karma12 小さいようで大きな差

 御園たちがいる中央エリアから西に200メートル先、森林が集まる散策道に誘い込んだ桶崎と葛城。森林は火の海に呑まれ、周囲に白い煙が漂っている。

 熱波を背にする青い機体スーツは、屋内プールの建物前で身構える桶崎と葛城を見つめる。

 2人は一定のリズムで呼吸音を繰り返し、険しい表情で青い機体スーツを睨んでいた。


 間宮総司を退場させることはできたが、目の前で立ちはだかる川合雪を攻略できずにいた。更に自身の残っている体力も少ない。そんな状況で川合雪を倒せるのか、勝機を感じなかった。

 川合雪の前腕外側には黄色の三日月に形を整えられた武装品が取りつけられている。


 川合雪は右手を横に振るう。三日月にかたどられたブレードが地面と水平に飛翔する。桶崎と葛城が背にしていた屋内プールの建物に白いブレードが当たり、外装の破片が舞い散った。

 二手に避けた葛城と桶崎の横を掠めたブレードは、ヴィーゴが放つ飛ぶ打撃と形が似ている。違いは煙を纏っているところだ。

 金の粉塵を撃ち出す射撃兵器。互いに摩擦した粉塵は飛翔しながらブレードを形作り、外壁にくっきりとブレードの傷跡をつけていた。ブレード型の煙が空気を巻き込みながら、時折赤橙せきとう色を点滅させるところを見る限り、過熱されているのだろう。


 すかさず川合は電撃を飛ばす。桶崎の反射神経に勝る電撃が鋭く曲がり、足下へ深く入ってくる。桶崎も電撃を放ったが、放たれた電撃は地面を強く穿うがった。

 石畳が砕け、衝撃で飛び散る。ガードを試みたが、白いブレードは軽く切り裂いて桶崎の足を捉える。痛みに顔をゆがめる桶崎。外装にヒビが入る程度で済んだが、痛覚リンクを備えた機体スーツでは生身にこたえる。


 葛城は刀身を伸ばしたライトブレードを横薙ぎに振るう。川合は腰の高さで右手を開いて伸ばす。川合に迫った青い光の剣身の先端がぐにゃりと曲がり、引き寄せられる。川合の右手に収まったライトブレードの先端は消失してしまった。ライトブレードは元に戻る。こんな現象は初めてだった。

 川合は反射速度を超えたブーストランを見せ、葛城の左に現れる。


 銃身の太さは人の腕と大差ない。川合の左手で待機していた銃の口が葛城に向けられる。かなり近い距離に驚愕した葛城の表情が、ARヘルメットのシールドモニター越しにはっきりと確認できた。

 銃口から射出された小さな弾は複数。1つの口から同時に吐き出された小さな弾が空中に散乱したかと思えば、葛城のいた位置で連鎖するように爆裂した。マグマのような赤い灯りは膨らんで爆風をもたらす。異常な量の硝煙しょうえんが川合の姿を隠していく。


 桶崎は先端に銀色の花を咲かせるメイスで光弾こうだんを連続射出する。煙の壁に打ち込まれる光弾こうだんが風穴を空けていく。だが対象に被弾した手応えはない。

 分厚い煙の壁から出た川合は、強熱散弾銃グレートフレイムの照準を桶崎に合わせた。しかし背後から追尾していた葛城の銃撃を浴び、軽い衝撃を受けた川合はバランスを崩す。

 体勢を立て直した川合は、すぐ銃口を葛城に向け直し射出する。持ち前の速さを活かした葛城は、急速に広がる爆燃ばくねんの猛威から逃れた。


 その間に桶崎のメイスが咆哮を放つ。青い光線は加速して川合を討とうとするが、川合の手前で電磁を帯びる膜に阻まれ、光線が消失する。効果がないと見た桶崎は射撃を中断し、その場から離れる。

 消えた桶崎のいた場所はまたたく間に赤い光の熱に呑まれてしまう。


 一見桶崎たちに有利な状況と思える状況だったが、2人は川合の特異な電気操作にあきらかな実力の差を感じていた。


 機体スーツの性能によるものなのかもしれないが、電撃の破壊力と挙動は性能うんぬんでどうにかしているというよりは、技術的な電気の操作感覚によって生み出されていると、そんな気がしてならない。


 女王クイーンという存在を間近に見聞きし、その素質による電撃の威力を知る2人ではあったが、川合が女王クイーンの素質を持っていない。

 それでも、電撃の使い方次第でいかようにも能力を変化させる例は多くある。だとしたら、他者のライトブレードの剣身を曲げたり、1度の砲撃で地に小さなクレーターを空けることもできるレーザーを電磁シールドで受け止める術が、女王クイーンでなくとも可能ということ。

 この機に是非とも盗めないものかと、2人は川合から漏れる電磁線や仕草などに注意を払いながら、幾度となく攻撃を仕掛けていった。

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