karma12 変わりゆく世界
飛びかかってきた手の勢いに押され、附柴は武器を離してしまう。背中から落下しそうになる前に手を後ろに伸ばした。体をくの字に曲げ、後方に転回して身軽に着地する。
視界を覆う手はまだ食らいついている。そのせいか、ヘルメットが軋んだ音を立てていた。大きな手に劣らない握力は相当なものらしい。過酷な戦闘を想定して耐圧も意識されたARヘルメットが砕けそうな不安を想起させた。それがただの妄想でないと知らしめるように、シールドモニターにヒビが入る。
附柴は生物の手を掴み、電気を流した。けいれんする手は制御を失う。簡単に剥がされ、地面に捨てられると、赤い光を伸ばす電磁剣で串刺しにされる。
顔を上げた附柴。その顔が引きつった。ヒビが入ったのはシールドモニターではなく、世界そのもの。そう思ってしまいそうになる光景が目に入ってきた。
暗がりで歩兵する巨人。1体だけじゃない。大きな人の姿で戦地を歩く生物は増えていた。動く大木。冥界の樹海に迷い込んでしまったかのような世界を、現実として認識するのに数秒を要した。
ほとんどの大木は、走り回る虫を捕まえるみたいに手づかみで取ろうとしている。大木の下で光を放ちながら逃げる隊員。蛍と形容するにはいささか攻撃的過ぎるだろう。どうにか弱らせようと、闇雲に蹴ろうとしているが、反撃されて足を切断されている。黄色い光を放つ
武器を持っていない大きな生物は、左手を真っすぐ伸ばし、軽く拳を作って構えた。狙いは附柴紘大ただ1人。親指を弾くように、人差し指をピンっと伸ばす。
繰り出された爪は飛行距離と共に鋭角を極め、附柴のこめかみに被弾する寸前、附柴の頭が素早く前に傾き、附柴の姿は消えた。
走り抜ける附柴を捕まえようとする生物の細胞片。今雑魚に付き合っている暇はない。完全体の生物こそ、今すぐ消さねばならない存在だ。
襲いかかる細胞片をすべて吹き飛ばす強い電力を纏いながら、ブーストランの速度を出せるのは、電気を操る能力に長けた附柴ならではだろう。
一時的に、附柴は限界速度を超えた。優れた動体視力を持つ完全体の生物でさえ、捕捉するのは困難。現に、あっさりと足下をすり抜けられた。赤い光が生物の体に
反応すらできなかった。生物の体がぐらつき、膝をつく。次々と完全体の生物の肉がえぐられ、肉片が飛び散った。
細胞を壊死させるまではいかない裂傷。しかし動きを鈍らせるだけなら有効だ。生物はすぐに立ち上がることができない。附柴の電撃、あるいは電磁剣を受け、耐えがたい熱さが
附柴は鋭い眼光を血走らせ、残りの完全体へ疾風の
あの武器を持たせるのは危険と見た附柴は武器を奪う算段を立てていた。奪った後は壊すか、簡単には取り出せない場所へ棄てる。そうすれば、攻撃のパターンはある程度絞れるはずと考えた。
そのためには、武器を持つヤツの手足を使えなくする。隙を突くくらいできる。附柴は確たる自信があった。
隊員に就いてからというもの、何体のブリーチャーを殺してきたか数える気にもならない。それだけ殺してきた自分なら、どれだけ進化しようが殺してみせる。
自分は選ばれた。神の戦士に。ウォーリアはブリーチャー共を殺すための能力。殺しが正当化されるのは、同族を脅かす存在のみ。だから隊員になった。
神の戦士の力が殺すための力なら、使わなきゃ意味がない。殺す側はウォーリアだ。附柴は言い聞かせるように心の中で唱えた。
武器を持つ生物まで25メートルを切った時、附柴は突然走る軌道を変える。その速度と走法、実に軽快だった。
生物の背後に回り込み、背中に携えた銃口を向ける。蝋燭の火の先が伸びるように、赤い一筋がまたたく間に空中を飛翔した。
生物に避ける時間も与えなかった。附柴の速度についていけなかった生物では、当然の結果とも言える。生物の胸の真ん中に穴が空き、うつぶせに倒れていく。握られていた武器が手から離れ、鈍い転倒音が鳴り響いた。
生物が無防備になると、附柴はすぐさま飛びかかり、生物の上に着地する。今にも再生しようとする胸の穴の内側に手を突っ込んだ。柔らかい肉の感触に嫌な顔をせず、ほくそ笑む。すると附柴の体から光のオーブが出現し、ドーム状に形を成す。
異常な電磁波を感知した木戸崎と下田、蓬鮴は視線を弾いて捉える。
3人は危険を察知する。木戸崎は叫んだ。
「全員電磁シールド!」
ひっ迫した木戸崎の声が
そして——附柴から発せられたドームが薄い膜に覆われた瞬間、範囲を広げた。
強力な赤い光が急速に周囲を呑み込んだ。呑み込まれたあらゆる物が異様な摩擦音と爆風の餌食となり、すべてを赤く染め上げた。
附柴の超強力な
擦り切れたいびつな音を氾濫させ、深紅の大きなドームが深い夜を照らしている。目を開けてられないほどの光は、
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