ミッション4:デートで困惑大作戦!!

 遊園地デート当日ーーー


 仲秋の朝ゆえに、肌寒さで目が覚めた。昨日準備しておいた服に着替え、普段は怠っているメイクを少々施し、肩までの髪を思い切ってお団子ヘアにしてみた。


「君藤先輩、お団子ヘア好きかな...」


 休日に君藤先輩に会える喜びを噛み締め、乙女全開な私の脳内は、いわゆるお花畑ってやつでして...。



「由紗さん、忘れてない?今日デートする相手は君藤先輩じゃなくて、俺ってこと」



 開口一番に不満をぶちまけるあゆみくんの声色は、あからさまに不機嫌さを露わにするほどの低さだ。その低い声は、やはり惚れ惚れするほどのイケボなのです。


「いや、でもさ、君藤先輩に会えるわけだしーーー」

「君藤先輩、君藤先輩って...うるさいよ」


 なぜにそんなにも不機嫌になるのか。いや、その理由は理解できないわけじゃない。好きな子が他の男の話をすることは、心穏やかではいられないだろう。


 あゆみくんからの突然の告白。そして今日、戸惑いを隠したままデートをすることとなるーーーー。



 **


 一際目をひく細身のブラックダメージジーンズ。黒パーカーin裾長め白T 。そんなシンプルなイケてるコーディネートで現れたのは、私が愛してやまない君藤先輩♡


 対して、羽織り青シャツin白T。ブラックジーンズ。アクセントに赤黒チェックシャツを腰に巻いた、おしゃれラフスタイルで君藤先輩と現れたのは、君藤先輩同様彼女がいないというお友達、高山志希先輩。


「おはよ。ねみー」

「おはよう。お誘いありがとね、えーと...」

「相川由紗です。きっと一度ある失態でお目にかかってるかと...」


 え?ーーーと首を傾ける志希先輩。


(ていうか、志希先輩を誘う時に私のことを説明してないの?君藤先輩...。きっとあなたのことだから、『明日遊園地行かね?』『は?まあいいよ』って感じで今日に至った感あるよね...。)


 ハテナ顔の志季先輩を横目に、しれっと呟く君藤先輩。


「ブタパンの子」


(オイ...。そんな言われ方されたくないーっ!)


「え!?あの子?やっぱマジでかわいいじゃん!」


 私を褒める志希先輩に、いえいえと照れ笑いで返す私。そして思い出す君藤先輩のあの言葉。



『志希。お前のこと、かわいいって言ってた』ーーーー



 登下校中見かける君藤先輩以外の人たちを注視したことがなかった。君藤先輩軍団の一人に、こんなにも目元ぱっちりサラサラ黒髪の超爽やかなイケメンボーイがいたのに、私は君藤先輩しか眼中になかったなんて。もったいない。


 親友の莉茉曰く、お二人は、我が校きってのイケメンツートップらしく、密かに【君高コンビ】と呼ばれているらしい。


 実際、二人はとても長身で、モデル並に素敵すぎた。見惚れる私に...。


「だからさー、今日のデートの相手は俺だってば」


 と、全力で呆れているらしいあゆみくんの声に、私は全力で猛省。デリカシーがなかったとも思うが、それでも私の恋のベクトルは君藤先輩にしか向いていないし、断固として変わることはないと断言できる。


 こんな私を好きになっても不憫なだけなのだが、あゆみくんとのデートが恋愛成就のためのミッションとなれば、話は別なのです。


 なので、改めて言います!!


 ーーー私は今日、大好きな君藤先輩ではなく、志希先輩(あゆみくん)とデートします!!ーーー



「そうやって宣言して自分を奮い立たせないと、義務デートなんてできやしねぇって感じだよね...」

「......!」



 ややひねくれた言動のあゆみくんに、返す言葉はない。


「かわいいかどうかは別として、変な女だと思う」


 そんな君藤先輩の安定のイケボにより、静かになったあゆみくんへの気まずさが吹き飛んでいった。が、しかし...!


(え...?今、聞き捨てならない言葉を言ってたよ。君藤先輩!)


『かわいいかどうかは別として、変な女だと思う』ーーーー


 君藤先輩が私の容姿についてどう思っているか言及しなかったが、最後にはっきりと”変な女”呼ばわりをされてしまった。


 意地悪な笑みを浮かべ、私に視線を向ける君藤先輩に、思いきり不貞腐れた顔をしていた。


「変な顔」


 ”変な女”に次ぐ”変な顔”発言...!!


(私って、君藤先輩に邪険に扱われてやしない?)



 **



「ユサチャン、オレ、キミノコト、スキダヨ」

「......あれれ?」


 君藤先輩が「あー、ちょっと行ってくる」と呟き、さりげなくトイレへと向かった直後のこと。なんだか目が虚ろになり、カタコトで私に愛の告白をする志希先輩が、とても不自然すぎる。...てことはーーー。


「入っちゃったんだ...あゆみくん...」

「これがミッションじゃん」


 志希先輩の顔が、あり得ないことを言う。それもそのはず。本来の志希先輩は現在’お休み中’で、予告通り、あゆみくんが志希先輩に憑依しているのだからーーーー。


「で、さっきなんでカタコトだったの?」

「志希先輩の異変に気付いたら、俺が憑依したんだと察知してくれると思って。現にすぐ察知してくれたでしょ。さあ、デートしよ!」


 ちょうどのタイミングに、君藤先輩が戻ってきた。志希先輩(あゆみくん)に腕を掴まれている私を、なぜか冷ややかな目で見つめる君藤先輩。


「...ふーん。うまいこと進展してるみたいだな」


(進展?...うそ。何か勘違いしてらっしゃいませんか?君藤先輩!)


「進展しちゃ困るの?せんぱ...いや、海李」

「まさか。なんで俺が...」


 顔を逸らし、不貞腐れている様子の君藤先輩って......かわいすぎです。


 進展しちゃ、困りますか?と、私も心の中で質問するも、返答は当然あるはずもなく。


 その後、”THE遊園地”と称されそうなアトラクション等を次々と制覇した。


 レトロなコーヒーカップ。若干スリルに欠けるジェットコースター。おバケの動きがぎこちない少々胸がザワつくお化け屋敷。これまたレトロなメリーゴーランド。船の振り子のような動きが心地いいバイキング。


 すべて楽しくてよかったのだが、いつも私の隣には、私の大好きがすぎる君藤先輩ではなく、志希先輩(に憑依したあゆみくん)がいた。


【あゆみくんとのデート】が今回のミッションなのだから仕方ないと、自分に繰り返し言い聞かせていても、もちろんやっぱり君藤先輩と二人きりのデートを実行したいものだ。


 志希先輩(あゆみくん)が腕時計をちらりと見たあと、私に向かって不敵に笑った。そして。


「あー、俺トイレ休憩に入りまーす!」


 そう言うと、さっと私に近づき、耳元でこう囁いた。


「まったく...あからさますぎ。30分の猶予をあげる。その間だけ君藤先輩とイチャイチャできるもんならしてみたら?」

「え!?いいの?」

「いいよ。30分後の12時半にお化け屋敷のところで再会できたらの話だけどね」

「ん?」

「必ず来てね。これも一応今回のミッションの一環だからさ。じゃーね」


 手をひらひらと振り、足早にトイレ休憩に入る志希先輩(あゆみくん)。


 本当のあゆみくんは、あんな風に姿勢よく歩くのかと、感慨深く目で追ってしまう。一筋の線に沿って歩くモデル歩きっぽいし、おまけに今あゆみくんは、君藤先輩に引けを劣らない容姿端麗な志希先輩の体を借りてて。まさにモデルさんそのものに見える。


 けれど、本当のあゆみくんを見てみたいと思ってしまうのだーーーー。


 30分後にお化け屋敷のところって、ミッションにするほどの事じゃないような。単なる待ち合わせ...ですから。それと、あからさまに君藤先輩と二人きりがよかったオーラが出てたのか、そんなにまで冴えない表情をしていたのか...。志希先輩(あゆみくん)曰く、私、”あからさますぎ”だったようです。


 遠ざかる志希先輩(あゆみくん)の姿を見送ると、振り返り、愛する君藤先輩を見たーーー。すると、腕組みをし、首を傾けるという意外且つ萌え死にを誘うポージングに、プチサプライズをいただいた気分になった。


「なあ。お前って、志希と前からの知り合いかなんか?結構タメ口で話してるし、距離が近いし...」


(あー...。その辺配慮に欠けてたなぁ。バレたらややこしいから注意すべきだったよね...。浅はか...!!)


「知り合いだなんて...まさか。今日初めて話しましたよ。話しやすいからつい先輩なのにタメ口で話してしまいましたけど」

「いいんじゃねぇ。ちょっといつもよりハイテンションだけど、あいつかっこいいし、性格もいいから...」


 そっぽを向いてらっしゃる君藤先輩。表情で心情を悟られたくないのか、なんなのか。そして、志希先輩を勧めるような言葉には、堪らず苦言を呈す。



『あいつかっこいいし、性格もいいから...』ーーーー



「君藤先輩は何が言いたいんですか?私はハイテンションで話しやすくてかっこいいからって、ターゲットを簡単に変えてしまうような尻軽ではありません!」

「おい!ボリューム...」


 私たちのそばを行き交う人々に視線を向けられようとも、私は怯むことなくややボリューム大で話を続けた。


「私の目に映る世界には、男は君藤先輩しかいません!だからよそ見なんてできるはずがないんです!!先輩...もういい加減思い知りましょうよ!!」


 君藤先輩に叱られてしまうと思った。人前でそんな大胆なことを言われ、恥ずかしさで怒っているものだと。


 しかし、特に顔が赤らんでいる様子でもなければ、怒りに満ち溢れている表情でもなく。私を射抜くような目が言わんとしていることを、私は残念ながら理解できていなくて...。


 興奮気味に君藤先輩への痛烈な想いを捲し立てたせいで、肩で息をする始末。そして、君藤先輩は私のその動作が落ち着くのを待って。


「バカなヤツ。でも、お前がどれだけ俺のことを好きなのか思い知ったよ。もう、心にもないことを言ってお前を試すのはやめる」

「え...。私の先輩への気持ちが本気かどうか、試したんですか?」

「そうだけど」


 しれっと認めた。てことは、少しは前向きに受け止めてもいいってことなのだろうか。いや、都合よくそうだと受け止めることにする。


 イチャイチャムードに突入したいと切に願ったのも束の間。


「けど、ただならぬ関係っぽく見えたのは確かだよ。もしかして志希、お前のことをかわいいと思ってるだけじゃなくて、好きなのかもな」


 そんなそんなーーーと、答えたものの、そう思われても仕方がないと思った。だって、現在志希先輩を操っているのは、私に好意を寄せてくれているあゆみくんなのだから。


「隙が多い。心を許しすぎ。いろいろと危なっかしい。それらがすべて無自覚だから人を誘惑する要因になってる」

「なんですか、それ」

「お前の分析結果」

「はい。だから君藤先輩を誘惑しています」

「軽っ。わかってねぇな、お前。ほんと危ねぇから、それ」

「んー...君藤先輩と他の人への対応は違うはずですけど」

「言葉の強烈さはな...。あと、二人きりになった時に突然ハグしてきたこともあったけど、他は大して変化ないのかもな」

「拗ねてます?」

「拗ねてない」


( いいえ。拗ねてます。そうであってください!!)


 またも都合よく思うことにした。


「あのさ」

「はい。なんですか?」

「一応お前にも迷惑かけたから報告しとくけど、この前のあのあと...凛子とじっくり話をしたから」

「えっ!よかったじゃないですか、先輩!!」

「...うん。今耳がキーンてした...。俺とお前の話を立ち聞きして初めて俺の気持ちを知って泣いてた。ダメな母親だったけど、これから挽回したいって。...遅せぇっつんだよな。まったく」


 そんなことを言いつつも、君藤先輩の表情は若干綻んでいる気がした。


「嬉しそうですね」

「......気のせい」

「一番理解してほしい人に理解される喜びは計り知れないですよね。本当によかったです!」

「なんて言うか......ありがとな。あの時お前をうちに連れ込んでよかったと思ってる」

「その言い回し、なんだか卑猥です...。本心を話すきっかけを与えられたのなら、私は本望ですよ」

「...うん」


 そして、このタイミングにふと気になった時刻。慌ててスマホで時刻を確認する。


 ーーーPM12:25ーーーー


(あと5分!?これは結構ヤバめではないですか!!)


 待ち合わせ場所のお化け屋敷までは約2、3分で着く。急がなければミッションクリアにはならずで、君藤先輩との恋愛が成就することはなくなってしまう。


「君藤先輩!もうすぐ志希先輩との待ち合わせ時刻になります。お化け屋敷まで急ぎましょう!」

「俺、聞いてねぇけど」

「あ...それはーーー」

「なんで俺には言わねぇの。変じゃん。俺の友達なのに、なんでお前だけにそんな約束しちゃってんの、あいつ。...ムカつく」


(...あー、いや。そこはあゆみくんがこんな混乱を招くこともわからず......いや......もしかして、わかってたのかもしれない......。)



『30分の猶予をあげる。その間だけ先輩とイチャイチャできるもんならしてみたら?』ーーーー



 その言葉が示唆すること。それは、私だけにミッションの一環という”12時半待ち合わせ”を告げ、君藤先輩には何も告げず。という志希先輩(あゆみくん)のなんとも理解不能な行動が、君藤先輩の癇に障るということを予知した上で意図的に行動に移したのではないだろうか。よって、君藤先輩とイチャイチャするどころではない。その前にそのような関係性でもない。


 果たして私の見解はあっているのだろうか。いや、策士っぽいあゆみくんのことだから、きっとそうなのだろうと断言できる。



 ーーーーあゆみくん。絶対あなた、謀ったよね?ーーーー

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