karma11 重たく剣は交わる

 街中の運動公園。清掃が行き届いた憩いの場でもある。小さい子供を連れた親が遊びに来るところでもあるが、冬の景色へ向かう飴色の芝は、荒廃の一途を辿っている。

 川合雪かわいゆき羽地岳人はぢたけひと環状交差点ロータリーから合流してきた防雷撃装甲部隊over1の稲坂智美いなさかともみ防雷撃装甲部隊over4の間宮総司まみやそうし攻電即撃部隊everの新人たちを追い込んでいた。


 さっさとバーチャルブリーチャー軍勢を殲滅した桶崎も加わっていたが、すでに鳩磨英知はとまえいち町戸昌司まちどしょうじが戦線を離脱し、劣勢に傾いていると認めざるを得ない状況にあった。

 川合雪を筆頭に統率された防雷撃装甲部隊overは、新人たちを翻弄し少しずつ体力を削り取っていく。


 御園も機体スーツの損傷が激しく、これ以上ダメージを受ければブーストランすらできなくなる。機能できなくなったと認定されたら、また戦員が減ってしまう。

 電撃の威力は半減し、銃も剣も使えなくなってしまった。最前線を離れて修理をしたいところだが、手負いの御園を一気に押し込めようとする羽地と稲坂を振りきれなかった。


 羽地と稲坂に追われながらも離脱していなかったのは、江夏源太えなつげんた福富愛梨ふくとみあいりが御園を守りながら戦っていたからだ。


 交錯する剣。電気により作られし刃を扱うことの多い隊員の中で、羽地と江夏はオーダーメイドで作ってもらった質量を伴う剣を使っていた。青い機体スーツは広い面を持つ剣を振るい、紫と白に配色された機体スーツは特殊な黒曜石で作られたサーベルを振るう。

 互いに2本の刃を持ち、剣技の応酬を繰り広げている。そこに電撃と咆哮が加わり、異種乱闘戦となっていた。


 羽地の武器の厄介さでまず挙げるとするなら、しっかりとした重量を誇る2つの剣を、軽々と振るってくるところだろう。それを受け止めれば、肩と腕への負荷は相当なものになる。

 速度はライトブレードより劣るが、破壊力は抜群だ。運動公園にあるピラミッド型の遊戯モニュメントは有名美術品の偽物レプリカで、子供が遊ぶために作られた物である。材質はマルテンサイト。偽物レプリカとはいえ、硬さに定評のある物を、一振りで真っ二つにする大きな剣をまともに受け止めたくはなかった。


 更に羽地の両剣は射撃機能を持つ。羽地の剣は長方の形を取り、切先で刺すものではない。しかし切先を前へ伸ばす仕草をした時、剣身が銃身の役割を為し、直線的な電撃を飛ばすことができた。


 機体スーツから放たれる電撃でも直線的な軌道を描くことはできるが、その際には電撃の周りに枝状の青い筋がわずかに見られる。それは電撃のエネルギーが標的に当たるまでに、空気中に分散していることを表している。

 羽地の剣から放たれた電撃は、エネルギーを逃がすことなく標的へ命中させることに特化していた。

 羽地の振るう大剣は重量級の武器になるが、充分に超人の速度で移動できる。かく乱のためだろう。機体スーツに搭載した光弾マシンガンを撃ってくる。


 光撃こうげきが乱れ飛ぶ中、すべてを避けられはしない。やむを得ず受け止める。

 黒曜石のサーベルが大剣を防ぐ。江夏のサーベルも大剣の大きさに劣らない。打ちつける音が2人の近くでいななく。江夏も予想した体への負担は大きいが、斬り結んだ際の大剣の威力は半減していた。


 羽地の大剣と江夏のサーベルが交わるたびに飛び散ったのは、火花や電気よりも多い物があった。

 微小な氷片ひょうへん。対象を斬る時、サーベルは氷の属性を帯びる。まるで魔法のようなサーベルみたいだが、種も仕掛けもあるサーベルだ。


 地球から遥か遠く、海王星よりも遠い太陽系外縁天体たいようけいがいえんてんたいの1つ、ノーエンアーツから採掘されたヴィオスメタルと呼ばれる物質がカギとなっている。

 黒曜石にヴィオスメタルを中心とする、精密なナノ配合により組成そせいした特殊な黒曜金石こくようきんせき、通称ブラックヴィオスメタルの多機能性が氷の属性付与を可能にした。

 超急速に氷結されたサーベルは氷層ひょうそうを作り、ぶつかるたびに氷層が剥がれていく。白い刃はその温度を表すかのようにほのかに白い煙を放っており、人が3秒ほど触れただけでも凍傷を起こす可能性すらある危険な武器だった。


 とはいえ、通電によって急速冷凍を可能にするサーベルは凍傷させる対象を選択できる仕組みだ。機体スーツに一太刀でも入れられれば機能障害を起こせるが、大剣がこれを阻む。

 大剣の電撃砲機能に障害が起きそうなものだが、剣として利用されることを想定した耐衝撃性はもとより、触れる機会は一瞬の時間であり、極寒の冬の戦闘にも考慮した耐凍性も充分に対応できる大剣であった。


 しかしながらサーベルの氷冷させる機能は、極寒の気温の比ではない。1本の大剣は障害が起きており、電撃砲を撃つことができなくなっていた。さすがに羽地も江夏のサーベルの危険性を認識し、すぐさま氷結機能に対処した戦闘に変更していた。

 多彩な機能を駆使し、運動公園の敷地を縦横無尽に駆け回る機体スーツの乱闘戦の中で、仲間の足を引っ張っている自身の状況にもどかしさを覚える御園。

 隙を見て稲坂と羽地の目から離れようとしているが、再び捕捉されてしまう。援護しようにも電撃くらいしか手がない御園の状態では、雀の涙ほどの効果が関の山だった。

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