karma10 ドッキリ大作戦

 攻電即撃部隊everに入って1ヶ月半が経過するまで残り3日。本格的な任務に就く日が迫る中、新隊員はそれぞれの緊張を携えて待ちわびていた。不安と希望が堂々巡りを繰り返し、揺れる精神と抗う。

 そんな時だった。東防衛軍基地事務局から、19名の新隊員のコネクターにメールが入った。


『伝令。明日19時、機体スーツ着用の上、第二訓練室へ』


 戦闘訓練や攻電即撃部隊everの入隊試験の時も同じ訓練室でやっているなじみのある訓練室だ。

 この日程はずいぶんと前から伝わっていた。だが最近はずっと第一訓練室で機体スーツを着ての動作訓練や戦闘訓練をしている。急に変更になった訓練場所。新隊員たちは疑問を抱くも、それ以上のことは何も書かれてない。

 特に深く考えることもなく、また反復練習と戦闘訓練だろうと思っている新隊員が大半だった。


 そして翌日。新隊員が保管室に集まる。各新隊員は本格的な任務に就くことを見据え、最近は機体スーツモデルを固定して使っていた。モデルはそれぞれ使う武器や機能性によって異なった機体スーツとなっている。

 氷見野も他の隊員と同じく、愛用している機体スーツを機着子宮器に着せてもらう。グレーと白の機体スーツは、他の機体スーツに比べて少し脚が細くなっている。氷見野はヘルメットをつけ、機体スーツを着がえ終えると、床板が上昇していく。

 氷見野と他の新隊員たちは第二訓練室に会する。訓練室には機体スーツを着た現役隊員が集まっていた。


「みんな俺たちの前に集合~」


 藤林隊長が通信を使って新隊員を呼ぶ。

 いつもの訓練とは違って指導する現役隊員が多い。戸惑いを覚えながらも藤林隊長の指示に従う。


「突然場所変更しちゃってごめんねー! ま、こっちは予定通りなんだけどー」


 藤林隊長はサラッと気にかかることを言う。


「あの、どういうことっすか?」


 西松は困惑しながら聞く。


「ドッキリだよ。ドッキリ! 新隊員となった君たちの活躍を見込んで、特別訓練を企画したんだよ」


「特別訓練?」


 氷見野は戸惑いに心をざわつかせつつも、ヘルメットのシールドの奥にある顔を見つめる。ざっと見で10人はおり、その中にはいずなもいた。藤林隊長の他に車屋隊長もいる。ここにいる人たちは、攻電即撃部隊everの2部隊のメンバーらしい。


「僕たち攻電即撃部隊ever4、攻電即撃部隊ever1が適役になり、君たち新人隊員が協力して殲滅する訓練だ」


 藤林隊長は不敵な笑みを浮かべて言い切った。ゾッとするような訓練内容に戦々恐々とする新隊員。


1ひと試合15分の1回勝負。戦える人数が少ない方が負けね。じゃ、チーム分けするよー」


 藤林隊長は困惑する新隊員を置いてけぼりにしてマイペースに進めていく。


「じゃあニュージェネレーションAチームから。あ、それとチーム振り分けで名前呼ぶ時に、今後の所属先も発表しちゃうね。ちゃんと聞いておいてよー」


 このタイミングで発表されるとは思わず困惑する新隊員。藤林隊長のつけているヘルメットのシールドモニターに、新隊員のチーム分けが表示される。


「じゃ、Aチームからね。攻電即撃部隊ever2、鳩磨英知はとまえいち、江夏源太、佐川保勇さがわやすお


 シールドモニターに表示されるチームメンバー一覧にも、所属先がちゃんと明記されている。


攻電即撃部隊ever3、狩野充弥かのうみつや福富愛理ふくとみあいり攻電即撃部隊ever5、勝谷篤朗」


 勝谷は舌打ちをして悔しそうに顔をゆがめる。


攻電即撃部隊ever6、羽紅飛鳥、志部冬樹しべふゆき攻電即撃部隊ever8、松下右趙まつしたうちょう攻電即撃部隊ever9、桶崎謙志。ここまでがAチームね」


 新隊員の中では小さなどよめきが右往左往していた。 


「おい、嘘だろ!? これ来たんじゃね!?」


 西松は俄然興奮している。

 攻電即撃部隊ever4有力候補と思われていた桶崎が攻電即撃部隊ever9に所属することが決まった。これで呼ばれていないBチームのメンバーの中に、攻電即撃部隊ever4に入る者がいるとわかったのだ。


「ふん、お前とチームかよ」


 桶崎の耳が不快感を示す声色を受信する。視線で捉えた時、勝谷はイラついた様子で睨んでいた。しかしすぐさま勝谷の口に笑みが零れる。


「フッ、だがさすがのお前でも、エリート街道まっしぐらとはいかなかったようだな」


 勝谷の挑発にうんともすんとも反応しない桶崎は勝谷から視線を外し、目の前で待機している現役隊員を見つめる。

 機体スーツに覆われた右手が胸元まで上がり、固く閉じる。現役隊員とのマッチアップ。自分がどこまでやれるかを試すには絶好の機会。桶崎は気合に満ちていく。


 食い入るようにこちらを見つめてくる桶崎の様子を車屋隊長の瞳が捉えた。末恐ろしい威圧感。そこらの新人が発することのできるものじゃない。

 高鳴る鼓動と湧き上がる熱は彼の闘争心を引き出す。それが自分たちに向けられているとはなぜだか思えなかった。

 ただそれがどこに対してなのかわからない。何が彼をそうさせているのか、彼の強さもまた、稀有けう同様、謎に包まれていると感じていた。


「残りBチームな。攻電即撃部隊ever1、御園聡一、興梠哲。攻電即撃部隊ever4、氷見野優」


 ドクンと心臓の音が跳ね上がった。まさかの名前が呼ばれ、目を点にした西松たちが氷見野に視線を注ぐ。


「……嘘」


 氷見野はパニックになって息をつくように漏らす。同じく驚きを見せるAチームの隊員。勝谷の眉間には皺が刻まれている。


「すげぇっ!!! 氷見野さん!!」


 西松は興奮した様子で氷見野に詰め寄る。


「ユウ、すごい! ってか、なんで!?」


 琴海は自分のことのように喜ぶ。


「何はともあれ、ひみゆう氏は攻電即撃部隊ever4に入る素質があるということですね!」


 藍川は鼻高々と言い切る。

 Aチームの話すことも少なかった新隊員からも褒められ、氷見野はぜる祝福の雨に慌て、みんなをなだめる。それぞれ氷見野に群がり称えているが、チーム振り分けを発表していた藤林隊長はやるせない気持ちになってしまう。


「あの……みんな聞いてる?」


 しばらく藤林隊長の声は届かなかった。



 新隊員の興奮が収まり、ようやくチーム振り分けが終わって特別訓練へ移っていく。

 まずはAチーム対攻電即撃部隊ever1の勝負から始まる。壁の一部が引き出しのように出てくると、壁から突出したゴンドラの側面が開く。


 Bチームは、壁から出てきたゴンドラに入るよう攻電即撃部隊everの現役隊員に促された。

 憧れの攻電即撃部隊ever4と、天井のない狭いゴンドラで一緒になると意識したせいで、西松たちの顔に緊張の色が濃くなる。特に琴海はガチガチになり、口数も少なくなっている。握手してくださいとファンみたいな反応をする兄とは真逆だ。


 ゴンドラは上昇し、5メートルほどの高さで止まる。それでも天井まではまだまだ余裕があり、候補生時代に走っていた体育館のような訓練室と同じくらい高い。

 Aチームと攻電即撃部隊ever1は下で十数メートルの間を取って対峙している。Aチーム10人、攻電即撃部隊ever1の隊員は6人。数こそハンデがあるものの、相手は幾千も戦いをこなしている隊員だ。

 経験も、技術も違えば、攻電即撃部隊ever1側はカスタムされた機体スーツを着ている。この人数差がないと訓練にならないのかもしれない。


「最高目標は15分以内に我々攻電即撃部隊ever1を戦闘不能にさせることだ。今回に限って、我々をダウンさせたら倒したと見なそう」


 車屋隊長は前で並ぶAチームの新隊員たちに説明するが、最高目標は絶対無理だろと思う隊員がほとんどだった。

 だが、この訓練が攻電即撃部隊everに入った新隊員の今後の処遇に関わるのではないかと勘ぐってしまう。もしそうなら、死ぬ気でやる必要があるかもしれない。


「さ、準備を始めよう」


 両チーム機体スーツのブーストランを解いていく。


「両者ともいいか? カウント5で開始だ」


 藤林隊長が通信で互いの隊員たちに伝える。Aチームの新隊員は敵となる攻電即撃部隊ever1の隊員を見据えて身構える。


「5、4、3、2、1――――――0」


 合図と同時、前に並んでいた攻電即撃部隊ever1の紫と白の機体スーツが消えた。桶崎は反射的に後ろに下がる。後ろに下がったその次、視界に入ってきたのは自チームの新隊員が、頭を床に叩きつけられている光景だった。


 ブーストランで敏捷性びんしょうせいを高め、攻電即撃部隊ever1の隊員の速攻をかわしたAチームの隊員は4人。桶崎、勝谷、羽紅、江夏。4人はいきなり見せつけられ、愕然とする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る