karma11 永遠に近い戦場

 司令室では戦地の状況把握に努め、悪化の一途を辿る戦況を覆すべく

、各機関との調整に追われていた。


「戦力が足りない! 防雷撃装甲部隊overの力を借りたいんだ。…………そんなことは分かってる! じゃあそれ以外に方法でもあるのか! 他国の部隊に協定外の要請をして、二つ返事で出動するわけがないだろう!」


 斎藤司令官はマイクの向こうに怒鳴る。

 無人小型戦闘機CRTxの空撮からの映像が入ってきていた。それ以外に状況を把握する手段がないため、なくなく遠目から確認している。


 また、一部の無人小型戦闘機CRTxも操作信号を受け取れなくなる事態も起こっていた。

 通信できる状況にある無人小型戦闘機CRTxとの比較から推測されたのは、生物が何らかの方法で電波干渉を行っており、無人小型戦闘機CRTxの操作信号と隊員との通信に障害が起こったのではないか、ということだった。

 そこで、無人小型戦闘機CRTxは地上からある一定の距離を保ったまま攻撃を行うように、司令室から三沢基地通信部へ助言がなされた。


攻電即撃部隊everの方でも部隊追加させる。大臣にもこちらから連絡しておく」


 斎藤司令官が通信を切ると、鼻息を吹かし、虫の居どころが悪そうに顔をゆがめた。


 空では未だ星が見えないばかりか、また小雨が降り始めた。

 黒く染まった空にうっすらと浮かぶ雲。動きが遅く、ゆったりと流れていく。上空で言い知れぬ力が働いているんじゃないかと思えるほど、妙に厚い雲だった。

 その厚い雲から降り注ぐ小さな雫は、けがれを肥やす地に落ちる。憎しみ、野心、信条、怒り。打ち鳴らす狂戟きょうげきが乱れ合う。


 西松は一心不乱に目の前の脅威に立ち向かった。生物は手足と頭を操り、捨て身で突進してくる。拳や蹴り、頭突きのスピードは大きな鉄の柱を破壊する。

 更に宙に浮かんだ手が爪を飛ばしてくる。これも機体スーツを貫通させるイメージを植えつけたことにより、隊員たちは警戒感を強めていた。


 仮想光物質歩兵部隊VLMCや、米軍の戦闘機MEX-4D、エリザベートは、隊員を狙う爪の弾丸を射出させまいと、集中して狙い出した。

 それを悟った蓬鮴は、攻電即撃部隊ever5の他の隊員に、「仮想光物質歩兵部隊VLMCとエリザベートが滞空する手を対処してくれている。俺たちは引き続き生物の再生阻止を遂行する」と伝える。


 勝谷は通り魔のごとく、愛用する電磁銃剣を振るって斬りつけていた。3本の光の剣は、青をよどんだ空気にはしらせる。脇目も振らず、目に捉えた醜悪な生物の肉片を焼き殺していく。

 すばしっこいウォーリアの息の根を止めるには、数秒でも0コンマ1秒でもいいから、動きを止める方がり易い。勝谷の走る軌道を塞ぐように、まとまった肉片が宙で壁を作った。

 勝谷は前方に電撃を放つ。

 壁は崩壊し、突破されてしまう。それでも速度を落とす効果はあった。


 勝谷は妙な異変を感じると、足が横に引っ張られた。横転した体が止まり、すぐさま起き上がる。視界に入った足には、生物の手が足かせのように掴んでいた。

 電撃で弾こうとしたが、背後で空気を裂いたようなかすかな音を聞く。

 激しい爆発的な閃光を地面に放った勝谷は、衝撃を身に受けながら前に飛び出した。そのすぐ後に、大きな三日月の刃が振り下ろされる。地面スレスレで止まり、風圧が放射状に地面を伝っていく。

 勝谷は振り返り、視界に捉える。生物が勝谷の正面で振り切った姿勢で立っていた。附柴のワイヤーの餌食になり、身動きを封じられていたが解いたようだ。その痕は火傷となって刻まれている。

 生物は両手で操って武器を引く。刃こぼれすらない三日月が生物の後方へ向かう。


 勝谷は足下を確認する。先ほど放った電撃で生物の手は振り落とせたようだ。

 生物は腰を落とし、豪快なフォームで振り上げる。斬撃が飛翔したが、勝谷は真正面から来た攻撃を軽々とかわし、異次元の速度で走り出した。


 ゾワゾワと嫌な感覚が勝谷の首筋に貼りついていた。体を真っ二つに斬られていたんじゃないかと思うと、生きた心地がしなかった。

 かく乱させるために速度を上げて走る勝谷は、自分に狙いを定めた生物を確認する。しかし走りに関して圧倒的に劣る生物は、勝谷を追う素振りを見せていない。


 生物が見下ろすと、電撃の名残を受ける細胞片が地面でけいれんしていた。完全な姿となった生物は、右に回しながら後方へ刃を引くと、体をひねって振り切る。刃は地面を擦りながら半回転した。

 生物は自分の細胞片を斬ったのだ。当然、斬られた細胞片は再び細胞を作り出す。手の形となった細胞も、スラリと伸びる足を引き千切っている。

 恐れていたことが起こっていた。自分で身を裂いた方が分裂しやすい。数で圧倒しようというのか。再生の速度も早まるばかり。


 すでに数時間前から生物の怖さをまざまざと見せつけられている。この状況から脱することができるだろうかと、負の思考に陥りそうになる。

 だがここから逃げ出せば、生物に負けたことを認めているようなものだ。内なる反骨精神が挫けそうな勝谷の心を奮い立たせる。ボロボロの体を酷使し、終わりの見えない戦いの中を奔走していく。


 附柴にはもう戦場における殺戮をたのしむ余裕などない。

 生物の強さにねじ伏せられる恐れを感じていた。自身が恐れをす側に回っている状況がうとましい。

 恐怖心を抱きながら戦う自分が炙り出された気分だった。

 殺すだけじゃ物足りなくなっている。ラッキーでも、加勢された結果でもいい。生物たちをいたぶることができるのなら、卑怯な手を使ってでも生物たちの畏怖の対象となりたかった。


 附柴は爪の弾丸をあしらいながら、大手を振るう完全な姿の生物に焦点をあてる。附柴は細胞片の間を縫って全速力で生物に向かい出した。

 生物との距離が5メートルと差し迫った時、生物の頭がわずかに左に回る。生物は急接近してきた附柴に反応した。三日月の刃は振り子のような軌道を描いて、附柴を刈ろうとする。

 ほんの一瞬だった。シールドモニターでも観測することが難しいほどに、光速の境地へ踏み入れた電撃が、生物の片腕を断裂させた。

 観測できないのも無理はない。附柴が近距離で電撃を直線的に放ったのだ。


 生物はもう片方の腕で遠心力と重さをコントロールしながら振りたかったが、持ち方が悪く、刃は地面を擦って地に落ちた。

 その隙を突き、附柴は前に飛び上がる。伸ばした手は生物の長い武器だった。武器を奪い、攻撃の手を減らそうとした。

 附柴は武器を掴んだ。しかし、生物の足下に落ちた腕が何の前触れもなく浮き上がると、附柴の顔に飛びかかった。大きな手が隊員の視界も担うシールドモニターに覆いかぶさる。

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