karma12 対決
「ずりーなぁお前」
オレンジ色の短髪の男はいずなに嫉妬の念を投げる。
「ターゲットを決めるのは自由でしょ。あんたも決めればいい」
「じゃあ僕は西松君にしようかな」
爽やかな小顔の男性は舐めるような視線で西松を見つめる。
「おいおい、あんまり勝手な行動はするなよ? いつも通り、協力していくぞ」
髪を結った藤林隊長は苦笑しつつ方針を確認する。
「へいへい」
オレンジ色の短髪の男はつまらなそうに返事をする。
「いずな。じゃあ彼女は任せるよ」
「うん。助太刀はいらない」
「了解」
「なんかすっげぇ! 氷見野さんって島崎さんとなんかあるんっすか!?」
西松は目を輝かせて尋ねる。
「え、ま、まあ、あったような、なかったような……」
氷見野は西松のテンションの上がりように戸惑いながら視線を泳がす。
「そんなことより、どうすんの? 指名されちゃったけど」
琴海は呑気な兄貴を差し置いて問いかける。
「やるしかないんじゃないか? こういう場合、先輩に言われたら勝負するのが筋だし」
興梠は含み笑いを浮かべて意見する。
「いいのか? 氷見野さん?」
御園は微笑しながら問いかける。
「大丈夫。覚悟はできてる」
まったく覚悟できていなかった。だがもう引き下がるタイミングを失っているような気がして、強気な言動に努める。
「ま、お互い怪我しないように頑張ろうぜ」
西松は興奮冷めやらぬまま
「藤林。もういいか?」
車屋隊長は少し待ちくたびれた様子で聞いた。
「ああ始めよう。祝杯のパーティーだ」
車屋隊長の頭の中にある近々の記憶が、藤林隊長の言い草に反応するも、今は訓練の進行を優先する。
「カウント5、4、3、2、1……0」
車屋隊長の通信が0と共に切れる。同時に、常人の動体視力では捉えられない速度で、移動を開始するBチーム。だが氷見野は1人、まったく動かなかった。悠然と立ち、
試合が開始されて1秒。会場の端に現れた葛城の
その時、1体の
光の中に埋もれる
葛城の目くらましの光をよけた素振りのない隊員たちに、違和感を覚えた西松たちだったが、走り出した試合を止めるのは隙を生む気がしてできなかった。
ここでは一時の油断が致命的な事態へとつながる。違和感に囚われることをやめ、試合の中に意識を集中させていく。不服ながらも葛城に合わせて
一方、光の中から飛び出したいずな以外の隊員は、動じる様子もなく立ち
「見えねぇー」
オレンジ色の髪をした大柄な男は余裕げに呟く。
「視界を奪う小細工、考えたね。発光時間も長い」
スタイリッシュな男も呑気に状況を報告する。
「じゃ、こっちもやるぞ」
後ろに回り込んだスタイリッシュな小顔の男は、透け感のある薄黒いシールドモニターの奥から不敵な笑みを見せ、西松の後頭部に片手をかざす。
形状こそ生身の人間の丸みを模しているが、素材はまるで違う。強化質のカーボン金属に覆われた手から、浮き出すように青い膜状のものが飛び出した。
西松は無数にヒビの入った青い膜を被った。その瞬間、体が重い衝撃を受ける。ブーストランで飛び上がっていた西松は落下していく。
すぐに意識を取り戻した西松は着地する。上に頭を振ると、雷かと思うくらいの光が筋となって向かってきていた。とっさに両腕で顔を覆い、瞬間的な電磁波を前面に向ける。
衝撃は四方八方に分散されていく。互いに衝撃の反動を受けて反発した体が飛ぶも、分散された分、威力は減少する。飛ばされる距離はそれほどでもない。それは、すぐに攻撃へ移れるということを意味していた。
西松と力試しをする小顔の男は、地面に足がついた瞬間、片足で踏み込んで一気に西松に突撃していく。西松は男の動きを逐一捉えていたが、体勢がのけ反った形となったまま後ろに弾き飛ばされていた。
たった0コンマ数秒の間に、この状況がまずいと判断できた西松だが、すでに後の祭り。爽やかな男より遅れて着地し、弾き返そうとするも、西松の
ものすごい勢いで後ろに飛ばされていく。しかし西松が飛ばされる方向へ葛城が回り込んで受け止めると、2人は声を掛け合う暇もなく、その場を動き出す。すると、追い打ちをかけてきていた小顔の男が、鎖状の電気を発する拳を振るって西松と葛城がいた場に現れる。
「ふぃーーっ! あぶねーぇ!!」
西松はおっかない先輩隊員の攻撃に思わず声を漏らす。
その間、氷見野といずなはお互いに相手の様子を
氷見野はいずなの動きの細部にまで注意を払う。
おかしな動きはないか、攻撃の予兆はあるか。タイミングなどはすべてシールドモニターに任せているが、モニターだけに頼るのは問題がありそうだ。5歩踏み出した足が深く下りて、膝が曲がる。
限界突破の速度で走るいずなは、待ち受ける氷見野へ突進する勢いで電撃の剣を振るった。氷見野もブーストランの速度でいずなの剣を避けて下がる。が、氷見野が動いた距離はほんの10メートル。隙あらば追撃できる距離だ。
避ける流れでしゃがんだ氷見野の片手が後ろの腰に回る。いずなは立て続けに片手持ちの剣を突き刺すように伸ばした。
すると、バチっという激しい音を立てて、いずなの剣が弾かれる。反動で互いに後方へ少し飛ばされるも、体がふわりと飛ぶくらいでは体勢を整えるのは朝飯前だ。
見合ったいずなと氷見野。距離は7~8メートル。ARヘルメットが表示した距離は氷見野と同じ。そして、同じなのはもう1つ。いずなは表情を変えることもなく、氷見野の持つ手に注目する。
互いの刃に重さはないため、非力な女性でも持つことが可能だ。本物の剣や刀のように重さがあるからこそ感じる、空間の中に存在する感覚。その感覚によって、空間の中で斬る対象を正確に捉えている。
物質と密接に関わり、利用している生命は、感覚的に物質を捉えている節がある。すなわち重さである。それが質量に関するものだけではなく、物質の振る舞いにより受ける抵抗も加味され、重さを感じている。
空間の中に刀がどの位置に存在しているかというセンサーみたいな役割を果たし、運動のエネルギーをどれくらい加えれば、空間をどれだけ移動するかもわかってしまう。
しかし、2人の刃にはそれらの法則にそぐわないことが少々ある。そう、少々だ。
この少々はあくまで一般論であり、彼らウォーリアという特殊な新人類からしてみれば大きな違いがある。そう認識できなければ、電撃の刃は味方も自分をも斬ってしまう。
敵の脅威であり、かつ正確な操作ができる安心が必要だった。細かな部分まで感覚的に調整できるいずなは、見せつけるように構えた氷見野の刃に惑わされることはない。
反った長い1本の刀身、太刀と呼ぶに相応しく、
いずなは氷見野の刀に臆することもなく向かっていく。
2本の刃が獣の牙のように氷見野に襲いかかる。反応するのもやっとで、ARヘルメットさえいずなの速度を捉えられていない。それも問題だったが、今は他のことが気になり、氷見野の動きはいつもより鈍くなっていた。
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