karma3 作戦コード003
その頃、セント・アン教区のアレクサンドリアでは、第二陣レオネルズと戦闘機による攻撃が行われていた。地を覆い尽くす美しい緑を自らの手で壊すことにためらいはあったが、
激しいオレンジの発光が空で灯ると、火球の
戦闘機の窓を透過して輝く爆炎。ひとたび破裂すれば、焼けつくような夕陽の輝きを放ち、そこに太陽が突然現れたみたいな光の形を表す。サンセット・ブルーム。その名を知らしめるように球状の爆炎は皮肉にも神々しい。獣が唸るような低い声が響き渡る。
もごもごと
自国で開発したミサイルだったが、強力な兵器だったために使用にはかなりの制限がかけられていた。
百聞は一見に如かず。どこを見渡しても自然豊かに富む緑に、空から火の粉が降り注ぐ。たちまち辺りで煙が上がり、火柱が立った。
灼熱に焼かれていく大地で、ボウボウと風が唸る。辺りはぼんやりと赤く染まっている。灼熱地獄とも比喩できそうな火の海から上がってきた怪物は、この熱にもなんら動じず、大地を踏みしめるばかりだった。
戦闘機のパイロットは眉間に皺を寄せ、噛みしめる。
「これもダメか……」
空を駆けるレオネルズも攻撃を試みるが、すべての攻撃をあしらわれてしまう。
あまりに硬い体に空軍は手も足も出ない。それらの状況を把握したジャマイカ陸軍は、威信をかけて動き出した。
建物の陰から陸軍の兵士が見守る中、威風堂々と道を進んでいく。潜む気はない。大きな車はガタガタと音を立てながら、黒光りしたその細長い砲身を押し出してゆっくり前進している。
デストラも音を感知し、直角三角形の先を進行方向に留めた。堅牢なその
それはジャマイカ軍とて同じだ。がっちり装甲に覆われた車は停止する。
ヘッドギア型の照準支援ヘルメットをつけた女性は、大きく深呼吸をして息を整えた。
隊員の女性は緊張のあまり目を大きく見開いていた。その目はヘッドギア型のヘルメットに取りつけられたディスプレイに覆われている。戦車に搭載されたカメラが、紫の羽を広げながらふてぶてしく地を歩く怪物を映し出していた。
褐色の女性は唇を舐めてから顎の下にあるバンドのスイッチに触れる。
「こちら陸軍司令室」
「Rv4-O、
凛々しく律した声が報告する。
「こちらも確認。合図まで待機」
女性の手が水色の液晶画面の左隅に動き、端にあったアイコンに触れる。左端に『shoot』の文字が躍るバーが表示された。それを確認した後、「了解」と震えた声で返した。
張り詰める緊張の中、ジャマイカ陸軍司令室では、偵察ドローンの映像を見つめる者たちが息を呑んで作戦の合図を待っていた。
簡素な室内に通信機器が積み上げられており、即席で設置されたデスクや椅子があるだけだった。
立て続けに起こった災害で、ラウンド・ヒル基地を追われたジャマイカ陸軍は、司令室をゴールデン・グローブ基地に緊急移譲せざるを得なかった。津波から命からがら逃れた隊員の中には、津波によって刻まれた泥水の跡が黒色系のまだら模様の軍服に残っている。
司令官はパソコンの画面を睨みつけながら横長のデスクに両手をつき、小さく口を開く。
「作戦コード003、開始」
司令官の合図と共に森や建物に隠れていた隊員が顔を出し、大きな銃口をデストラに向けた。
威勢のいい「発射」の声が轟くと、大きな銃口が鈍い音を出して弾丸を発射した。弾丸は煙を放ちながら山なりの軌道を描き、デストラの周りに落ちる。
シュウウウと空気の抜けるような音を発しながら煙を出す銀色の円管。何かが発射されたことはデストラも察知したが、知らされていた情報と違う結果に足を止めて注意を払う。
「ミクロンAL発煙弾、着弾」
特攻班の報告を聞いた狙撃手たちは、各方向からすでに狙いを定めていた。
当然、白煙の中ではデストラを捉えることはできない。幾度の訓練によりつちかわれた作戦において、その点が考慮されないわけはない。
狙撃手たちは赤のフィルターが貼られたスコープを覗き込む。
煙幕の中にぼんやりと浮かぶ碧色の輪郭。人型の対象物に照準を合わせ、リーダーの合図と共に一斉に引き金が引かれた。
咆哮もなく放たれた鋭い弾頭を持った弾丸は、デストラの体、頭に着弾する。タタタタタと着弾の音が小さく鳴る。
「Rv4、発射!」
「Rv4、発射!」
司令官の指示を繰り返し、操縦者の女性は『shoot』のボタンを長押しした。
ズジジジジと戦車が唸った次の瞬間、強烈な爆音が響いた。細長い砲身の口から青白く発光した線が超高速で駆け抜けた。
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