第16話 方法

みりっ、みりみりっ、みりみりみりみりみりっ、、、肉が、電車に挽かれミンチにされるような音を立てて、宮野の腹部の中心、へそのあたりから潰れた内臓をぶら下げながら、放射線状に裂けて広がってゆく。その様は肉でできた蜘蛛の巣のように見えた。


「ひ、ひぃぃぃぃぃーーー!!!」


あまりの激痛に、顎が外れ眼球が飛び出す宮野、つい数か月前、街中で見つけた可愛らしい女子高校生を手下の部屋に監禁し、鬼畜の所業を行っていた殺人者だ。自らが絶望に追いやった女子高生の悪夢を数か月にわたって見続け、セメントを吐き出してから数日後の出来事であった。


何もない鈍色をした無機質な独居房の中で、宮野が腹からゆっくりじわじわと裂けていく、痛みと恐怖で床をのた打ち回る。そして、独居房は血と臓物と便と尿にまみれた地獄絵図と化した。


のた打ち回りながら引き裂かれていく宮野を、女が、神職のような白い服を着た女が、その眼下に見下ろしている。透明で、くっきりとして、凛として、繊細なガラス細工のようなとても魅力的な顔立ちをしていた。


しかし、その表情は凍結する間際の湖面のように冷淡そのもので、その瞳からは墨をひいた曇天の夜空のように何の思考も感じられない。白い、おそらく袴であろう服の中央には赤黒い大きなしみがついている。そして、その傍らには脳天から頭が割れている幼児と、全身かさぶたと痣と膿にまみれた裸身の少女が楽しそうに微笑みながら立っているのだった。


その他にも多数の死者たちの群れが、静かに、苦しみに身悶えている宮野を見下ろしている。すると、宮野の首の中央部に赤い横一本の亀裂が入る。しかしもはや宮野は痛みを感じるにはあまりに体の損傷が激しすぎて麻痺していた。そして少しでも懲罰の手が緩んでしまっている、その事実に気が付いた損壊した少女は、少し悲しげな顔をした。それを感じた白い服の美しい女は宮野を一瞥した。


すると、宮野の首が右から徐々に体を離れていく、死直前の脳内麻薬で痛みを感じていなかった宮野も、それを超える苛烈な拷問に再度激越な痛みを感じだし、声にならない叫びをあげた。


「ぎ、ぎぎぎぎぎ、ぎぎ、ぎぎぎぃぃぃぃーーーーーー、、、、、、」


しかし、その叫びも長くは続かなかった。気道が、首と身体に分かれつつあったからである。ひゅ~、ひゅ~、ひゅ~、規則正しい肺の動きが二酸化炭素を吐き出す。そして、その動きも宮野の目の輝きの失いとともに徐々に無くなって行こうとしていた。


性器をメタメタの破壊された少女が、宮野の処刑を見ていて自身に起こった悲劇を思い出したのか憎しみの形相をする。それを感じた神職の女は、死体になりかかっている宮野を睨んだ。


ぴゅらっ!ぴゅらららららららららっっ!!ぴゅひゅーん!!!


事切れる寸前の宮野は、全身微塵に砕け潰れ、人間とは識別できない肉片に形を変えた。なぜか首だけは、彼自身にその処刑現場を死ぬ寸前まで見続けさせるためか残されていた。


宮野への処罰が終わったのち、冷静な顔を取り戻した痛ましい裸身の少女と、頭蓋が損壊している男の子と、他数人の死人たちは、また元の、死者そのもののような顔つきをして、徐々にこの独房から姿を消して行った。


・・・・・・


その瞬間、宮野は目を覚ます。周りはコールタールのように真っ黒で、どこをどう見渡してもまったく何も見えない。どちらが天井でどちらがその逆なのかすらさっぱり分からない。方角と距離のない暗黒の空間に突然放り込まれた宮野は、寸前に自分の身に起こった出来事とその狂気を思い出し、大慌てで両の手で体をまさぐる。あ、ある、お、おれの身体が。。。さ、さっきのは夢か何かだったのか。。。


すると、つい数秒前凄惨に殺された彼の眼前に、あたかも再生動画のようにさきほどの自身の無様な死に様が一瞬の内に再現され繰り広げられた。部屋中を覆う汚物と内臓と血と、そして彼を憎しみを込めて見つめる死者たち。宮野は首だけの姿で否応なく繰り返し繰り返しその光景を見続ける。


ひ、ひ、ひひぃぃぃ~~!!!


繰り返し繰り広げらえる自分自身の解体と、凄絶な痛みの記憶を思い出し宮野は発狂しそうになる。


そして、どこにあるのかも分からない遠くから、それを恐慌の眼差しで見ている人間がそこかしこにいた。


短い金髪の刃渡り30cmのサバイバルをナイフを持ち全身血まみれの子男、190cm、120kgを超える脂肪と筋肉に包まれたマウンテンゴリラのような巨漢、極端な三白眼と傲岸そうなえらの張った顎を持つ太った小男、一癖も二癖もありそうな様子の者ばかりだ。距離は100m先なのだろうか、1km先なのだろうか、目と鼻の先なのだろうか、相変わらず全くつかめない。しかし、どんなに物理的に遠くに離れていようとも、宮野のその凄惨な光景は彼らの眼にはっきりと焼き付いているようだった。


宮野はあまりの惨事に恐慌を来たし、後ろへ逃げ去ろうとする。三歩ほど走った。右足下の地面がない。バランスを崩し真っ逆さまに奈落の底に落ち込んでいった。

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