karma3 隊員の自覚
氷見野たちは食堂で昼食を取ることになった。
候補生も隊員も同じ食堂になるため、最近新隊員となった人たちは一時の脚光を浴びる。
食堂に向かう際、候補生として一緒にやってきた身覚えのある顔が、すれ違い様に西松たちを祝福していた。西松たち男性陣と一緒にいるところを見たことがある人たち、というくらいの認識しかない。氷見野とは訓練でしか関わりがないながらも、お祝いをしてくれて少し照れ臭くなる。
見慣れた食堂の空いている席に着くなり、西松は嬉しそうな様子で口を開いた。
「やっと着れるんだなぁ。楽しみだな~。やっぱりすげぇ機能とかあるんだろうなー」
西松は妄想を膨らませているようで、顔がだらしなくほころんでいる。
「アホくさ。何浮かれてんだか」
琴海はボンレスハムが乗った焦がし醤油の黒いチャーハンを食べながら、兄の子供っぽい様子を一蹴する。
「ふっ、おことはまだまだだな。男のロマンってもんがわかってねぇ」
西松は目の前に座る妹の罵倒をいなしてあざ笑う。琴海の表情がより一層険しくなった瞬間、琴海の足が机の下で振られる。容赦ない琴海のトーキックが西松のすねにヒットする。
机がガタッと揺れた。西松は急いで椅子を引き、左足を引き上げ悶絶してうつむく。負傷したすねを押さえ、プルプルと震えている西松を
「おこと言うなって言ってんでしょうが」
声色を低くした琴海にビビる氷見野。
「だが、
興梠は難しい顔をして疑問を呟く。
「練習用の
「オーダーメイドは武器と性能と言ってましたからね」
葛城と藍川がすんなりと答える。
「でも、基本動作しかできない
琴海は不満げに漏らす。
「オーダーはどこまで聞いてくれるのか未知数だな」
悩ましい表情で語る興梠。氷見野も興梠と同じように考えを巡らす。武器は何がいいのか、まったく考えてなかった。
「琴海ちゃんは決めてるのか?」
御園はパスタを頬張りながら聞く。
「まだ考え中。正直後で考えればいいかなって思ってるのよね。基本操作もわからないんじゃ、どういう武器がいいかもよくわからないし」
「試す機会があればいいんですけどね」
藍川は苦笑いを浮かべて希望を述べる。
「生身の時と
御園も難しい表情をした。
「氷見野さんは決めました?」
葛城は行き詰まる面々をよそに氷見野に振った。
「私はまだ」
「ま、なんにせよ、次の
御園は目を細めて隣を見ながら言う。西松は涙目になりながらすねを擦っている。
「お前、早く食えよ。準備もあるんだからな」
「だったら目の前の生意気な妹をなんとかしてくれ」
「お前の妹だろ? 他人に押しつけるなよ、お兄ちゃん」
氷見野は肩を揺らして笑う。氷見野の笑顔につられ、葛城たちも笑い出す。
兄妹の微笑ましい喧嘩。なんだかんだで、2人は仲がいいのだろう。自分に子供がいたら、こんなことも家の中で起こってるのかもしれない。
笑顔の裏で、心に一つの雫が触れて伝っていくような感覚が残った。
午後2時40分。氷見野が地下10階にある隊員のみ使用できる更衣室に入ってきた。
氷見野は1つのロッカーの前に立つ。氷見野専用のロッカーだ。
そんなことより、氷見野は中にある服を着なければいけないことが憂鬱で仕方がなかった。
他の女性隊員も氷見野と同じ嫌悪感を抱いているようで、更衣室の中に楽しそうな声が聞こえてくる。でも、氷見野が見る限り、その女性はスタイルが良く、むしろスタイルを自慢できる服になってしまうんじゃないかとさえ思った。自虐からの否定というお約束。自慢をしているような気もする。
氷見野は気だるげにトートバッグをロッカーに入れた。
再び地下11階の攻電即撃機保管室にやってきた隊員たち。張り切っている者、緊張している者、冷静に待機している者。それぞれの様相が混在していたが、氷見野は緊張と恥ずかしさから、部屋の端で1人だけぽつんと立ちつくしていた。体を両手で隠し、ソワソワしている。氷見野の視線は右へ左へと移り続ける。
「なに縮こまってんの?」
ピッタリと肌に密着する灰色の文様とピンクを主体とした服から、うっすら浮き上がるハリと筋肉。自分にもこんな時期があったようななかったような。考えてみたが、若い頃もこんなにスタイルのいいことはなかった気がしてまた落ち込む。
「なんか、慣れないなと思って」
氷見野は苦笑いを浮かべる。
「ひみゆう氏は悩殺的なボディを持ってますからね」
ニヤニヤしながら藍川が近づいてきた。これまたスラっとしていてスタイルの良さが
「どうかした?」
「あ、ごめんなさい。可愛いなと思って」
当の藍川は首をかしげる。
「ユウはミズが眼鏡外すところ見るの初めてだっけ?」
「違うけど、あのほら、ミズが眼鏡かけてないと印象変わるでしょ?」
「あぁ、男っぽいもの着ると余計わからなくなるのよね」
「ランドセルを背負えば小学生にもなれます」
藍川は腕組みをして得意げに話す。
「そこ威張るとこなの?」
琴海は渋い顔をする。
「とにかく、恥ずかしがっててもしょうがないでしょ。特に変なとこないし」
「みんなスタイルいいから。私って落ち目かなって」
琴海はため息をつく。すると琴海は氷見野の頬に手を伸ばす。
「いたっ!」
琴海に頬をつままれ、顔をゆがませた。
「バカなこと言ってんのはこの口ですかぁ? それとも、私は40代のおばさんだけどこんなに良いスタイル保ってるんですぅって言いたいのかしらぁっ!?」
琴海は濁らせた声で氷見野に詰め寄る。
「こおい、いあい……」
琴海の手が離れ、氷見野は痛みを発する左頬に手を当てる。
「あんたは新人グラビアモデルですか。自意識過剰でしょ。そんなこと考えてる余裕があるなら、
「そ、そうだね。ごめん」
氷見野はジリジリと痛む頬を擦りながら緊張している口角を上げる。
「ひみゆう氏は大丈夫ですよ。むしろ変な目で見られるのではないでしょうか」
「それが嫌なんでしょ」
琴海は危険な人を見るように藍川を睨む。
琴海と藍川と話していたら、カプセルの中にあった
今日の予定や取り組み中の作業の
光の筋は忙しく動きながら空気中に映像を作り出しているようだ。足、腰、腕、肩、頭と映していく。その人は
2Dの
「午後3時だ。早速進めるが、俺は時間通りに来てない奴のことを感知するつもりはない」
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