第8話 収容所
―――工場にて―――
「むかつくな~!お前のせいで立ち上がらんだろうが~!!くそ野郎が~!!!」
敏文が退社する定刻夜7時の少し前の、定例になっている敏文の罵倒だった。今日も俊介の机や椅子を蹴り飛ばして脅している。
「明日までにやっとけよ!!!」
岩石のような右のこぶしで机が壊れんばかりに強く叩く。俊介はその一言一言に地獄の銅鑼鐘が鳴りだしたかのような恐怖を覚える。解雇の脅し、人格攻撃、証拠の残らない暴力、ありとあらゆる手段を巧妙に使い徐々に縛り上げ、自身の精神的奴隷にしていく持って生まれた悪の術。お決まりの作法を一通り行うと、そそくさと成金趣味の青のプジョーに乗って帰宅する。
そして、生真面目でひたむきな俊介は、まんまと敏文の術中に落ちてしまっている。深夜の工場に一人残された彼は今日もまた精神力と体力の限界を超えて生産設備のソフトのデバッグにかかる。現実離れした納期を突き付けられ、それを仕上げるために今日も徹夜だ。新規生産ライン設備群の制御プログラミングというのはとても神経のいる作業だ、とても無理やり連日徹夜で実施するような類の仕事ではなかった。
―――翌朝―――
工場の設備の片隅で、必死の思いでプログラムデバッグ作業を終え、くずおれている俊介の後ろを敏文が通る。
「あれ、こんなに早くどうしたの俊介くん。体大丈夫。無理しちゃだめだよ~。」
感情のこもらない取ってつけたようなセリフ、すぐに闊歩して立ち去る。お前が翌朝までにやっておけと言ったんだろうが、と健全な精神を持っている者なら反駁したくもなるところであったが、度重なる言葉による暴力と周りを殴ったり蹴ったりしての威嚇、そして度重なる徹夜と連続数十時間に及ぶ超過重労働により精神を破壊されてしまった俊介は、思考力、判断力も停止したまま、ただただ、すべてを自身の不手際に転嫁するのみであった。
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