karma2 出陣前
秋が深まり、空は高く青さに富んでいる。日本で一番秋を先取りできるであろう北海道は、被害状況の把握と住宅復旧にいとまがない人々が右往左往していた。
一方、日本の南端の空では、中型のジェット機が複数飛行していた。日本の国旗を機体につけたものもあれば、アメリカの国旗が描かれた機体もある。ジェット機は一様に同じ方角を向いており、いつもよりもスピードを落として飛行していた。
その1つの機体では、
ブレイクルームの椅子に座る氷見野は
「大丈夫? 氷見野さん」
藤林隊長は薄く笑みを浮かべて前に座る氷見野を心配する。
「はい、ちょっと緊張してるだけなので」
「まあ緊張もするわな。アメリカとの合同任務を初めて参加する前は、どういう感じでやったらいいのか俺も不安だったよ」
東郷は藤林隊長の隣で自分の膝の上に足を乗せて回想する。
「え、そうでしたっけ?」
四海は東郷の回想に異議を唱えた。
「は?」
「いや、僕の記憶では、東郷さんが初めて参加した合同任務は、1人でだいぶ活躍されてたと思うんですけど」
「参加する前はって言ってんだろ。話の腰折んなよ」
「来次がそうだったんだから、そんなに心配することないよ」
いずなは氷見野の隣で携帯ゲームに夢中になりながら氷見野を勇気づける。
「いずな、お前ちょっと俺をディスってんだろ」
東郷は真正面に座るいずなに疑いの目を向ける。
「気のせい」
「本当か?」
「しつこい」
東郷は不愛想ないずなに深いため息で落胆する。
「一応俺先輩だからな」
「だからなに?」
「うわあー可愛くねえーーーー。氷見野さん、言ってやってくれよ。少しは先輩を
突然振られた氷見野は顔を困惑の色に染めて2人を交互に見た後、
「でも仲良さそうだからいいんじゃないですか?」
「あははははっ!! これでいずなに
藤林隊長は大きな口を開けて笑う。
「氷見野さんはいずなに甘いなぁ」
東郷は脱力するような顔で悲愴感を滲ませる。
「盛り上がってるね」
丹羽が仮眠室から出てきた。まだ眠そうな顔をしている。
「珍しいですね。任務や訓練の前はたいてい起きてるのに」
四海にそう言われ、丹羽の口から苦笑いが零れた。
丹羽は前に垂れた数本の髪をオールバックの髪に戻しながら四海の隣に座る。
「最近寝不足気味でね」
「あら? 女の子と楽しんでたのかな?」
藤林隊長はヤラシイ目で丹羽を見据える。その様子を見たいずなが
「そんなんじゃないよ。昨日友人の家にお邪魔してたんだ。帰りが遅くなってね」
「なにしてたの?」
四海が興味深げに問う。
「誕生日のお祝いさ」
「お前まさか二日酔いか?」
東郷はニヤけながら尋ねる。素行を正す臨戦態勢は、東郷の前のめりぶりに表れている。
「飲んでるってほどじゃないよ。ワイン1杯さ」
丹羽は澄ました顔でかわした。
「本当かね~」
藤林隊長と東郷は2人揃ってニヤニヤしながら、まだ疑いの目を丹羽に注いでいる。
「お2人とも底意地の悪さが出てますね……」
四海は呆れた様子で呟く。
「おい四海! 底意地が悪いってなんだよ」
東郷が氷見野の隣に座る四海をたしなめる。
「え、だって……」
「2人で気持ち悪いって言い合いながら見回りサボったことあったじゃん」
いずなが四海に代わってズバッと言う。
2人の顔がひきつり、顔を見合わせる。
「いやいや、あれ1回だけだし、なあ?」
「そうそう。あれ以来反省してはしごするお店も3件に減らしたし」
言い訳が酷い2人にいずなの軽蔑する眼光が差している。
「いずなも大人になれば分かる。そんなこともあるって」
藤林隊長はぎこちなく柔らかな笑みで取り繕う。
「いずなが20歳になった暁にはうまい酒を教えてやるよ」
東郷も藤林隊長の作戦に乗る。
「はあ……」
「そんながっかりしなくても」
藤林隊長がいずなの態度に小さく呟く。
その時、ブレイクルームの壁の上部に取りつけられたスピーカーが鳴る。
「伝令。
落ち着いた男性の声が厳粛さを持って伝えられた。
「お、来たか」
東郷は腰を上げる。他の隊員も同じく立ち上がり、背筋を伸ばしたり、体をひねったりする。
「さ、今日も暴れよう」
引き締まった顔で笑う藤林隊長が先立ち、
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