第1章 面影との邂逅 4

電子キーを操作するとロックは外れ、ドアを開けて二人はトーマの居室へ足を踏み入れる。

マンションの一室はクローゼットにリクライニングチェアやベットにテーブル等が置かれた閑散とした内装であり、キッチンに置いてある冷蔵庫とトースター、幾つかの食器類が少ない生活感を演出している。

「スッキリした部屋ね、これなら女の子を連れ込んでも後始末も楽チンね」

リリスは家主の背に担がれながらでも軽口を崩す予定はないらしい、戦闘によりそれなりの疲労は蓄積しているにも関わらず大したふざけぶりだろう。

「余計な事を言うな、締めるぞ」

「あはは、怒んないの、こんな美女を連れ込んでるのは事実なんだし」

「自分で言うな、馬鹿が」

トーマはベットへ直行しその上へやかましい女を無造作に放り落とした。

スプリングが小気味が良くしなり、柔らかい肢体を受け止めかすかに弾ませる。

「きゃん! もう丁寧に扱ってよ!」

「運ばせておいて贅沢を言うな」

冷たくあしらったトーマは上着を脱ぐとリクライニングチェアに投げ、そのまま冷蔵庫からジュースのボトルを二本取り出し一本をエリスへと放った。

パシッと乱暴なプレゼントを捕まえたエリス。

「飲んでおけ、多少は疲れが取れるだろう」

「気遣ってくれるんだ、意外だね」

「勘違いするな、術式を無理やり剥がした後だ体力をかなり消耗した筈だろ、匿う以上死なれても困る、それだけだ」

「それでも一応お礼は言っとくよ、ありがと」

エリスは素直に礼を口にして、ボトルを開封し流し込む。

水分と糖質の補給を済ませると消耗の兆しは目にみえて現れた、頭から肩、腕と筋肉が弛緩していきやがて全身が脱力しきる。

(さて、この女をどうするか……やはりココウィルに連絡するべきだろうな)

壁に背を預け自分も炭酸を煽る、飲み干す事で脳内を一度整理せねば落ち着かない。

匿うとしてもそれを仲間に隠す必要は無いだろう。むしろエリスの『1週間あらゆる障害から守る』と言う条件を満たすならば協力者は多いに越したことは無い。

エリスを軍部ではなく自室へと運んだのは一種の返答ととしての意味もある。こちらはお前の要求に応えてやるとアピールしている訳だ。

(ならばさっさと術式を掛けておくか、万が一逃げられても困るからな)

「おい」

「ん、ふぁに?」

ボトルを咥えていたエリスが応える、一本まるまる飲み干したらしく手で口を拭う。

「今からお前の包術を封じさせて貰う、異存は無いな」

「まっ仕方ないか、良いよ別に……その代わり絶対に守ってね」

「お前こそ条件を忘れるなよ、必ず情報を流して貰う」

「分かってるって早くやりなよ、焦らし過ぎても女の子は冷めるだけだよ」

無遠慮にベットで仰向けに広がるエリス。、抵抗する気はさらさら抱えていないのだろう。

トーマはエリスに近付き方陣を展開。

「世界に禁獄を与える、乱れる世界」

鎖状に視覚化した灰銀色の包力がエリスに纏わりつく。リリスは呻くそぶりもせずやがて鎖は消滅した。

妨害術式『乱れる世界』。対象の包力コントロールを乱し包術の発動を一定時間阻害する効果がある。

「これで明日の夜までお前は包術を使えない」

「分かってるって、抵抗する気なんて更々ないし。それにしても君さ瓦礫の楔だっけ? あの術式と言い今のと言い鎖みたいな術式多くない、もしかして縛りフェチ?」

リリスからの嘲りを含んだニヤついた笑みは意識の中で遮り、クローゼットから犯人拘束用のベルトを取り出し手早く作業を続行する。

「少しその淫らな口を閉じてろ。先程の術式に身体の拘束効果はない、暫くこれで拘束させてもらう」

「キャッやっぱし縛りフェチなんだ、良い趣味してる~」

「だ、ま、れ!」

体に比べやたらと喧しく動く口にも紐を噛ませてやろうかと考えたが、流石にそこまでやれば自分でも縛りフェチだと認めざるを得なくなると思い留まるトーマだった。

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