karma13 戦闘開始
分散した大群のブリーチャーたちはビーチだけでなく、岸壁からも侵入を試みる。
人類側も抜かりない。ブリーチャーたちが侵入するであろう場所は絞り込まれていた。
催眠ガス、改良した神経弾を装てんする
ジャマイカ司令部では、一切気を抜けずにいるシャル・ベネフィット司令官が、空中に浮かぶ複数のモニターを見つめる。
「どうやら順調のようですね。シャル司令官」
シャル司令官は
「ゲール技術総官。珍しいですね。司令部にあなたが来るとは」
「いいじゃないの。俺っちだって、一応技術官なわけよ。修理したモニターの調子くらい、様子見に来たって不思議じゃないでしょうよ」
モニター前には
「チェックもいつも部下任せのくせに」
「やけに突っかかるじゃないの。もしかして、俺っちがここにいると何か都合が悪いのかな?」
シャル司令官は小さく息をつき、難しい表情でモニターへ瞳を移す。
「あなたの疫病神っぷりは、折り紙つきですから」
「ほー。あんたが迷信に耳を貸すとはねぇ。少し意外だったよ」
「迷信ですか。あなたが心配した時だけ、毎回荒れてしまうような気がするのは、私だけでしょうか」
ゲールは背中を反らし、後頭部に両手を当てて不敵に笑う。
「それは正確性に欠けるなぁ。1つ、忘れてると思うよ」
ゲールは指を1つ立てて突きつける。
「俺っちが心配した時は確かに荒れやすい。けど、必ず俺たちは勝ってるんだ」
「物は言いようだな」
シャル司令官はモニターを見たまま返答する。
「迷信なんてそんなもんさ」
「なら、私が納得できる形で、勝利をもたらしてほしいものですね」
「それは俺っちの仕事じゃなくて、あんたらの仕事なんだよなぁ。だがまあ、俺っちの幸運をわけてやらんでもないよ」
シャル司令官の額に汗が滲む。
不安がまた1つ増えてしまった。いつものことだが、まことしやかにジャマイカ軍の中でささやかれる迷信が、より不安を濃くしていたのは事実。
たちまち、司令部の室内に緊張感が漂う。それを紛らわすように、シャル司令官は胸ポケットから出したピーナッツの小袋を開け、1粒口に含んで噛み砕いた。
守りに死角なし。防衛線各地、奮闘を見せていた。
戦闘機から降り注ぐ火の雨が曇天の空をほのかに染めていく。
ヘブンエミッサリの隊員はミミクリーズの細い触手をかわし、加速する。黄色を基調とする赤いまだら模様の入った
ヘブンエミッサリの隊員は、前かがみになった体勢で縦に平たい銃を横に向ける。異常な速度にもかかわらず、迷いなく撃たれた。
ブンッとバイオリンの弦が弾かれたような音が鳴ると、SO部隊と交戦していたブリーチャーの体が真っ二つになった。
同じような家が建つタウンハウスの屋根を駆けるカリヴォラは、SO部隊の銃撃から逃げていく。軒に飛び乗り、アクロバットな動きで木に飛び移る。
大きな葉の隙間から見える白い毛に覆われた体に向かって、バファルトCQ.22が強い緑の光を発して弾が飛んでいく。その間に、エンプティサイが疾風の
防戦に陥っていたカリヴォラは乱れを逃さず、反撃に出る。木から飛び降りたカリヴォラは、周りにいたSO部隊の隊員を薙ぎ払うように黄土色の拳を振るった。
隊員が装備した防具はいともたやすく壊れ、地面に伏した。
いくつものブリーチャーの太い触手が振るわれる中、その隙間を縫って紫と白を配色された
光とグロテスクな触手の鉄槌が落ちていく。
藤林は棒状の武器を器用に回し、ミミクリーズの触手を絡め取る。
ミミクリーズの体が浮き上がり、回転を始める。体操選手のリボンの
藤林は更に棒の武器に電気を流し、ミミクリーズを感電漬けにして身動きを封じる。
「SO部隊、ブリンジ。赤い車が止まってる家から離れろ」
藤林は愉快な口調で警告を発する。
仕上げはミミクリーズを遠くに放る。ようやく解放されたミミクリーズは宙を舞い、しなびた触手がたなびく。ミミクリーズを放った先では、旧態のブリーチャーと平たい形状をしたデュアラスがはしゃいでいる。
藤林は銀色の棒の先端をミミクリーズが飛ばされた方角へ向けると、棒の後方の
青い炎の塊は隕石の
衝突により炎は弾け、一気に肥大化。球体状に広がり、辺りを青く染めてゴウゴウと燃え上がらせた。
蕾が開き、花となりて火を
藤林の放った青い火に巻き込まれた住宅や木々は、パチパチと音を立てて炎を上げている。整備された庭は見る影もないほどに黒く染まろうとしている。
「ふう。ある程度やれたかな?」
藤林は、現出した球状の青い炎が呑み込んだ辺りに倒れたブリーチャーたちを注視する。地面に横たわったブリーチャーたちに動く気配はない。
「ブリンジ。この辺りは任せていいかな?」
ヘブンエミッサリのブリンジ・ラスチェビット隊員は、触手に包囲された状況でサーベルを振るう。
触手の包囲網は解かれ、四足歩行の首の長いエンバランスの背中にある羽を広げ、小刻みに揺らす。羽から出てきた小さな虫の群れがブリンジへ襲いかかろうとする。
ブリンジ隊員は小さな虫たちに猛々しい電撃をぶつける。一瞬にして小さな虫たちは弾け飛び、パラパラと地面に落ちていく。
木製の境界柵を巻き込んで斬撃が乱舞する。高速の斬撃はカリヴォラやブリーチャーの体を斬り裂いた。
ブリンジ隊員は高速の移動をやめて、片膝をついた体勢で姿を現す。立ち上がる動作と共に、横薙ぎに留めたサーベルの切先を地面に下ろす。
「うん。いいんじゃない? こっちはもうSO部隊だけでも対処できるだろうし」
ブリンジは取り残された1体のミミクリーズを包囲するSO部隊を遠巻きに見つめる。
「司令部へ。Sa教区GP内はクリアできそうだ。俺たちはどこへ行けばいい?」
「こちら司令部。Sa教区GP内の暫定クリアを偵察ドローンにて確認。グリニッジエステートを経由し、ドラックスホールへ向かってください。目的地へ向かいつつ強い警戒を」
「了解。これが終わったらご褒美にお茶してほしいな?」
女性オペレーターは微笑を浮かべる。
「奥様がいると聞いてますよ、日本の隊長さん」
女性オペレーターへの通信は切れてしまった。
「あっちゃー! 5連敗!」
藤林は大げさな仕草で天を仰ぎ、顔を覆う。
「よくそれで結婚してるねぇ」
ブリンジ隊員は両腰に手を添えて呆れている。
「ふふ、お茶くらいなら俺の奥さんは許してくれるんだよ」
「へぇ」
「なぜだかわかるか? ブリンジ君」
「いや、興味ないし」
「興味ないの?」
藤林は思わぬ反応にキョトンとする。
「だって、電話してたじゃん。トイレでコソコソ」
「ぬな、聞いていたのか!?」
「いやいや、ジャマイカ美人に声をかけてもいい人数を奥さんに電話してただなんて、どんな名探偵でもわかりっこないね」
「ブリンジ君」
藤林隊長は正面を切ってブリンジの両肩に手を置いた。
「なんですか?」
「大人は自由であるべきなんだよ」
「真剣な雰囲気はいっちょまえだけど、セリフが最悪だね」
「勘違いするなよ! 僕は奥さんにしか惚れてない。僕が女性に声をかけるのは、男に生まれたからには声をかけるという使命が――」
「はいはい、最悪のセリフが止まらないから次にいくよ」
ブリンジは藤林を置いて先に行ってしまう。
「外国でもこんな扱い……。僕のなめられっぷりは万国共通ってかぁ? ぬおーー!! 憂さ晴らしだあ! ブリーチャーめ!! 僕の怒りと嘆きを受け止めてくれー!!」
藤林隊長は珍妙な雄叫びを上げて駆け出してしまった。
「ああいう大人にはなりたくないな……」
呆れ交じりに呟いて、ブリンジは藤林の後を追った。
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