16章 嵐の夜
karma1 予感
収穫を祝う
周辺の木々は茶系の葉をつけていた。軽く風に煽られただけで、葉は易々と落ちてしまう。路面の端では枯れ葉がこんもりと積もり、車が通るたびに引っ張られ、カラカラと音を立てていた。
気候的には木枯らしがいつやってきてもおかしくない。が、今日本が注目しているのは木枯らしでもなければ、ブリーチャーの襲撃でもない。
「台風の進路を見てみましょう。非常に勢力の強い台風は、上陸の恐れはありませんが、列島に居座っている秋雨前線に、南の暖かい空気を送り込む形となるため、中部地方、関東、東北では猛烈な雨となるでしょう。河川の氾濫、土砂崩れの恐れもあるため、充分な警戒が必要です。週間天気予報です。明日は全国的に晴れの予報ですが、台風が日本沖に近づくにつれ、雨マークとなるところが……」
氷見野は部屋で天気予報を見ていた。かなり強い台風らしく、大量の雨が降るようだ。台風がもたらす雨風による被害を最小限にとどめるべく、各地で対策が急がれていた。
今日は巡回も緊急出動の担当でもないため、休息にあてることにした。
いつもより遅めの朝食をとる氷見野は、せっかくの休みなのに任務はどうなるんだろうと仕事の心配をした。
今日緊急出動Aを担当する
「アップデートされた
竹中隊長の視線が隊員から逸らされる。隊員は一様に視線を追うと、保管室に入ってきた女性を捉えた。
「藍川隊員、遅刻だ」
竹中隊長は淡々と注意する。
「すみません」
藍川は笑って誤魔化しつつ、同所属の隊員たちの下へ駆け寄った。
「もう平気なの?」
琴海は不安げな様子で問う。琴海の声はいつもより張りがない。劣っているがために藍川を失いそうだったこと。足を引っ張った責任を感じていた。
藍川もきっと自分を足手まといに感じているに違いない。そんな後ろ向きな考えに囚われ、ここ最近藍川と連絡すら取らなかった。
藍川は縮こまった琴海の態度に首を傾げ、微笑する。
「平気だから来たんですよ。わたくしもまだまだ課題が山積しておりますから、早めに調整しておかないといざという時に出動できません」
そう言い、藍川は琴海に手を差し出す。
「また、お互いに頑張りましょう。わたくしたちなら、まだ強くなれます」
「うん……」
琴海は藍川の手を取り、握手した。互いに交わす瞳は活気を奮い、共に持ち合わせる強靭な意思を確かめるようだった。
「さ、メンバーも揃ったところだし、もう一度訓練の内容を説明しよう」
竹中隊長は改まって居直し、揺るぎない静を放出する瞳を隊員に向けた。
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