karma7 元ever5の先輩

 現在、配属部隊を選定されている数人の新人隊員が、観覧室に会している。

 第一訓練室では訓練が行われていた。

 本日、指導担当となっていた車屋の提案で、先輩隊員の訓練を見学することになった。

 先輩の姿を目に焼きつけておくがいい。そう言われ、観覧室に来てみたはいいが、少々刺激が強過ぎた。


 第一訓練室は断続的に苛烈な青い電流が乱舞している。仮想に作られたブリーチャーたちは、臆することなく走り回っている。

 標的は青い電撃を放っている二足歩行の機体スーツ。生物が視認した時には、機体スーツは姿をくらましてしまう。

 超高速で移動する機体スーツを金色の瞳が追いかけようとするが、すべての動作において、機体スーツを着る隊員の方が速かった。


 飛翔した青い光の剣は生物たちの体を貫き、生物の体はモザイク状に変化して姿を消してしまった。

 攻撃対象を見失った生物は、走る方向を見失う。そうなれば止まらざるを得ない。隙だらけの生物たちへ一線の光が駆け抜け、生物たちの体に穴が空いた。

 またたく間に生物たちが消失していく光景に、新人隊員たちは唖然とするばかりだった。


『第5ウェーブクリア。訓練プログラムを終了します』


 機械の女性の声は端然たんぜんと告げた。

 出現したすべてのバーチャルブリーチャー属を倒した2人は、涼しい表情で銃器を収める。


「なんなんだ、あの2人……」


「本当に、あたしたちの1つ先輩なの?」


「5ヶ月前の事件で、全治1年はかかる重症だったはずだろ?」


「無茶苦茶だぜ……」


 新人隊員は口々に感嘆を呟く。


「はいはい、その辺にしようか」


 木城の呆れた口調が訓練室に木霊する。

 たじろぐ新人隊員にも木城の声は届いていた。しかし訓練室と違ってエコーはかかっていなかった。観覧室の窓に近づいた木城は、西松清祐と勝谷篤郎をレンズに通した瞳に捉える。


「今日は終了よ。機脱室に向かいなさい」


 勝谷の表情が険しくなり、観覧室の窓に細くなった瞳が向かう。


「あァ? ふざけんな。こんなの準備運動にもならねえよ」


「木城室長、俺たちはまだやれる」


 西松も右肩を回しながら、訓練を続けるよう進言した。


「そうでしょうね。あなたたちの驚異的な回復力は認めてあげるわ。でも、あなたたちの体はまだ完全に回復していると言えない。無理をしてることに変わりはないのよ」


 木城は真剣な口調でさとす。


「このまま無理な訓練を続けても、余計な疲労を体に蓄積させて怪我するだけよ」


 木城は腕組みして、毅然と2人を見下ろす。


「あなたたちは復帰の見通しが立つまでに回復した。これは事実よ。けど、これからどんな状態で戦場に立つかによって、生存率や成果に影響する」


 木城は厳しい顔で今までつぐんできた言葉を放った。


「断言していいわ。こんな無謀なことを続ければ、また繰り返すわ」


「……脅しのつもりか?」


 勝谷のこめかみに血管が浮き出る。


「可能性を指摘したまでよ」


 張りつめた空気に気圧けおされる新人隊員たちは、木城と訓練室の2人を交互に見ては、体を強張こわばらせて状況をうかがっていた。

 一歩も譲る気のない両者。すると、車屋隊長は木城の右耳につけられたインカムを奪い取る。


「ちょ……」


「覚悟はあるのか?」


 車屋隊長は木城と同じく小型無線機で訓練室の2人と通話し始める。


「なんですか?」


 西松は不思議そうな顔で眉尻を下げる。


「また何かを失ったとしても、後悔しないな?」


 勝谷は車屋を睨みつける。


「もう何も失わせねぇ! 俺たちはそのためにいるんだろ!」


 威勢のいい勝谷の言葉に、車屋は頬を緩める。


「そんなに物足りないなら、いい練習相手を手配しよう」


「ちょっと、勝手に話を進めないで」


 木城は車屋の言動に呆気に取られていたが、主導権を取り返そうと割って入る。


「あいつら、見た目以上に丈夫らしいですし、本当に危なくなったら気絶させてでも中止させます」


 木城は悩ましい顔をして左の窓の向こうにいる2人を数秒見つめ、疲弊を混じらせて返答する。


「私が危険かどうかの判断を下す。私の指示で強制終了よ。いい?」


 木城は車屋を威圧するように視線を交える。


「承知しました」


 改めて2人に向き直る。


「20分ほど休憩してくれ。すぐに連れてくる」


 車屋は首肯し、木城にインカムを返す。

 どこかへ行こうとしたが、困惑した数々の視線が足を止めた。


「あ、そうだ。悪いが、君たちもここで待ってくれ。すぐに戻る。待っている間、木城室長が講座を開いてくれる」


「は?」


「ウォーリアのこと、ブリーチャーのこと、プライベートでも質問し放題だ。こんな機会、滅多にないから聞いておくといい」


 車屋は不敵な笑みを残して観覧室を出て行った。


 木城は眉間に皺を寄せ、「勝手な奴らが多くて困るわ」と愚痴を零す。

 すると、木城の口角が片側だけ上がる。


「新人隊員の諸君! 今のうちに聞きたいことがあれば、続々と質問を寄せなさい。あーでも、質問だけよ。要望は受けつけないわ。仮に私を狙ってるなら最初に言っておくわ。私は女しか興味ないの。もちろん、デートくらいならしてあげてもいいけど、私を楽しませてくれる話もできないようじゃ、二度目はないと知りなさい。この私、ウォーリア研究室室長木城満穂きしろまほが不本意ながら教鞭を振るって差し上げましょう」


 畳みかけるようにしゃべる木城は止まらない。新人隊員たちはポカンと口を開けて呆然ぼうぜんとする。

 観覧室のライブ放送を聞く羽目になった西松と勝谷は、変人室長の奇行に困り果てていた。


「チッ、放置プレイかよ」


 勝谷は舌打ちし、西松に向き直る。


「このままじっと待ってると体が冷めちまう」


「そうだな。軽く実技訓練でもやっとくか」


 西松が同意すると、2人は互いに目の前の機体スーツを見定め、拳を振るった。拳同士がぶつかった瞬間、またしても訓練室で激しい光が乱舞した。

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