karma5 反省とリベンジ

「いやね、いずなが攻電即撃部隊ever4に入ってからというもの、いずなの誕生日ってしたことなかったなぁと思ってね。いずなの誕生日を一度もやってないってのは寂しいと思うんだよねぇ」


「でも、いずなが入った年もやろうってなって誕生日会したけど、会場に入った瞬間逃げられて、それっきりになってませんでしたっけ?」


 四海は顔を強張らせながら苦い歴史を語る。


「ちなみに、何やったんですか?」


 氷見野は聞いていいものか戸惑いながら尋ねる。


「えーっと……何やったっけ?」


「覚えてねぇよ」


 藤林に質問を振られた東郷は素っ気なく答える。


「『マロニー&マロニー』のキャラクターの着ぐるみ着てバーチャル遊園地で祝ったと思うけど?」


「あーそうそう! 着ぐるみ着たなあ!」


 丹羽は思い出してくれたようで何よりと言わんばかりに微笑み返す。

 氷見野が聞いた限り、充分盛大に祝っているし、小学生が喜んでくれそうな内容だと思った。


「やっぱり着ぐるみはレンタルすべきだったんですよ」


 四海は今更反省点を吐露する。


「いや、小学生の誕生日会で20万かけるのはさすがの僕でもためらうよ」


「普通にやってりゃよかったんだよ」


 東郷は藤林を横目で睨む。


「健太がいずなのことで空回りしてるのは今に始まったことじゃないけどね」


 丹羽はどこか嬉しそうに話す。


「えぇー、そんなことないでしょ」


 氷見野も他の隊員に混じって笑う。


「着ぐるみを手作りするのはあれが最初で最後でしょうね」


 四海がしみじみと言う。


「お前のは一番ひどかったぞ」


 東郷は四海作の着ぐるみを辛辣に評価する。


「だ、だって、裁縫なんてほとんど未経験だったし」


「そもそも着ぐるみを素人が作ろうとすることに無理があったんだよ」


 丹羽は的確に指摘するが、どちらかというと笑い話の口調だった。


「前回の反省も含めて、今回の誕生日会を成功させようと思う!」


 藤林隊長は高々と宣言する。しかし他の隊員は未だに乗り気じゃない。


「いずなは迷惑だって言いそうだけどな」


 東郷は低調な口ぶりで反論する。


「そう?」


「まあいずななら言いそうだよね」


 丹羽も東郷の意見に賛同する。


「いやいや! 最近のいずなの様子もしかり、たまにはサプライズをしてほしいと思ってるはずだって!」


 藤林は息を巻いて力説する。


「うーん……どうですかね」


 四海も微妙な表情になっている。

 藤林は頓挫しそうな空気を察し、氷見野に助けを求める視線を投げた。まるで子犬ような弱々しい表情が克明に表れていた。


「氷見野さんもやっぱり、やんない方がいいと思う……?」


 氷見野は返答を求められるも、困った様子の目線が泳ぐ。だが氷見野の気持ちはすでに決まっていた。


「そんなことないと思いますよ」


 氷見野に集まる視線は一様に驚きを纏っていた。


「だ、だよね! ほら、氷見野さんもこう言ってるしもう一度やろうよ!」


 東郷たちは食事を止めて少しの間考え込む。


「まあ、今回は氷見野さんもいるしな」


「そうだね。いずなも氷見野さんには心を許してるっぽいし、もしかしたら誕生日会に参加してくれるかもね」


 東郷と丹羽のトーンが少し変わってきた。


「確かにそうですね」


 四海も同意し、なんとなく誕生日会をやる雰囲気になってきた。

 ただ氷見野はあまりピンと来てなかった。


「みなさんにも心を許してると思いますけど……?」


「まあ昔に比べたら心を許してくれてるとは思うけど、氷見野さんとは少し違うんじゃないかな」


「氷見野さんって包容力あるし、いずなも甘えやすいと思うよ」


 藤林と丹羽の言葉に若干面映おもばゆく感じながら、「そうですかね?」とか細い声を鳴らす。


「氷見野さんに攻電即撃部隊ever4に来てもらったのは女王クイーンだからってのが大きいけど、実際いずなの精神的支えになってるんじゃないかな。だから、本当に来てくれて助かってる」


 藤林の声は深く身の入った意味が如実にあふれていた。

 しんと温かな空気がゆっくりと流れる空気に1つの息が零れると、息をついた東郷はビールを一気に飲み干して微笑んだ。


「やってみるか。いずなの誕生日会」


「そうですね」


「いいよ。いずながどんな反応するか楽しめそうだし」


 3人がやる気になってくれて、藤林隊長の顔が晴れやかに輝く。


「んじゃ! ここにいずなの誕生日会作戦隊を結成しよう!」


「いや、その名前はちょっと……」


 四海が苦言を呈した。


「え、ダメかな?」


「ダセえな」


「うん」


「あれえ!?」


 氷見野はクスクスと笑う。


「みなさん、頑張りましょうね」


 氷見野がそう言うと、東郷たちは同時に首肯した。


「この扱いの差は……。一応僕、隊長なんだけど」


「この際隊長交代するか?」


 東郷はほくそ笑んで提案する。


「来次、微妙に本気じゃない?」


「さあな」


「そんなことより、いずなの誕生日会をどうするか決めないと」


「そんなことって……、大樹もさりげなくひどいよね」


 みんなに弄ばれる藤林は意気消沈し、ガクンと肩を落とす。


「んじゃ、誕生日会に向けていっちょ頑張ろうぜ、乾杯!」


 落ち込む藤林を差し置いて、「乾杯!」のレスポンスと4つのグラスのかち合う音が響く。いずなの誕生日会が計画されることが決まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る