karma9 揺らぐ戦場の主導権
互いのエネルギーは宙で消失するも、余波は生ぬるい風圧を寄こして広がる。間髪入れず、上空で旋回する戦闘機が不可視光線のレーザーを照射する。
生物は被曝したが、完全壊死には至らない。生物は空で飛び回る戦闘機を気にするも、攻撃を加えようとする仕草はなかった。
風圧に煽られることもなく、腐敗臭が漂う戦場を駆ける附柴は、左腕の再生も完治した生物に苛立ちを覚える。五体満足で暴れ回る生物の動きといい、緩急をつけた武器の扱い方といい、
更に、周りの動きに適正な対処をする様は、この戦況の行く末を確信しているかのようだ。自身の中でくすぶる焦りは時間を追うごとに大きくなっているというのに、生物の余裕ときたらなんとも憎々しい。
体の関節という関節をへし折り、体中に釘を打ちつけて射撃訓練の
下田は物珍しそうに
見境のない電撃は嵐の再来よりたちが悪い。附柴は腰に差された黒い棒を取り、濁りきった鬱憤をすべてぶつける勢いで、生物に突っ込んでいった。
しかし、生物に捉えられぬスピードではない。差し迫った
タイミングは完璧だった。斬った手ごたえが伝う。
附柴の視界が映す斬られた物。附柴の口がほくそ笑む。
黒い棒が真っ二つになっていた。
冷静と言うには少々誤りを覚える附柴の心境であったが、反射に関して優れた神経回線を持つ附柴にかかれば、光速にも劣らぬ速度でも急停止から飛び退くことくらい容易くこなせた。
切られた棒は、断面が晒される形となった。円柱の棒は筒になっていたとわかる。そこから飛び出した青く光輝くワイヤーが、生物の体に絡みつく。生物の体を捕捉したワイヤーは生物の手足と腰、首に絡みつき、動きを封じた。
ワイヤーが飛び出している筒は形を変えて、地面に杭を打ったかのように突き刺さっている。
生物は絡みつくワイヤーを解こうと抗う。隙だらけの生物。今なら攻撃し放題だ。だが附柴は周りの再生しかかっている細胞片に狙いを切り替えていた。
「こちら附柴。全隊員に告ぐ! 応答しろ!」
附柴はワイヤーで捕捉した生物を破壊するなと伝えたかった。
「おい、応答しろ!」
附柴は鬱陶しげに眉に皺を刻んで舌打ちをする。
無数の細胞は依然として戦場を網羅していた。着実に細胞を殺し尽くしているものの、細胞を壊死させるだけの電力を注ぐには、それなりのエネルギーと集中力を要する。よって、電撃は適切な攻撃ではなかったと言わざるを得ない。
地上に転がっている肉片には、続々と復活の予兆を感じさせる。
十数分前まで手だけを作っていたが、現在ではあらゆる部位を形成させようとしている。とはいえ、基本的には攻撃の実用性を考えた箇所が多く見受けられる。具体的には手足が一番多く、頭もよく目にする。
攻撃の手段は実に原始的だ。殴打。矢継ぎ早に吹き荒れる攻撃は、弾幕に匹敵する。
雨あられの攻撃から避けられない場合には、放電して吹き飛ばす以外に逃れようがなかった。そうなると細胞が断裂してしまうことがあり、また再生する細胞の数が増える悪循環に陥っていく。
下田、木戸崎、蓬鮴、勝谷、西松、附柴。6名の隊員は肉片の殴打の乱舞に慌ただしく対応する。微熱が体を巡り、呼吸を落ち着かせる時間もタイトになっていた。
廃退の一途を辿る滝沢市は、すでに街の名残すらなく、野ざらしの地に変わっていく。
魔の濃霧は時折吹く、二次的な風に乗って空間に流れている。この戦いに終焉があるのか、それは神のみぞ知ると言うしかないのかもしれない。
その時、気まぐれな自然の風が柔らかに吹いた。神が伝えたメッセージのように、陰りの中に伝う。いくら人智を越えた能力を持つ者でも、それを受け取る者は、この地にいない。そしてそれが、朗報というわけでもないのだ。
一瞬のうちに空気が一変した。
がむしゃらに向かってきた生物の細胞片の攻撃が緩んでいた。
それに気づいた1人である木戸崎は、速度を落として周囲の状況に目を凝らす。向かってきている細胞の他に、宙に浮かんで止まっている細胞が複数。まるで何かを待っているかのような素振りで、じっと滞空している。
不穏な動き——動かない細胞は、これまでの攻撃姿勢と相反する。
よくよく観察すると、動かない細胞の多くが手の形をしていた。木戸崎は漠然と危惧を覚え、今のうちにやっつけてしまおうと、宙で滞空する細胞を攻撃優先対象に変更する。一気に速度を全開にし、突っ込んでいく。
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