karma13 閃光の戦い

 西松たちもまた、攻電即撃部隊ever4の隊員の速さとテクニック、連携のよさに苦戦しており、なかなか攻撃に移れずあぐねいでいる。


 藍川と共に藤林隊長と武力を交えている琴海は、何かがおかしいと頭の中にある違和感に疑問を募らせていた。

 衝撃音がやけにこもって聞こえてくる。おかしなところがあるんだろうかとシールドモニターを確認しても、それらしい表示は見当たらない。


 藤林隊長は長く細い棒状のもので藍川と琴海の攻撃を防御したり、かわしたり、時には軽く反撃して距離を詰めさせないようにしたりと、巧みな戦闘術で2人をあしらっている。

 琴海は完全に手加減されてるとわかっていたが、いくら仕掛けても隙を見せず、打つ手も限られてきていた。しかしそれは単純にいつもより調子が悪いような気がしていたからでもある。そう感じつつ戦うのはどうにも気持ちが悪い。


「ねぇ! なんかおかしくないっ!?」


 琴海はたまらず尋ねた。


「何がですかっ!?」


 藍川は要領を得ない琴海の疑問に問い返す。


「変なのよ! たぶんARヘルメットの方だと思うけど」


 琴海は藤林隊長の棒術を大鎌のような武器で防ぐ。棒の先と大鎌の刃がぶつかって金属音をかち鳴らす。


「わたくしは何も問題ありませんよ?」


「何かされたのかも。気づかないうちにARヘルメットの誤作動を起こす方法があるのかしら!?」


「誤作動って?」


 琴海が藤林隊長に反撃するタイミングを見計らって、藍川が藤林隊長の死角に現れた。藍川の右手には細い砲身を持つ銃。電気的なエネルギーを弾とするショットガンが、藤林隊長の胸に突きつけられる。


 藍川は機体スーツ内の腕の中にあるグリップを迷わず引いた。バシュンッ!! といういびつな銃声が響く。すんでのところで、藤林隊長の棒の先が銃身を弾いて照準をずらす。

 青い卵の光の弾丸は藤林隊長の顔の横を掠めた。藤林隊長は素早く距離を取り、連射されるショットガンの光弾をかわしていく。


「音が制限されてるのよっ!」


 グリップを押し出し、元の位置に戻して、グリップ上部のボタンを押す。するとギュインという鈍い音がショットガンから鳴った。

 鈍い音は徐々に小さくなる。藍川の右手に持たれた変わった形のショットガンは砲身下部を光らせていたが、すぐに消えてしまった。砲身の下部にはLEDが組み込まれ、リロードが必要な場合には光るようになっている。


 弾丸は電力のため、機体スーツに備蓄された電力をショットガンに流すだけでいい。簡単で扱いやすい強力な武器に惚れた藍川は、即座にショットガンを選択していた。

 リロードを終えた藍川は琴海の疑問に思考を巡らせ、「ああ~」と声を漏らして表情を明るくさせる。


「音声チャンネルを制限してたからじゃないですか?」


「え、ああさっきの……って! 早く言いなさいよ!」


「忘れてたんですか?」


 藤林隊長は壁で横立ちになっている2人の様子を見ながら苦笑いを浮かべる。


「緊張感ないなー」


「みんな、音声に異変があるなら音声チャンネルを解放すればいいから」


 琴海は通信でBチームのみんなに伝える。


「あ、それでかー! なんかおかしいっと思ってたんだよなあ~」


 西松は両手首に出ているボウガンを乱射しながら移動していた。妹からの言伝ことづてを受け、早速音声を元に戻す。激しさを物語るやかましい音が流れ込んできた。


「なんだ、本当に戻してなかったのかよ」


 御園の声が呆れているような言い草で聞こえてきた。


「え?」


「まあ、キヨらしいと言えばキヨらしいけど」


 葛城は小顔の男とのマッチアップになりながらも通信に答える。

 放電する葛城の腕から電色の平らな板が飛ぶ。平面ではあるが、飛び出した板の先は後部よりもかなり薄くなって鋭利に見えた。

 切れる弾丸とでも言うべきか。ギロチンの刃を飛ばしているかのような弾は、ブリーチャーの触手を軽く切り裂く切れ味を誇る。小顔の男の機体スーツは切れる弾丸をも凌ぐスピードと、不規則な動きで葛城を翻弄した。


「まさか、兄と妹で同じミスしてるのか?」


 興梠は笑顔を浮かべて問いかける。


「た、たまたまよ! メグも間違えたでしょ?」


「私は大丈夫だったわよ」


 琴海の期待もむなしく、高杉はうっかりを演じることはなかった。

 高杉は後方からの攻撃を素早くかわし、反転してステッキで剣を弾き返す。弾かれたことで少しは隙ができるかと思ったが、攻電殻即撃部隊ever4の隊員の中でも純朴そうな青年の機転で、上部が球状のステッキによる反撃をかわされてしまう。ヒットすれば、一気に電気が流れるスタンガン攻撃になる。


 高杉は逆に攻撃を与える隙を見せてしまい、近距離で銃撃を受ける。

 腹に受けた銃撃は物理的なマシンガンのため、機体スーツの特殊な素材を破壊する攻撃力はないものの、受けたら受けたで焦ってしまうのが人間のさがである。異様な衝撃がパニックを引き起こし、速やかに対応しなければと思う。

 逃げる選択もできる。ただ同じくらいのスピードを出せる機体スーツならば引き剥がすのは難しく、大量に撃ち込まれるのは必至だ。

 摩耗まもうする機体スーツは機能の不具合を起こし、着用者にリスクを抱えさせる。


 戦っている最中であれば簡単に修理することもできない。

 逃げられる状況にない場合、不具合の中でも任務をこなす、あるいはどうにかして退却するという手段を持っておかなければならなくなる。


 それでも、攻電即撃部隊ever4の隊員の男は逃亡する高杉を追いかけなかった。軽やかに御園の奇襲に反応して避ける。男は近距離で御園に銃口を向けた。それと同時に振り上げた刃が銃身を切り裂く。

 刃は刀のそれではない。御園の掴むグリップをくるりと囲み、半円の刃が突き出されていた。大きく取られた身幅みはばは主張するかのように禍々まがまがしく光っている。

 危険を感じた男はすぐさま距離を取ろうとするが、男が逃げると察知した御園が男の後ろにつける。F1クラスのスピードによる鬼ごっこが始まった。


「やっぱりお二人は兄と妹なんですね」


 藍川はクスクスと笑う。


「ちょっとミズ!! 今のはどういう意味よ!」


「なんかすげぇ失礼なこと言われた気がすっぞ!」


 兄と妹は藍川に突っかかる。


「まあいいだろ。仲がいいんだったらなんでも」


 興梠は微笑ましくも緊張感のない話に和みつつ、目の前の敵を注視する。

 興梠は大柄な男とマッチアップする町戸を援護しながら、近接攻撃に加わっていく。

 最初は見たこともない武器に苦戦し、対応の仕方がわからなかったが、どういうダメージをもたらす攻撃かを把握してからはすぐに対応できるようになった。これは半分ほどARヘルメットのおかげでもある。

 ただ、攻電即撃部隊everの突発的な加速を捉えるのは難しく、町戸と興梠の2人で仕掛けて、一発もまともなダメージを与えることができていない。


 琴海と西松がいじられている間に、氷見野はしれっと音声を解放した。思ったよりも激しい音が油断した耳に入ってきて、眉根まゆねがキュッと引き締まる。

 膝をついていた氷見野は立ち上がる。

 氷見野の機体スーツはかなりの損傷を追っていた。氷見野が見つめる先にいる、いずなの機体スーツは無傷。機体スーツの性能の差もあるが、3分の間に常人の速度を超える中で刃を交えれば、自分が圧倒されている戦況だということも感覚レベルで思い知らされる。


 氷見野が持つ乱れていた刀身が、鈍い音を立てて形を取り戻す。

 いずなは無表情のまま片腕を上げて前に真っすぐ伸ばす。刀は横に傾けられ寝ている状態。あまり見たことのない構え方だ。

 すると、伸ばした腕の下から銃身が出てくる。銃はカラスの鳴き声のような音を出して発砲された。

 すぐさま逃げていく氷見野。こういう時は相手の味方を盾にして撃てなくすればいい。弾道にいずなの味方が前に入るよう移動する。卑怯だが一番有効な方法だった。


 いずなは砲撃をやめ、ブーストランで移動する。

 他の機体スーツが動き回っていると、他の隊員とぶつかりそうになることは多々ある。

 Bチームの隊員の機体スーツなら、ARヘルメットが反応してくれるので大丈夫だが、攻電即撃部隊ever4の隊員の機体スーツは速過ぎて避けるのに苦労してしまう。

 氷見野は周りの動きを把握しつつ、流れ弾や激しく打ちつける音が反響し合っているような戦場を逃げていく。


 氷見野は後ろを振り返った。しかしすぐに氷見野の隣に影が現れる。氷見野は無防備になってしまった現状にフリーズした。

 またあの痛みを受ける。そう頭によぎった瞬間、いずなの剣が氷見野の機体スーツを通過した。

 機体スーツの中にある氷見野の体さえも通り抜ける。氷見野はよろけて尻もちをついてしまう。


「うっ……!」


 体を貫くような強烈な痛み。剣が通り抜けていった体の内部で起こる異変は、訓練でみんなに与えられたダメージとはまるで違う。内側で血管や臓器が締めつけられている気がする。息が苦しくなり、動きも鈍くなっていく。

 氷見野は四つん這いになる。機体スーツ内の暑さが異常に高まっていた。全身を蒸し焼きにされるかと思うほど、一刻も早く機体スーツを脱ぎたい衝動に駆られる。


「立て」


 通信されて届いた声は、冷たい色を持っていた。背後から双剣の切先を向けるいずな。

 いずなの顔は何度も見てきた。機体スーツを着てるいずなも、ブリーチャーと戦っているいずなも。だけど、今近くで立っているいずなは、戦禍に立つ鬼神のようだった。

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