14章 死が導く希望
karma1 継承のお告げ
蓬鮴は1人小さな部屋にいた。白い机を挟んで黒いソファが向かい合う。天井にミラーボールが吊るされているが今はお飾り。その下にはお立ち台の壇と歌詞を見るためのモニターがある。
歌唱者が前に立って歌うお立ち台の右側では、視聴するための大きなディスプレイがアーティストのプロモーション番組を垂れ流していく。マイクもデンモクも小さなカゴに入ったままで、2つのマイクは透明なビニールが被せてある。
寂しげに美しい景色を代わる代わる映し出す壁紙プロジェクターを背にし、蓬鮴はソファに座って煙を吹かしている。ずっとやめていた煙草だった。最初の1本目を吸ってから10分しかたっていないのに、箱の中には5本しか残っていない。
テーブルに置かれた灰皿に煙草の火を押しつける。灰皿の中は煙草を敷き詰めたように埋まっていた。
灰皿の奥で飲みかけのメロンソーダがぽつんと置かれている。誰もいない、ソファの前に。
蓬鮴は自分の手前にあるカシスソーダの入ったグラスを取り、口に運ぶ。煙草、カシスソーダ。西松がこの部屋を出た後は、ずっとその2つを交互に口に運んでいた。
空になったグラスの底がゆっくり机に落とされる。コトンと小さな音が妙に響いた。大きなディスプレイから軽快な音楽が流れてくる。しかし、蓬鮴の意識は少し前の、つい2週間前のことを呼び覚ましていた。
暖色の輝きに彩られる店内のカウンターに大きな体格の男が2人。寂しげにスロージャズが流れていようが、他の客たちはアルコールに侵され、開放的な心地をまき散らしている。
刺激的な話で自慢する姿は、ここでは勇敢な戦士として称えられる。店内にいれば、そういった話は聞こうとしなくても聞くことができた。だが、そんな者たちとは違い、BGMと似た雰囲気と同調する
「なぁ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇか? 俺の跡を継ぐ奴ってのは誰なんだ?」
蓬鮴はグラスに半分入ったウィスキーに憂いの瞳を下ろして問う。
「安心するがいい。すでに継承は着々と行われている」
「もういるんだな?
「ああ、熱い魂を持つ若き戦士だ」
「西松清祐。この国の防衛を担う重要な人物だ」
火をつけた煙草は一度も吸われることもなく煙を吐き続け、半分を灰にしてしまった。
蓬鮴は手に持っていた煙草を吸い、煙草の先端を灰皿に押しつけ部屋を出る。完全に消しきれなかった煙草は、まだ紅い火を灯して煙を立ち昇らせていく。煙草の火は少しずつ
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