karma2 コスプレ幼女は機体製造者

 ガシャンというローテクな音が鳴り、天井の一部が下りてくる。一畳ほどの大きさの天井がゆっくり下りてくるのをまじまじと見つめる隊員たち。柵に囲まれた昇降機のようだ。中には寝転んでいる人の姿があり、降下する床にも動じることもなくじっとしている。

 栗色の髪が頭部の形に沿って丸みを作っている。首から下はどこかの学校の体操着だ。

 簡素な荷物用エレベーターが地面についた。氷見野たちから見えている黄色の柵がスライドして開く。寝転んでいる人は体型的に女性のようだ。


「おい、起きろバカ」


 竹中隊長は寝転ぶ女性の腰に足を乗せ、体をゆさぶる。


「ん~~あクト死を口にするが、新隊員にはずっしりと重みを感じるものだった。ういういしい気力がみなぎっていたのに、盛り下がり方が尋常じゃない。


「他には?」


 竹中隊長は相変わらず淡泊な態度で新隊員たちに投げかける。


「あの」


 誰もが静まり返る中、氷見野はおずおずと手を挙げる。


「どうぞ」


攻電即撃部隊everの方々の訓練を何度か拝見させていただきました。みなさん、時々目に見えないくらいの速度で動いてましたけど、機体スーツを着ればあの速度で自由に動けるものなんですか?」


「ああ、ブーストランのことね」


 どうやら海堀はやっと目が覚めてきたようで、大きく伸びをしている。


「ブーストランは、簡単に言うといわゆるターボできるわけだけど、人間の動体視力を超えてるから、ヘルメットのレンズを通して知覚できるようにしてる。でも、体感に関しては慣れでやってもらうしかないね。きっと機体スーツの操作説明があるからその時に教えてもらって、じゃんじゃん使って慣れていけばいいよ。さてっと」


 海堀は腰を上げる。


「もういいかな。修繕依頼があるから、そろそろ移りたいんだけど」


「だから早く起きとけと言ったろ」


 竹中隊長は呆れた口調でさげすむ。


「昨日はパイブロに揉まれてたんだよー」


「ネットの占領ゲームにうつつを抜かす暇があるなら体調管理に気を配ったらどうだ?」


「ゆきこにだけは言われたくないね」


 そう言うと、薄く笑みを浮かべて整備室の奥へ行ってしまった。


「はいはい」


 竹中隊長は呟くと、新隊員に向き直る。


「次は Extract-ion wearエクストラクトイオンウェア を開発したウォーリア研究室へ向かう」



 竹中隊長と風間佑都隊員の先導の下、ウォーリア研究室を訪れる。ウォーリア研究室で隊員たちが着る Extract-ion wearエクストラクトイオンウェア の性能と注意点について説明が行われた。ウォーリアの特性を考慮した電気器官である発電細胞の働きの正常化を維持するため、脳と電気細胞の検査をし、フィジカルトレーナーや医師と連携していくことが不可欠となる。


 また、戦場で悲惨な光景を目の当たりにするため、精神疾患を患う人も少なくないことから、メンタルケア専門の精神科医も常駐しているようだ。1ヶ月に1回は精神科医との面談が必須となってくる。


 その途中、風間が竹中隊長に「隊長、そろそろ」と耳打ちをする。

 竹中隊長はウォーリア研究室の眩しいくらいの白の部屋の壁にかけられた時計を見やり、「そうだな」と零し、隊員たちに向き直る。


「また保管室に集まってくれ。時間は午後3時。今度は実際に機体スーツを着て、基本的な操作方法を覚えてもらう。講師は攻電即撃部隊ever2にしてもらう予定だ。じゃ、解散」


 覇気のない声で要件を伝えると、竹中隊長はさっさとウォーリア研究室を出てしまった。風間が去り際に、「必ず Extract-ion wearエクストラクトイオンウェア を着て集まってください」と補足し、丁寧なお辞儀をして竹中隊長の後をついていく。

 ふわっと終わってしまったことに顔を見合わせる新隊員たちは、困惑の面持ちを携えてウォーリア研究室を出た。

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