち合う約束をし、スーミンはそそくさと部活へと向かった。


「へぇー。スーミンさんとの初会話って、こんな感じだったんだ。すっげー笑える」


(あゆみくんって、スーミンまで知ってんの?さん付けしてたけど...。二人は同い年なのに何か訳あり?)

「あんまり俺に質問しないでよ。答えられないことばっかだからさ」

(はあー?じゃあ私の耳元で独り言のように呟くのやめてもらえる!?)

「無理。口から生まれてきたような俺に、そんな難しい要求やめてよ」

(へえへえ...。)

「由紗さんかわいくなーい」


 あゆみくんに私の心の声も伝わるなんて、拷問にも程がある。かわいくないのはお前もだよって頭の中だけで処理する難しさたるや...。



 **


 スーミンはあまり質問などしない。今回のリレーコーチを引き受けるはめになった原因でさえ私に聞かなくても、なんとなくわかっているのだ。


「んー、足が遅いってわけじゃないんだね。でも...」

「いいよ。思ったことを言ってくれた方がいいから」

「あのさ、リレーが苦手って思ってるかもしれないけど、その理由を緊張のせいにしてない?」

「うーん...。確かに...」

「もっと速く走れるようになれば、自信がついて緊張なく走れるんじゃないかな。緊張は俺ら陸上選手にとって最大の天敵なんだ。一番いいのは楽しむこと!だから、苦手な理由を緊張のせいにするのはもうおしまい」

「うん。わかった!なんか弱いとこ当てられちゃったなぁ。...てことは、メンタルが強くないといい結果が生まれないってことだね」

「まあそういうことになるかな。じゃあアップしたあともう少し走ろうよ。あと明日以降でいいんだけど、ランニングフォームを変えた方がいいと思う。それと、固い足首の可動域を広げるストレッチも追加しよう」

「なんか、ありがとね。部活の練習で疲れてるでしょ。なのに親身になって練習に付き合ってくれて、本当有難いんだけどさ、体力大丈夫?」

「自分の体力の限界を知れるチャンスだと思うんだ。それとさ、俺への心配は無用だよ。あんたに謙虚さなんて求めてないし」

「酷い言い方...。打たれ強い私だからいいけどさ」

「じゃ、我慢して頑張ってよ。えーと...」

「うーん、”由紗”は好きな人限定で呼ばれたいから、ユーミンって呼んでくれていいよ」

「ユーミン。じゃあ校庭2週走ったら今日の練習終了にしようか」


(予想通りの即呼び!潔くて◎だけどね!)


「はい!コーチ!!」

「うるさー」



 〜〜


「で、先生なんだって?海。志望校についての話?」

「そう。よく親と話して結論だせって」

「ふーん。まあ、まだ少し時間あるし、お母さんとゆっくり話せばいいんじゃない?」

「うん。そのつもり」

「ーーーあっ!!」

「うるせーな」

「あれ見て。校庭走ってる女子の方って、由紗ちゃんじゃねぇ?」

「は?...あー、そうみたいだな」


 一瞬足を止めるも、由紗を確認するとすぐに歩き始める君藤。


「あっ、おい!相変わらずつれないなあ、海はー!」

「...どうせあいつ、授業中に隣の男子と喋りまくって放課後校庭10周走れって、その男子といっしょに罰を与えられたんじゃねぇの?」

「妬いてる?」

「まさか」

「吊り橋効果ってやつでさ、恋愛感情が芽生えたりしないかな。あの二人」

「あんなので不安や恐怖を抱くことなんてねぇから。吊り橋効果は間違ってる。アホじゃねぇの?志希」

「なんかいつもより口数増えてるね」

「気のせい」

「妬いてるよね?」

「それも気のせい」

「かわいー!海〜!」

「殺す」

「物騒な言葉はやめなね...」



 〜〜


「あれ?校庭横歩いてる背の高い二人って、もしや君藤先輩と志希先輩じゃあないですか!?」


 急に足を止める私にすかさず苦言を呈すスーミン。


「もうすぐ終わるんだから、最後まで気を抜くと本番でも気を抜く癖がついちゃうよ、ユーミン!」

「はい、コーチ。すみません!」


 先を走るスーミンの元へと慌てて駆け寄り、残り少ない距離を黙々と走り終えた。


「本番まであと2週間だけど、平日こんな感じで頑張れそう?」

「うん!クリアしなきゃいけないからね」

「クリア?」


(おっと。口が滑った...。)


「うん。クラス対抗リレーで1位を取るという願望を叶えるために、緊張という欠点をクリアしなきゃ!」

「うん。1位とって君高コンビのどっちかに喜んでもらわないとね」

「えーーー!?なんでそんなことを?」


(勘鋭すぎーっ!)


「さっきあっち通ってたのって、あの二人でしょ?彼氏がどっちかなのかなーって」

「滅相もございません。私の片想いなのですよ!」

「ふーん。みんなあの二人のことを好きだよね。我が校のアイドルでいて、心の恋人ってとこでしょ?」

「そう...。頑張ってるけど、なかなか手強いの...。君藤先輩」

「あー、そっちねぇ。あの人は女嫌いって噂だから大変だね。それでもなんとかものにできるように頑張って」

「頑張ります...!コツコツと...(ミッションを!)」


 スーミンという、男子で初めてのお友達を今日得ることができました。


 私だけが友達と思ってるとしたら寂しいのですが...。

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