karma4 事は順調に灰色を強くする
稲妻に匹敵する速度で駆け抜けた道は、砂ぼこりを巻き上げた白煙と混ざり合う。
超高速で撃ち抜かれた小さな弾丸により、奥の林の木々はなぎ倒されていた。人のいなくなった寂れた道の真ん中。そこに、千切れた肉体が転がっていた。
左胸がなくなり、大きな体はピクリとも動かない。
特攻班は銃口を向けながら転がった体に近づき、数秒静止する。
「Sa教区、デストラの殲滅を完遂」
班長は淡々と告げた。
「ん。ヘブンエミッサリ司令部に報告しておく。ご苦労」
特攻班は班長の指示で銃を下ろし、緊張をほどいた。
アレクサンドリアの自然豊かな道は、穏やかな空気を取り戻した。
その一部始終を林の中で見守っていた東郷隊員は、険しい表情で粛々と任務を進める陸軍隊員を傍目に、通信を試みようとした。
未だ音声通信は回復しない。一度基地に戻ってARヘルメットを代えるのもいいかもしれない。そう考えつつ、動かなくなったデストラを見つめる。
デカント隊員は林から出ると、深い息を零して道端に腰を下ろす。
「さすがのデストラも、陸軍の奇襲作戦の前には腰砕けってことか」
東郷も不審そうな表情で口を開く。
「だが、厄介なヤツであることは変わらねえよ」
「俺たちより速く動ける、か。どんな手品だか知らないが、ARヘルメットも捕捉できないんじゃ、接近戦はあきらかに不利だ」
デカントは冷静に分析したことを重々しく語る。
くぼんだ
「それよか、お前のヘルメット。さっきの爆発の衝撃でバカになったんだろ。そのままじゃ気持ち悪いんじゃないか」
「ああ……面倒くせぇったらねえよ」
東郷はステンレス製のタンブラーをしまいながらぼやく。
「ま、そういう俺も連絡できなくなったがな。津波とか、爆発とか、そういうのがなければ、お使いを頼まれた奴がヘルメットの代えを持ってきてくれるんだが、政府も混乱してるんだろう。情報が錯綜して、パニくってるとかな」
「やけに落ち着いてんだな」
デカントは鼻を鳴らして笑う。
「色々あり過ぎて、感覚が麻痺してんだろうな。混乱した状況なんざ、そよ風が吹いてるようなもんだ」
東郷は空を仰ぐ。不気味な
「奴らは手強い。このまま戦うのは、おススメしないぜ」
「知ったような口ぶりだな」
東郷は探るような口調を投げるが、デカントはすかした笑みを見せる。
「知ってるのとは違うな。感じたんだ」
デカントは特攻班がせっせと事を運ぼうとしている道へ視線を移して紡いでいく。
「ブリーチャーやベルリースコーピオン、カリヴォラ、エンプティサイ。だいたいの地球外生命体は、敵地に乗り込んで殺しまわるような連中だ。だがここ数年、その傾向が変わった」
デカントは腰を上げ、肩を回し始める。
「ヴィーゴ、メガモーターソルジャー、デストラ。俺から見ると、この3種はさっき挙げたヤツらとは違う気がする。日本はそういう話してないのか?」
「話してたような気もするが……忘れた」
東郷はヘルメットの頭を掻きながら気の抜けた声で返す。
ストレッチを終えたデカントは、呆れたように眉尻を下げる。
東郷は低い声を落として続けた。
「ただ、あの生物が普通じゃねぇのはわかる。そうだな。うまく言えねえが、あいつには、理性がある気がする……」
「理性か……」
2人とも言葉を止め、じっと同じ方向に視線を投げている。
動かなくなったデストラの姿を興味本位に覗き込む陸軍の隊員たちは、今や談笑するほど気を緩めている。すでに息絶えた生物を前に、気負う必要はないだろう。だが、仰向けに倒れているデストラを目に留める東郷とデカントの顔は、ジャマイカにまだ漂っている陰湿な空気のようにすぐれたものではなかった。
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