karma8 最狂の隊長

 15分後、車屋隊長は観覧室に戻ってきた。


「待たせた。思ったより早くカタがついた」


「で? さっき連れてくるって言ってたけど、一体誰を連れてきたの?」


 車屋隊長が入ってくるや否や、真正面の壁にもたれる木城が退屈そうに問いかけてきた。

 車屋は視線を流す。左では新人隊員たちの顔が並んでいる。新人隊員たちは疲れ切っているみたいだった。

 木城室長の研究室での様子は研究員から聞いている。食堂で愚痴を零す研究員の姿は、何度か目にしていた。人をからかうような話しぶりで、相手を困惑させる。困った顔する人を見たいがために、わざとやっているんじゃないかと話していた。

 紹介がてら、成り行きで場を設けた。この状況は車屋の予想通りだったが、新人隊員たちには苦味が強かったようだ。

 車屋隊長は右側にある窓に正面を向けて近づいていく。


攻電即撃部隊ever4が有名な部隊になったのは、最近のことです」


「ええ、話は聞いてるわ」


「藤林、丹羽、東郷、四海、そしていずな。彼らの戦闘能力は、攻電即撃部隊everの中でも高い水準を誇ります。それぞれがバランスの取れた能力を有しているからこそ、国内外で信頼を得る部隊になりました。どんな困難な状況下であろうと、あの攻電即撃部隊ever4ならやってくれると」


 車屋隊長が木城に昔話を聞かせている時、訓練室で暴れ回っていた西松と勝谷に通信が入った。


「こちら訓練制御室。第一訓練室に隊員が1名入ります」


「あ?」


 勝谷は走りを止め、戦闘を中断する。

 西松も技術士の声に反応し、息を整える。


「来たのか? 練習相手ってのが」


 2人は一様に黄土色の壁面へ視線を送る。なんてことない壁の一部が下がり、小さな空間がお目見えする。

 その様子を観覧室で見ていた車屋は話を続ける。


「東防衛軍内で特段1つの部隊が注目されることはありませんでした」


攻電即撃部隊ever4が注目されているのを初めて知ったのは、生島咲耶いくしまさやが隊長を務めていた頃だったと記憶しているわ」


「生島咲耶は日本第一号の女王クイーンでした。それだけに注目されたのでしょう。まあ当時は、攻電即撃部隊ever4ではなく、生島咲耶だけが注目されていましたがね」


 聞けば恐縮してしまう名前が取り交わされ、新人隊員は生気を取り戻したように意識を向けている。


「生島隊長が戦果を挙げる前までは、日本の一部隊が熱い視線を向けられることはなかった。実力不足だったわけじゃありません。目立たなかっただけで、攻電即撃部隊everには創設当初からジョーカーがいたんです」


「ジョーカー?」


「彼には問題がありました。頻繁に出動できなくなることが多かったんです。例外なく緊急時も」


 木城は窓の向こうに目をやり、煮え切らない様子だった。


「上がよくオッケーしたわね」


「20年前、世界中でブリーチャーの被害は深刻でした。速やかな対策が各国に求められていたんです。その救世主がウォーリア遺伝子を持つ者だった。ウォーリアの特殊な力を利用した機体スーツで、ブリーチャーを殲滅する手を考案しました」


 訓練室の壁奥にできた空間は壁に囲まれているだけで何もない。それどころか、床はなく、穴の奥から小さな作動音がしている。


「各国が打ち出したブリーチャー対策の多くは、ウォーリア遺伝子を持つ者が欠かせませんでした。ですが、一刻も早く人員を確保しなければならなかった政府は、入隊条件を緩くせざるを得なかった」


「未知の危険生物に日本中が混乱していたし、ブリーチャーの行動習性が判明したせいで、ウォーリアの立場が危うくなっていた。おびき寄せる原因だって声が強くなって、ウォーリアであることを隠す人も多かった」


 木城は神妙な面持おももちで当時のことを語る。


「加えて戦場に出る仕事をしてくれる一般人は少ない。人員確保を優先するには、多少目を瞑るしかなかった」


「島崎いずなと同じように?」


「いずなの例は可愛いものですよ」


 新人隊員は観覧室の窓の前に集まっていく。

 その時、簡素な昇降機で上がってきた人物が姿を現す。一見しただけでは誰か分からない。

 ARヘルメットが機体スーツの左胸に刻印された徽章きしょうを読み取ると、隊員番号アーミーナンバーと名前を表示してくれる。


「あ、あんたは……」


 西松は思わぬ人物に目をみはった。


攻電即撃部隊ever4が有名になる前、日本の東で最高戦力を誇っていたのは、攻電即撃部隊ever3。初貝茂粂はつがいもじょう隊長がひきいていた部隊だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る