karma7 嫉妬できる仲間
御園は江夏の後ろをついて、暗い道を歩いていく。
「アイツはあの地位に立っていながら、不満があったらしい。俺たちはウォーリアってだけで排除する世界が嫌だから、影に隠れてきた。そうするしか、生きられる場所はなかったから」
江夏は前を見据える。暗い洞窟は嫌になるほど先が見えない。
「仕方なく、俺たちは影に隠れて生きることにした。けどアイツは、影に留まる気はなかった」
御園は前を歩く江夏の背を見つめながら、神妙な顔をしていた。
江夏の声色はどこか悔しそうに滲んでいる。
「もう諦めていたんだ、俺たちは。ここじゃなきゃ生きられねえって。でも、アイツは言った。なんでクソみたいな扱いされて、黙って従ってんだ!」
それなのに、どこか楽しそうだった。
「あの時は、アイツが何を考えているのか分からなかった」
江夏は立ち止まる。前方には曲がりくねった道と、直角に左へ曲がった道。御園は江夏と並ぶと、前方へ手をかざす。
「何を……」
する気だ?、と言い終わる前に、右手から電撃が放たれる。直線的に伸びた電撃は暗闇へ呑まれていった。
耳を塞いで目を瞑った江夏は、恐る恐る辺りを見回す。衝撃で少し揺れた洞窟は、ポロポロと小石が降っていた。
御園は顎に手を添えて考え込む。
「うーん、音沙汰なしか……」
すると、御園の頭にげんこつが落とされた。
「いって! 何してんだお前ぇ!?」
「お前こそどういうつもりだボケがッ! 洞窟が崩れたらそれこそ脱出もできなくなるだろうが!」
「だからって本気で殴るなよ~。死んでねぇんだからよぅ」
御園はぶつくさ文句を言いながら渋い顔をする。
「どっちも道は続いてるっぽいな」
「マップが使えないんじゃ、方角も分からない」
江夏はシールドモニターのマップを確認するが、右下の小窓に『not found』の文字しか映らない。
「じゃんけんしよう」
「は?」
江夏は間の抜けたことを言い出した御園に、正気かと軽蔑の眼差しを向ける。
「じゃんけんで勝った方角に進む。俺が勝ったら左、お前が勝ったら真っすぐ」
「左でいいだろ」
そう言って、江夏は先に行ってしまう。
すでに構えていた御園は取り残される。
「おい、じゃんけん!」
「1人でやってろ」
「できるかあ!!」
御園は叫びながら普通に走って江夏を追う。
「できるだろ。両手使えば」
「あ、その手があった。って! 進んだ後じゃ意味ねぇだろ!!」
御園は恨めしそうに江夏の背を睨む。
2体の
「で? お前たちはどうなったんだ?」
御園は江夏の背に問いかける。
「ある時、アイツに言われた。『食いつぶされる人生を終わらせる。俺と一緒に来い』密かに同じウォーリアを集め、裏の世界から逃げようと画策してたんだ」
「羽振りはよかったんだろ? わざわざ逃げ出す理由が分からないな」
御園は素朴な疑問をぶつける。
「アイツの目的は金じゃない。まともな生活をすること。世界が俺たちを端っこに追いやろうってんなら、自分たちの力で日の当たる場所に向かうしかない。アイツは、何も諦めてなかったんだ」
江夏はしっとりとした口調で話し続ける。
「俺たちは組織の目を盗んで逃げ出すことにした。逃亡はすぐにバレる。そんなことは百も承知だった。追手を払ってやり過ごす毎日だった。けど、これまでにない自由があった」
その時、御園は妙な感覚を抱く。
地下のこもったどんよりとした空気が増している。地面も少しぬかるんでいるようだ。ここらに水脈でもあるのだろうか。少しの変化だが、この変化が脱出を期待させていた。
「でも、金のアテがなくなった。また逆戻りさ。誰もが分かっていたことだ。勝谷の誘いに乗ったウォーリアも、全員じゃなかった。ネットを介して収入を得るのがやっとだ。普通に働いて稼ごうにも、仲間の中には警察に顔が割れてるヤツもいた」
「ま、当然か」
「なのにアイツ、政府と交渉するって言い始めてな」
御園は不敵に微笑む。
「ずいぶん思い切ったな」
「日本特殊防衛軍の殲滅部隊が人員不足に陥っていたことを知ってたんだ。職としてはまだまともだし、かなりの報酬も見込める。問題は、無法者の俺たちを受け入れるかどうかだ」
「で、どんな汚い手を使ったんだ?」
江夏は卑しい笑みを返す。
「日本特殊防衛軍の入隊条件は緩和されている。俺たちのような前科のあるヤツやワケあって社会復帰ができなくなったヤツもいることを掴んでいた。それをカードにしようって思っていたが、呆気なく入れてな」
地面や壁はほんのりと濡れているが、水音は聞こえてこない。
道もなだらかに下っている。
「だが結局、使い捨てであることも、危険なことも、時にはやりきれねえこともある。他人から見りゃあ、何も変わってないように見えるだろうな。けどな、やっぱ違うんだよ。裏の世界にいた頃と今じゃ。裏の世界にいた頃は仕方なくやってたけど、俺たちは自分の意志で隊員になった。たぶんアイツも、そこに意味を見出している気がする」
その時、奇妙な唸り声が洞窟内に響いた。
「な、なんだ!?」
御園は洞窟の先を見つめてどもる。
「出口かもしれない!」
江夏は天使の鐘を聞いたかのように声を上げる。
「出口? いやいや、今のはどう考えてもこの世のものじゃ……」
「洞窟の出入り口に入ってきた風で鳴ってるんだ。リコーダーと同じことさ」
「リコーダー? おいおい、どうかしちまったのか」
「早く行くぞ!」
江夏は突然元気になり、走り出してしまった。
「おい、ちょっと待てって!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます