karma5 青い光撃を閉ざす行進者

 国民の家畜を緊急移送国へ運ぶ手伝いを終え、藤林とブリンジは国内に侵入したデストラを追っていた。


「いや、思ったより時間がかかっちゃったね」


「まだ息のあったヴィーゴが襲ってくるとは思わなかったよ。ビックリし過ぎて寿命縮んだんじゃないかな」


 藤林の機体スーツは腹の辺り、何かが擦れた傷と黒く変色した痕跡があった。

 風を切るように走る2人だったが、そこに割って入るように鈍い音が飛んできた。


「おや、近いね」


 藤林がそう呟いた時だった。

 森を抜け、開けた場所に出られる。普通の視界ではそう認識するのがやっとだろう。


 2人の被るヘルメットは、ウォーリアが高速で移動するために視覚補助が備わっている。更に、ブリーチャーたちを早急に見つけるための機能により、陰の奥でも対象を把握することが可能だった。

 そうして捉えたのは2つ。1つは未確認の生物。そして、1人は機体スーツを着た誰か。機体スーツを切る誰かは一閃にも満たぬ速度をもって、生物に攻撃を仕掛けていた。それはほんの数秒だった。

 大きな体をした生物が拳を一振り。機体スーツの体を捉え、藤林とブリンジのいる方向へ飛ばされたのだった。


 飛ばされてきた機体スーツは、走っている藤林とブリンジの間を抜けて地面に叩きつけられた。

 藤林とブリンジは思わず立ち止まり、倒れた機体スーツを数秒凝視した。白と紫を体に配した機体スーツは滑らかな質感と光沢を失い、ところどころにダメージの跡がうかがえた。


 吹っ飛んできた機体スーツを着る男が咳き込んだのを機に、藤林とブリンジは我に返り、「大丈夫ですか!」とブリンジが声を上げて駆け寄る。

 ARヘルメットのシールドモニター越しに、細められた目と交わる。加地隊長は息を荒くして、ぼやけた視界に見下ろす藤林とブリンジを捉える。


「早いな……救援して、まだ5分も、経ってねえの、によ……」


 加地隊長の声は掠れていて、聞き取るのもやっとだった。


「救援要請を出してたのか?」


「僕たちには来てませんでしたね」


「そうか。すれ違いだったんだな。とにかく、助かった……っ」


 加地隊長は体を起こす。


「お、おい、大丈夫かい?」


 藤林はよろけそうになる加地の体を支える。


「まだやれる。心配ない……」


 言葉尻にかけて小さくなる声を聞いては、余計に心配になってしまう。加地隊長は鋭い目つきで森から抜ける先を見据える。

 ブリンジ隊員も加地隊長が飛ばされてきた方向へ視線を注いでいた。ヘルメットの透過性視覚機能が静かにデストラを捉える。デストラは吹き飛ばした加地には目もくれず、どこかへ歩いていく。


「どういうことなんでしょうか?」


 ブリンジはいぶかしげに問う。


「デストラは……俺たちに興味がないらしい」


「あいつらにとって、ウォーリアは希少レアな餌のはずなんだけどねぇ」


 藤林は神妙な表情でデストラを見据え、疑念を持て余す。


「ローレン隊員とビルタ隊員は?」


 加地隊長は少ない唾を飲み、息を整える。


「ビルタ隊員が奴の攻撃を受けて、機体スーツが半壊した」


 ブリンジの表情に焦燥の色が纏う。


「死んでやしない。気絶しただけだ。ビルタ隊員を運ぶため、ローレン隊員と村橋隊員は離脱してる」


「やる気だねぇ」


 藤林隊長はまだ戦意を喪失していない加地隊長に微笑む。


「少し吹っ飛ばされたくらいで根を上げてるようじゃ、隊長は張れねえんだよ」


「そうかい。んじゃ、いっちょ止めてみるか。あの行進者」


 藤林が意気揚々と棒状の武器を取り出し、歩き始めようとした時、加地隊長がブリンジと藤林の背中に声をかけた。


「その前に、1つ忠告しておいてやる」


 加地隊長の切れ長の目が勇ましく2人を見据える。


「あいつがいる時、電撃は使うな」

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