ミッション4:デートで困惑大作戦!!

 無理に決まってる。


 うん。ていうか、今までのミッションを振り返ってみても、あゆみくんが発令するミッションは無理難題。


 ミッションの内容的に、私が君藤先輩に嫌われるためのミッションな気がしてならないのです......。私の恋路を応援するどころか、引っ掻き回してるとしか思えないのです......。


 昨晩のことーーーー。



『俺、由紗さんのこと好きになっちゃった』

『・・・・・・はぁ!?!』

『だから!由紗さんのこと、好きになっちゃったんだけど』

『......なんでそうなるの?』

『ミッションの指令を出して恋愛成就に一役買う分際なのは重々承知だけど、もう耐えられない。公私混同しちゃうわ、俺』

『は?』

『俺の役割はあんたの恋愛成就に一役買うことだけど、そこに俺の願望を組み込ませようってわけ。次のミッションは、俺とデートをすること!』

『は...!?』

『そうだなあ......遊園地がいい』

『じゃああゆみくん、姿を見せてくれるってわけ?』

『ううん。見せないよ。...ていうか、見せれない。前にも言ったけど、あんたを混乱させたくないんだ。あ、その理由は言わないけどね』

『何それ。じゃあどうやって私とデートするの?』

『他人に憑依する』

『は、はぁぁぁーっ!?!』


 薄々、というか、最初っからガッツリ気付いてはいたあゆみくんの正体。でもはっきりと本人の口から決定的な証拠となるワードを今まで聞いてはいなかった。しかし今、その本人からの”決定的ワード”をこの耳で聞いてしまった。


【憑依】ーーーーこれぞまさに、姿なきあゆみくんの正体を露呈するワードなのだ。【幽霊】という、この世に存在するはずがないとされる元人間。このことはひとまず置いておく。


(それにしても、私のどこを好きだというのだろう...。)


『で、今回は君藤先輩絡みじゃないミッションなわけね』

『それがさ、またガッツリ絡んでもらうよ。君藤先輩たちと!』

『君藤先輩...たち?』


 そう。君藤先輩と愉快な仲間たち(君藤軍団)も今回は初絡みミッションなのだという......。


『まさか憑依って、君藤先輩軍団の誰かに!?そのために呼ぶの?』

『それもある』

『もしや...君藤先輩に!?』

『それはない』

『...じゃあ、”君藤先輩の愉快な仲間たち”の誰かに憑依するの!?』

『そうだよ。つーか呼び名変じゃねぇ?”君藤先輩軍団”とか”君藤先輩の愉快な仲間たち”とか...。ま、そんなのどうでもいいんだけどさ、今回のミッションは俺とのデート実行であって、君藤先輩とのデートじゃないからね?あの人たちは付属品ってわけ』


(付属品?なんという不躾な物言い...!)


『けど、あの人たちがいてくれなきゃデートは成立しないんだよね』


(でしょうね。憑依する相手が必要だもんね...って、なぜ君藤先輩に憑依するんじゃなくて、君藤先輩以外の軍団の一人に憑依するのかな...。)


『てことで、君藤先輩たちありきのデートであって、ミッションなわけだから、由紗さんが君藤先輩たちを誘ってきてね〜』

『...マジで?』

『マ・ジ・で』

『無理!絶対無理!!』


(また何かしらハプニング起こらないかな。偶然遊園地で君藤先輩軍団と遭遇して、「あっ、君はこの前の子ブタのパンツちゃんだー!」なんて、この時ばかりは過去の汚点を有効活用できちゃう状況が生まれてくれませんか?)


 このミッションは疑問だらけだけれど、最大の疑問について、私はあゆみくんに質問してみた。


『憑依して私とデートするのは別に君藤先輩軍団の一人じゃなくて、他人でもよかったんじゃない?それに、君藤先輩がいなきゃいけない理由は何?いやっ、そりゃあね、君藤先輩には常に会いたいって思ってるからいてくれるのは大変嬉しいけど...』

『だって、一方的に知ってる人たちだけど、俺的にその方がまったくの他人よりも憑依しやすいんだ。それにさ、由紗さんが誘う時、はなから君藤先輩以外の軍団の一人を誘うなんてことできないでしょ?』

『まあ...確かに』

『それならもうまとめて君藤先輩軍団を誘う方が自然じゃん』


(そっか。そんな思惑があったんだね。意外とあゆみくん、いろんなことを考えて私に遂行させようとしてるんだ。)


 だけど、あゆみくんの隠された本当の思惑は、この時の私には知る由もなかったのだーーーー。


 君藤先輩とお近づきになれたのは、ズバリあゆみくん指令のミッションのおかげだと思う。接するうちに君藤先輩の本来のパーソナルな部分がわかってきたのも、ミッションを遂行できたからこその賜物なのだ。


 あの女嫌いで有名な君藤先輩は、不憫なことに、ただ遠目で拝むだけの”観賞専門イケメン”だと皆に思われている。だけどとても意外だったが、幼児返りな時もあるとてもかわいい少年なのだ。無意識のうちに、うまくアメとムチを使っているのかもしれない。


 多分私は、君藤先輩と接することに免疫ができてきている。だけど、それとこれとは別問題な気がしてならない。デートに誘えば来る人なのかどうかも疑わしい。だから気が小さくなるのだ。無理に決まってる。そう何度もあゆみくんに訴えるも、あゆみくんは「へぇー」と、冷ややかな声で私の片耳を刺激するだけ。


 全部で14のミッションの1つでもクリアならずの場合でも、私の恋愛成就の夢は消えてしまう。それは重々承知なのだが...。ていうか、恋愛成就ならずの根拠はどこにあるのだろう。モニター募集して数人試してみたのだろうか。多数の人が1つでもクリアならずになって、恋が成就しなかったのだろうか。逆にミッション全クリアした人は成就したと、くっきり明暗が別れた結果、私に話を持ちかけてきたのだろうか。


 きっと直接本人に聞いたところで、あっけらかんとした意地悪さではぐらかされるだけのような気がする。


 いつものことながら、やるしかないのだろう。無理だと駄々をこねてみせても、たった一つのミッションクリアならずで君藤先輩をものにすることはできないのだからーーーー。



 無理だと落胆していても、一か八かでやるしかないのだ。


 大好きな君藤先輩との恋愛を成就させるために......ーーーー。



 **



「......なんか用?」

「昨日はあんなにも甘えてきたというのに、今日は冷たいんですね」

「黙れ。静かにしろよ」

 下校途中、私は大きなイチョウの木に身を潜め、君藤先輩軍団を待ち伏せしていた。君藤先輩が現れた。そう。なぜか君藤先輩だけがーーー。他総勢4人の友は何処へ。


 私はゆっくりと歩みを進める君藤先輩の前に、デーンと立ちはだかり、怪訝そうな顔へと変化した先輩と対峙する今に至る。


「静かにしてるじゃないですか...。君藤先輩、今日は1人で帰宅ですか?」

「そう。最近志希以外は彼女できて、帰りは大抵女を家にお持ち帰りするからいねぇよ」

「......そんな情報いりませんよ先輩」


 志希(シキ)先輩という君藤先輩軍団の一人以外は彼女がいるという情報を得た。


「お持ち帰り...ですか...」

「意味わかんねぇ?家族不在の自分ちに好きな女を連れて帰ってすることなんて、一つしかないじゃん」


 無表情で淡々とそんなことを言う君藤先輩は、やっぱり意地悪だ。なぜならその後、私の耳元でこう囁いたのだ。


「俺、結構興味があるコトなんだけど、お前は?興味ない?」


 エッチのことだとすぐにわかったのだが、興味があると告げれば淫乱娘だと思われても困ると思った。


(ていうかそんなコト、聞かないでください!!!)


「顔真っ赤だし」

「そんなことより」

「そんなこと?俺にとっては結構大事なことだけど?」

「オブラートに包みましょーよ!シたくてもシたいと言えない乙女心を察してください!!あ...」


 後悔先に立たず。言ってしまった...と、頭を抱える私を尻目に、フッと不敵に笑う君藤先輩。


「そんなこと言うの、俺だけにしとけよ。淫乱だと思われるからな。アホ」


(やっぱり......!)


 自分の発言のせいだが、羞恥心で死ねるんじゃないかと思うほどのダメージを受けた。


(でも先輩!その言葉は反則です!!!俺だけにしとけって...。蕩けてしまいそうです。)


 なぜそんなにもらしくない笑顔なのか、理解に苦しんだ。


「呆れてます?」

「全然。むしろ、感心してるけど?」

「本音を暴露することに...ですか?」

「そう。するかしないかは別として、潔くてわかりやすい欲求じゃん。シたいって率直に言うのって」

「あ、はい...」


(なぜか褒められた!?)


「でさ...」

「はい。なんでしょう」

「俺と...」

「はい。なんでしょう」


 珍しく君藤先輩の目が泳いでます。


「...シたいで、あってる?」


 赤面ハニカミ王子、ここに現る!!


「ええ!?......いや、もちろんです!!私はもう四六時中先輩の事を考えすぎちゃって、頭がパンパンですから!!」


 私から視線を外し、フッと笑う君藤先輩の顔にいつもの意地悪さはない。気のせいかもしれないが、その柔らかい毒素の抜けた表情に、私は嬉しい驚愕を覚えた。


 ーーー君藤先輩と私、非常にいい関係じゃありませんか?ーーー


(そうか!ここで調子に乗ればいいのか!!)


 と都合のいい考えに至り、ダメ元で君藤先輩を誘った。


「君藤先輩!明日の土曜日、遊園地に行きませんか?先輩のお友達も一緒に!」

「いーよ。予定ないヤツ、俺と志希しかいねぇけど」

「えっ、即決!?いいんですか?」

「いいよ。志希も土日は暇って言ってたし」

「ありがとうございます!!」


 あゆみくんからミッションを告げられた時、絶対に絶対に無理だと思っていた。嬉しすぎて私は今、誰の頼み事でも快く聞いてしまえちゃうほどのご機嫌ぶりだ。


(......あ。てことは、必然的に志希先輩があゆみくんの憑依対象になるのね...。)


 正直、君藤先輩の愉快な仲間たちのことは、ほとんど記憶に残っていない。だが、ミッション1日目にブタのパンツヒップをさらけ出し、恥をかいた時にやいのやいのイケメンたちに突っ込まれていたという、漠然とした記憶はかすかに残ってはいる。


「あいつ...」

「え?」

「志希。お前のこと、かわいいって言ってた」

「マジですか」

「マジだよ」


(あれ?まさかもうあゆみくんが志希先輩に憑依しちゃってるとか!?っていうか、あゆみくんは私がかわいいからっていう理由で好意を寄せてくれてるわけじゃないよね...。)



「俺もかわいいとは思ってるよ」



 私の心の声に反応したあゆみくんのご登場。



「でも、”かわいい”は好きになる要因にはならないなあ。それと、まだ一度もその人に憑依してないけど?」



(あ、そうですか。じゃあ...。)


「もしかして、またあゆみくんがいる世界にぶっ飛んでる?」

「へっ!?あっ...すみません!君藤先輩...」


 若干お怒り気味に私を見据える君藤先輩に、ビビる私。


「いいけど、本当奇妙だよな」

「そう...ですよね」


(あゆみくんのことでこれ以上奇妙がられちゃうのは困るから、もう少し君藤先輩に気を配らなきゃね。)


「で、女子はお前だけ?」

「他にもいた方がいいですか?」

「いや。他に女子がいてもいなくても、俺には関係ないけど、2対2の方がお前が行動しやすいんじゃねぇの?」


 確かにそれはあたっている。私の友達がいる方が女子トークできるし、一緒にトイレに行けるなどの利点はある。けれど、来ては困る難点もある。あゆみくんは私とデートしたいと言っている。そして今回はそれがミッションであるからには必ずそれを遂行するしかない。あゆみくんが志希さんに憑依して私とデートするとなると、仮に私の親友・莉茉を誘えば、君藤先輩と莉麻がペア化してしまう。それは私が落ちつかない。どんなに女子に無愛想だとしても、遊園地では心が開放的になり、莉茉に心を許してしまう恐れもある。


(それじゃやっぱり私の心は落ち着かなさすぎる!!!だから絶対に呼ばない!!!)


「ヤキモチがすぎて困るのでやめときます...」

「ん?何それ」

「いえ。先輩こそ他に女子がいたら困るんじゃないですか?」

「は?」

「慣れないから接し方に困るでしょ?」

「あー。まあそうだけど」

「なーんて、本当は私が困ります。だって君藤先輩の知らない女子がいたら、私が本当の先輩を堪能できないから嫌なんです」

「......そう。ていうかお前って、すぐに心の中オープンにできてすごいよな」

「それって褒めてます?」

「うん。褒めてるし、羨ましい。俺には無理だから...」

「先輩は無理しちゃダメですよ。オープンしちゃうと毒吐きまくって傷つく人増えちゃいますから」

「フンッ。よく分かってんね、お前」

「被害者は私だけにしてくださいね」

「...バーカ」


 ここ最近、君藤先輩の表情は柔らかい。今の意地悪な笑顔でさえ、柔らかい印象を受ける。その要因の一つはきっとこれ。色素が薄い猫っ毛が、暮れる直前の夕日に照らされ、そよ風でゆらゆらと揺れている。柔らかさに拍車をかけるそんな美しく芸術化した君藤先輩の姿を目の当たりにし、私は先輩に思い切りギュッと抱きつきたい衝動に駆られている。


 その後、君藤先輩にちょっと来てと言われ、潜んだ木陰で連絡先を交換した。


「詳細はこれで教えて。じゃ、土曜日な」


 こうして、”みんなの憧れ君藤先輩”と、すんなり遊園地に行く約束を取りつけた。


 For missionーーーー。

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