karma6 未だ影を落とす
ジャマイカは今や暗雲と共に影を落としている。時間を追うごとに暗くなっていく。
美しく緑の映えた景色はかすんでしまった。
もうすぐ夜が訪れるというわけではない。
遠い地平線の向こうでは、地震と噴火で荒れた海が光を受けて落ち着いていた。
厚い雲が空から降り注ぐ光の量を抑え、かれこれ30分前に起こった大規模噴火により、空に立ち上った噴煙がジャマイカに到達していた。森や街は少しずつ灰色に染まり、ひとたび風が吹けば、灰が宙を舞った。
顔をしかめたくなるような嫌な空気を裂いて、2体の
ここまで酷い状況の任務は初めてだった。西松と勝谷は、この空気を肌に感じながら戦っていたのだろうか。
視界いっぱいに広がる生々しい惨状が流れていく。
「ヒミノ! あれ!」
ラピの声に促され、前を見据えると、ジャマイカ陸軍の兵士たちが通りに集まっていた。銃器を抱え、何かの作業をしているようだ。
2人は速度を落とし、ブーストランに制限をかけた。
「特攻班!」
ラピの声を聞いた兵士たちが一斉に1つの方向へ顔を向けた。
大きな体をした
「ラピ隊員。お疲れ様です」
黒と緑のまだら柄の服とヘルメットに身を纏う男はラピと氷見野に敬礼する。
ラピは兵士たちが背にして囲んでいるものを目にする。左胸に大きな穴を空けた妙な生物が、そこに倒れていた。
氷見野は初めて見る生物の姿に息を呑んだ。
「デストラですか?」
特攻班の班長である男はラピの問いに首肯する。
「ええ。レールガンにより殲滅しました。司令部に伺ったところ、解剖に回すとのことで、現在搬送の準備をしています。ああ、そういえば、先ほどまでデカント隊員もおりました」
「デカントが?」
「はい。ほんの数分前です」
「彼らはどこへ?」
「基地へ向かうと言って、去って行かれましたが」
「基地? セント・アンズ・ベイ基地ですか?」
「はい、おそらく」
ラピは少し考えた後、「そうか。ありがとう」と答えた。班長の男は敬礼し、離れていった。
「ここはもういい感じみたいね」
「うん」
「どうしようか?」
「そうだね……他の状況が把握しづらい現状はやっぱりもどかしいね。たぶん、デカントもトウゴウも、ヘルメットが故障していたんじゃないかって思うんだ」
「だから基地に?」
ラピは厳しい表情になり、空を仰ぐ。空では未だに無人戦闘機が躍り、激しい銃撃音を響かせている。
「今のうちに不具合を直しておいた方がいいと思う。ボクたちも、基地に戻って替えのヘルメットに交換しよう」
「そうね。わかった。急いで基地に向かいましょう」
「うん。けど、先に体力を回復させておこう。アルカリイオン水はある?」
氷見野とラピはセント・アンズ・ベイ基地に向かおうと歩き出した。
2人が歩いている先に、大きな車がゆっくり走っていた。
すれ違った箱型の黒い車が停車し、バックドアが開く。護送車の後ろからぞろぞろと兵士が降りてくる。護送車の後ろは充分なスペースがあり、10人もの人が乗っていても余裕があった。
1人の兵士は担架を手にしており、警護していた兵士たちの間を通ってしゃがむ。折りたたまれた担架をボタン1つで開かせ、怪物の横に置いた。
「よし。運ぶぞ」
数人の兵士が怪物の手足と体に手をかけた。「せーの」との掛け声で怪物の体が浮き上がり、担架に
大の大人8人がかりでやっと怪物の体を担架に
迅速に運び出そうとする兵士たちは護送車に向かう。
1体の怪物を仕留め、やることもなくなった兵士たちはそれぞれ与えられた次の任務に移ろうと、ばらけ出した。
続々と兵士たちが後ろへ乗っていく。その最中、怪物の指がゆっくり曲がった。兵士たちは手際よく担架を奥へ移すと、後ろのドアを閉めた。
運転手に怪物が
護送車はUターンし、来た道を引き返していく。
前では氷見野とラピが歩いている。水分を取り終え、シールドモニターを元に戻したところだった。
ブーストランを解除し、走り出してすぐのこと。異変が起こった。
護送車の後ろで横たわっていた怪物の体に空いた穴が、徐々に塞がっていく。
後部座席に座っていた兵士の1人が怪物の異変に気づく。
「お、おい」
1人の兵士が狼狽え始めたことにより、座っていた他の兵士たちも立ち上がった。
「まさか! こいつも」
「う、うう撃て!!」
兵士たちは拘束されて横たわる怪物に向かって一斉に銃撃を浴びせた。
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