karma14 不審な異形者

 一方、私有地となるビーチから侵入し、街はずれの小さな動物園で食漁りをしたブリーチャーたちはSO部隊に見つかり、深い森へ逃げ込んでいた。


 20体ほどでまとまって動いていたブリーチャーたちは、森へ入ってからバラバラに動き始めた。SO部隊とヘブンエミッサリ、攻電即撃部隊ever4は散らばったブリーチャーたちを各自追跡していた。

 森での戦闘。おのずと煙が蔓延し、霧のように視界が遮られていく。だが各部隊のヘルメットには特殊な視覚補助が施されている。ブリーチャーたちに休まる暇はなく、疲れ切った者たちは次々に恐ろしい鬼の餌食となった。


 残る数体が土へかえるのも時間の問題だった。

 東郷は稲光を放ちながらあきらかに太い腕を振るい、殴り飛ばした。

 エンバランスは岩肌に背中をぶつけ、地面に落下する。激痛のせいか、エンバランスはぎこちなくのたうち回っている。

 うまく起き上がれないエンバランスを見下げ、頭を踏みつぶした。

 気だるい息を零し、辺りを見渡す。森のあちこちで木々が倒れ、火の手らしき赤い光がかすかにうかがえる。


「Sm教区北西部森林にてブリーチャー種を1体殲滅完了」


「こちら攻電即撃部隊ever4いずな。Sm教区北西森林にてブリーチャー種を1体殲滅」


「こちらヘブンエミッサリ。イエロー小隊エイダ。ソルピードを駆除した」


「了解。残りはブリーチャーとベルリースコーピオン。SO部隊が対処中」


「了解」


 司令部への報告を終え、通信は終了する。


「思ったより手こずらずに済みそうだな」


 東郷は山なりになっている道を下りながら呟く。


「いつもこんなもんだ。大変な時はジャマイカのあちこちの海岸からブリーチャーたちが押し寄せる」


 ヘブンエミッサリのデカント隊員は渋い声で話しながら、近くにいる東郷のいるところへ向かう。

 東郷たちがいる森の数十メートル離れた場所。そこでいずなとエイダは一戦後の水分補給をしていた。

 いずなは煙たい匂いに咳き込み、専用タンブラーを機体スーツ内にしまう。任務を再開しようと案内役をしてくれるエイダを探すため、視線を彷徨さまよわせる。

 エイダは折られた木のそばで腕組みをして立ち尽くしていた。


「エイダ。どうしたの?」


 エイダは言葉に悩みながら口を開いた。


「何か、違う気がするの」


「どういうこと?」


「ブリーチャーたちが陸へ侵入する目的はなんだと思う?」


「ウォーリアを含む生物を食糧とするため、または自分たちの新天地を確保するためじゃない?」


「なら、なんで逃げるの?」


 エイダに問いかけられ、一片の疑念がいずなの頭に湧き上がった。


「自分たちの住処を確保するためだろうが、食料を確保するためだろうが、私たちと戦う必要があるはず。なら、分散せずにまとまっていた方がまだ勝ち目はあった」


「何か、別の狙いがあると?」


 いずなは疑念を浮かべる。


「あんたたちの国の記録を見た。あきらかに力任せの戦闘じゃない。戦術をくわだてる力を備えたヤツがいる」


「それは、ジャマイカ軍の見解?」


「誰も口にしないけど、そう思ってる人は多いでしょう? もしそいつがくわだてたことだとするなら……」


 エイダはけむる白い森の奥を見つめる。灯る赤い光は煙の中で怪しくかすんでいた。


「まだ、始まったばかりかもしれない」



 ジャマイカの北西の海岸付近。攻電即撃部隊ever4の四海隊員とヘブンエミッサリのルイス隊員は、ジャマイカの周りを泳ぐブリーチャーたちを追尾していた。

 司令部からの情報をもとにブリーチャーの動きを把握しながら、道路をひた走る。

 ブリーチャーたちがジャマイカの周りを動き回るため、司令部もどの地域へ避難を促すべきか考えあぐねていた。また、2人もブリーチャーたちの行動に疑問を募らせていた。


「ねぇ、このまま追跡するだけでいいんだよね?」


 四海は不安をたたえて尋ねる。


「うん。そういう指示よ」


「そ、そうか……」


「……何か言いたそうね」


「……」


「日本がブリーチャー殲滅任務にどういう対応しているのか知らないけど、ジャマイカでは海中にいるブリーチャーを攻撃してはいけない法律があるの」


 ルイス隊員と四海隊員は空中に電気を放ちながら、走行する車の間をスイスイ走っていく。


「ジャマイカにとって海は大切なもの。私たちにどんな都合があろうが、美しい海を汚してはいけない。私たちが守るべきものは、人の命だけじゃない」


 ルイスはまだ若い隊員であったが、隊員として積み重ねてきた風格を感じた。四海はルイスの威風あふれる言葉に口をつぐんだ。

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